「麻生三郎展」 東京国立近代美術館

東京国立近代美術館千代田区北の丸公園3-1
「麻生三郎展」
11/9-12/19



かつては靉光や松本竣介らと「新人画会」を結成し、その後も「絵画の本質を粘り強く探求し続けてきた」(ちらしより引用)画家、麻生三郎(1913-2000)の業績を回顧します。東京国立近代美術館で開催中の「麻生三郎展」へ行ってきました。

展覧会の構成は以下の通りです。

第1章 闇の中で光を見つめる 1934-1953
第2章 赤い空の下で 1954-1960
第3章 内と外の軋(きし)み 1961-1994

主に麻生の画風の変遷にあわせ、その業績を時系列で追う内容となっていました。


「自画像」 1935年 神奈川県立近代美術館

展示冒頭に登場するのは、麻生が画業初期に描いた自画像です。大きく見開いた目で前を見据える様子は、どこかあどけないながらも強い意志が感じられます。またこの時期の彼はこうした自身の姿の他、妻や身近な人物を多く描きました。後半生を通し、麻生の一貫したモチーフはあくまでも人間そのものであったようです。


「男」 1940年 茨城県立近代美術館

比較的早い頃の風景画や静物画などは、いわゆる抽象性の高い戦後の作品からすると意外な印象を受けるかもしれません。麻生は1938年に渡仏して写実を学び、時に佐伯祐三やブラマンクを思わせる作品を展開しました。「アマリリス」(1943年)には目が釘付けです。鮮やかな色彩と力強い線描は快活で、生命讃歌にも満ちあふれていました。

母子を描いた作品が多数登場します。大きな手でしっかりと我が子を抱く「母子」(1948年)からは、西洋の伝統的な聖母子のモチーフにも似たような慈しみの精神を感じました。


「赤い空」 1956年 東京国立近代美術館

麻生の色として印象に深いのはやはり赤ではないでしょうか。彼は戦後の復興の進む街の景色を赤にまとめて描き続けます。「赤い空というのは人間の体臭のようなそして触覚的な風景である。」という麻生の言葉も心に響きました。


「りょうはしの人」 1992年 神奈川県立近代美術館

60年代以降は麻生の独擅場です。きしみ、また歪み、さらには混沌とした色彩の中でちぎれるようにうごめく人間は、何かを訴えかけるようにただ目だけをこちらに向けていました。

麻生の回顧展は画家生前の94年~95年以来、約15年ぶりのことだそうです。油彩、素描、また一部の立体など計134点にも及ぶ作品は、彼の全貌を紹介するのに全く不足ありませんでした。(出品リスト


「家族」 1959年 福島県立近代美術館

いわゆる「重い」展覧会であるのは間違いありませんが、見終えた後、不思議と打ちのめされると言うよりも、むしろ画家の生きることへの真摯な眼差しを感じました。繰り返される母子像のモチーフは当然のこと、混沌とした後半生の作品からも、人間の存在を肯定するような「生の気配」(ちらしより引用)が確かに感じられます。

12月19日までの開催です。なお東京展終了後、京都国立近代美術館(2011/1/5~2/20)と愛知県美術館(2011/4/29~6/12)へと巡回します。
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