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この度、ご縁があり、『交渉の戦略~孫子の哲学が導く意思決定の技術』(セルバ出版)という本を出す運びとなりました(3月4日予定)。
簡単に言うと、最古の兵法書とされる『孫子』を読みながら、それを交渉学の言葉を置き換えて理解しようと試みたものです。
『孫子』、その知恵が持つ普遍性から、軍事、外交、ビジネス、自己啓発など幅広い層に支持され、今日まで根強い人気があります。僕も初めて『孫子』を読んだのは中学生の頃だったかと記憶しています。その後、『孫子』について時間をかけて学ぶ機会もありました。
ところで、現代に生きる私たちが『孫子』を読むとき、それ自体は今日の日常とは程遠い古代の戦争のやり方について書かれた書であるため、多かれ少なかれ自身に身近な話題に置き換えて理解しているだろうと思います。 その置き換えのバリエーションは無数にあり、いかようにも応用できることが『孫子』のような古典を読むときの魅力の一つだと思っているのですが、反面、そのために13篇から構成される『孫子』の理論的つながりが失われてしまう欠点もあります。この欠点を補うため、何か置き換えるのに一つのテーマで読むことができたら、という思いはかなり若い時分から自分の中にありました。
そこで1篇から13篇まで一気通貫して当てはめられるテーマとして選んだのが「交渉」の理論および研究である「交渉学」だったのです。一方で交渉学は、扱う範囲が非常に幅広いため体系立てて整理するのが難しいという欠点があります。それならば、理論の全部でなくても重要な部分を逆に『孫子』の体系に当てはめることで、理解しやすく整理することができ、そこから学べる知恵を日常の実践の場に応用しやすくなるのではないかと考えました。結果として、本書は『孫子』というより専ら「交渉学」に関する内容になっています。
実は交渉は、私たちにとって大変身近なテーマです。恐らく全く交渉と無縁の生活をしている人というのはほとんどいないのではないかと思います。そういう意味では、「兵法書」とか「交渉」とか、何やら難しいことを扱っているようですが、その言わんとするところは意外と幅広い人にとって日常的な内容なのではないかと思います。ただ、取り上げたのが個人の経験やテクニックとしての交渉ではなく、あくまでアメリカを中心に研究されている学問としての交渉(交渉学)であるという点は、ちょっと変わってはいますが。そして、僕が取り組んでいるもう一つの分野である「表情分析」も一部に盛り込んでいます。
2024年の4月末から執筆を開始し、9月初めに初稿が書きあがりました。初めはお世話になっている日本交渉協会が配信しているPodcastの番組『トレードオンの交渉学』の原稿として書いたものですが、さまざまなお力があって書籍化という形になりました。いざ本にするとなると、何から何まで初めてのことで、どうすればよいのか分からないことだらけです。出版に至るまで半年余りの間、本当にたくさんの方々にご支援を頂き、またご迷惑をおかけしてしまいました。とりわけ出版社の皆様には大変なご苦労をおかけしました。この場を借りてお詫びと感謝を申し上げます。
繰り返しになりますが、本書は『孫子』の現代語訳や解説本ではありません。それらについては、多くの優れた書籍がありますので、『孫子』そのものに関心のある方はそちらをご覧ください。本書が「交渉学」の一端をご紹介する機会となれば幸いです。
繻るに衣袽あり、ぼろ屋の窪田でした
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