都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「アルブレヒト・デューラー版画・素描展」 国立西洋美術館
国立西洋美術館(台東区上野公園7-7)
「アルブレヒト・デューラー版画・素描展 宗教/肖像/自然」
2010/10/26-2011/1/16
国立西洋美術館で開催中の「アルブレヒト・デューラー 版画・素描展」へ行ってきました。
まずは展覧会の構成です。
第1章 宗教
第2章 肖像
第3章 自然
デューラー芸術に重要な3つのテーマのもとに、計157点もの版画・素描作品が一同に展示されていました。
ともかく何かと情報量の多いデューラーの版画が150点超も並ぶ展覧会です。既に会期を終えた芸大美の「黙示録展」もなかなか壮観でしたが、こちらも見終えると殆ど疲労感さえ覚えるほどのスケールで圧倒されました。
一点一点の感想を書いていくとキリもありません。展示の全体より私として特に印象に残ったポイントを挙げてみます。
ライトモチーフとしての水彩画
「受胎告知」1503年頃 ペン、褐色インク、水彩 ベルリン国立版画素描館
展示冒頭を飾るのは、受胎告知のシーンを描いたデューラーの水彩です。例えば建物内部の陰影を象る描線などはデューラーならではの緻密なものでしたが、水彩の軽やかな質感は大きく時代を越えてかのモローを彷彿させる面もありました。
聖母伝と銅版画受難伝
「聖母の婚約」1504-05年頃 木版 国立西洋美術館
展示が3つのテーマに分かれているとは言え、ともかく質量ともに見応えがあるのは初めの「宗教」でしたが、中でもこの2つのシリーズは圧巻の一言でした。前者はデューラーがヴェネツィアで学んだローマ風の空間に聖母のモチーフが描かれた作品で、遠近法も多用して臨場感溢れる表現に挑戦しています。
「騎士と死と悪魔」1513年 エングレーヴィング 国立西洋美術館
後者はお馴染みのエングレーヴィングの作品です。小画面の中で無数に走る線描は驚くほどに細かく、単眼鏡というより虫眼鏡にでもかざして見たいと思ってしまいました。
神聖ローマ皇帝マクシミリアン1世の凱旋門
「マクシミリアン1世の凱旋門」1515-17年 木版 メルボルン国立ヴィクトリア美術館
地下2階(第2章肖像)へと進むと思わず仰け反ってしまいました。縦3.4m、横2.9メートルにも及ぶ巨体版画、「神聖ローマ皇帝マクシミリアン1世の凱旋門」が高らかに掲げられています。そもそもこの作品は共作で、全てデューラーの手によって描かれたわけではありませんが、木版49枚という圧倒的スケールには度肝を抜かれてしまいました。
なお会場では単にこの作品を一点だけで展示することなく、マクシミリアンの肖像の他、解説パネルなどで、この凱旋門プロジェクトの全体像についても言及されています。
こうした皇帝を初め、デューラーの周囲の人物たちに焦点を当てることで、改めて彼の制作の全体像を示す工夫がなされていました。
自然への眼差し
「聖アントニウス」1519年頃 エングレーヴィング メルボルン国立ヴィクトリア美術館
最後はデューラーにおける「自然に対する飽くなき情熱」(美術館ニュースより引用。)を問いただします。もちろんここでも宗教的な主題の作品が目立つわけですが、その中でも「バッタのいる聖家族」や「猿のいる聖母子」など、昆虫や動物のモチーフが随所に表れていました。
今回の図録がまた非常に充実しています。詳細極まりないテキストは展示の理解を深めるのではないでしょうか。自信をもっておすすめしたい一冊です。
結局、2時間ほどは会場内にいたかもしれません。充実した版画展は悪い意味でなく体力を消耗します。今回ほど休憩用のソファーが有り難く思えたこともありませんでした。
講演会:「デューラーにおける名声のメカニズム」
2011年1月9日(日)14:00~15:30
秋山聰(東京大学准教授)
*先着140名(聴講無料。)当日12:00より、館内インフォメーションにて聴講券を配付。
来年1月16日までの開催です。おすすめします。
「アルブレヒト・デューラー版画・素描展 宗教/肖像/自然」
2010/10/26-2011/1/16
国立西洋美術館で開催中の「アルブレヒト・デューラー 版画・素描展」へ行ってきました。
まずは展覧会の構成です。
第1章 宗教
第2章 肖像
第3章 自然
デューラー芸術に重要な3つのテーマのもとに、計157点もの版画・素描作品が一同に展示されていました。
ともかく何かと情報量の多いデューラーの版画が150点超も並ぶ展覧会です。既に会期を終えた芸大美の「黙示録展」もなかなか壮観でしたが、こちらも見終えると殆ど疲労感さえ覚えるほどのスケールで圧倒されました。
一点一点の感想を書いていくとキリもありません。展示の全体より私として特に印象に残ったポイントを挙げてみます。
ライトモチーフとしての水彩画
「受胎告知」1503年頃 ペン、褐色インク、水彩 ベルリン国立版画素描館
展示冒頭を飾るのは、受胎告知のシーンを描いたデューラーの水彩です。例えば建物内部の陰影を象る描線などはデューラーならではの緻密なものでしたが、水彩の軽やかな質感は大きく時代を越えてかのモローを彷彿させる面もありました。
聖母伝と銅版画受難伝
「聖母の婚約」1504-05年頃 木版 国立西洋美術館
展示が3つのテーマに分かれているとは言え、ともかく質量ともに見応えがあるのは初めの「宗教」でしたが、中でもこの2つのシリーズは圧巻の一言でした。前者はデューラーがヴェネツィアで学んだローマ風の空間に聖母のモチーフが描かれた作品で、遠近法も多用して臨場感溢れる表現に挑戦しています。
「騎士と死と悪魔」1513年 エングレーヴィング 国立西洋美術館
後者はお馴染みのエングレーヴィングの作品です。小画面の中で無数に走る線描は驚くほどに細かく、単眼鏡というより虫眼鏡にでもかざして見たいと思ってしまいました。
神聖ローマ皇帝マクシミリアン1世の凱旋門
「マクシミリアン1世の凱旋門」1515-17年 木版 メルボルン国立ヴィクトリア美術館
地下2階(第2章肖像)へと進むと思わず仰け反ってしまいました。縦3.4m、横2.9メートルにも及ぶ巨体版画、「神聖ローマ皇帝マクシミリアン1世の凱旋門」が高らかに掲げられています。そもそもこの作品は共作で、全てデューラーの手によって描かれたわけではありませんが、木版49枚という圧倒的スケールには度肝を抜かれてしまいました。
なお会場では単にこの作品を一点だけで展示することなく、マクシミリアンの肖像の他、解説パネルなどで、この凱旋門プロジェクトの全体像についても言及されています。
こうした皇帝を初め、デューラーの周囲の人物たちに焦点を当てることで、改めて彼の制作の全体像を示す工夫がなされていました。
自然への眼差し
「聖アントニウス」1519年頃 エングレーヴィング メルボルン国立ヴィクトリア美術館
最後はデューラーにおける「自然に対する飽くなき情熱」(美術館ニュースより引用。)を問いただします。もちろんここでも宗教的な主題の作品が目立つわけですが、その中でも「バッタのいる聖家族」や「猿のいる聖母子」など、昆虫や動物のモチーフが随所に表れていました。
今回の図録がまた非常に充実しています。詳細極まりないテキストは展示の理解を深めるのではないでしょうか。自信をもっておすすめしたい一冊です。
結局、2時間ほどは会場内にいたかもしれません。充実した版画展は悪い意味でなく体力を消耗します。今回ほど休憩用のソファーが有り難く思えたこともありませんでした。
講演会:「デューラーにおける名声のメカニズム」
2011年1月9日(日)14:00~15:30
秋山聰(東京大学准教授)
*先着140名(聴講無料。)当日12:00より、館内インフォメーションにて聴講券を配付。
来年1月16日までの開催です。おすすめします。
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