都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「印象派を超えてー点描の画家たち」 国立新美術館
国立新美術館
「クレラー=ミュラー美術館所蔵作品を中心に 印象派を超えてー点描の画家たち ゴッホ、スーラからモンドリアンまで」
10/4-12/23

国立新美術館で開催中の「印象派を超えてー点描の画家たち」を見てきました。
「点描」に「ゴッホ、スーラからモンドリアン」。大画家の名が並ぶタイトル。確かに点描がキーワード、いずれの画家も展示で重要な地位を占めています。しかしながらそれだけでは語れないのがこの展覧会の面白いところではないでしょうか。
というのも、本展で最も注目すべきなのはフランス国外、ベルギーとオランダにおける分割主義の画家だからです。
名前を挙げればレイセルベルへにヴァン・ド・ヴェルド、そしてトーロップにプリッカー、さらにブレマーとレオ・ヘステル。ブリュッセルの芸術家グループ「20人会」で活動したメンバーが中心です。実際の出品作から見ても全100点のうち40点余り。かなりの割合を占めています。
さて何故にこれほどベルギーとオランダの画家が出てくるのか。その一つの理由が本展は主にオランダの誇るクレラー=ミュラー美術館のコレクションで構成されていることです。
そもそも美術館の設計を行ったのは建築家でもあったアンリ・ヴァン・ド・ヴェルド。そして美術館のコレクションの形成に大きな役割を果たしたのはヘンドリクス・ペトルス・ブレマー。特にブレマーは美術評論家としても活動し、クレラー=ミュラー夫妻の作品購入に際して数々の助言を行ったそうです。

アンリ・ヴァン・ド・ヴェルド「夕暮れ」1889年頃 クレラー=ミュラー美術館
両者の作品を挙げてみましょう。まずはヴェルド。「夕暮れ」(1889年頃)はどうでしょうか、空に建物、そして手前の地面の三層に色面を分割したかのような構図。とぼとぼ歩くのは老婆なのか。縦に伸びる木もアクセント。そしてこれらはいずれも細かな絵具の粒、ようは点描で表されています。

ヘンドリクス・ペトルス・ブレマー「石炭入のある食器洗い場の眺め」1899年 クレラー=ミュラー美術館
ブレマーでは「石炭入のある食器洗い場の眺め」(1899年)が印象的です。何やら日本の家屋でも連想させるような室内風景。淡い色調はいずれも点描によるもの。しかしこの細かさ。遠目からでは点描とは分かりません。

テオ・ファン・レイセルベルへ「7月の朝」1890年 クレラー=ミュラー美術館
その他にはパステル風の明るい色合いで戸外のピクニックを描いたレイセルベルへの「7月の朝」(1890年)なども見どころ。筆致が心なしかスーラよりものびやかです。こうした日本ではあまり知られていない画家の展開。興味深いものがありました。

ポール・シニャック「ダイニングルーム、音楽作品152」1886-87年 クレラー=ミュラー美術館
さてスーラとシニャック。出品はぞれぞれ5点と7点です。まずはシニャックから。初期作で目立っていたのが「ダイニングルーム」(1886-87年)。年老いた夫婦のティータイムなのか。右手前にはでっぷりとした初老の男性が葉巻を持ってくつろぐ姿。そして窓を背にした婦人がカップを口元に寄せてお茶を飲もうとしている。何やら古典的な絵画を思わせるモチーフですが、いうまでもなくシニャックはこれを点描にて表しました。

ジョルジュ・スーラ「マフをはめた女性」1884年頃 クレラー=ミュラー美術館
スーラではクレヨンによる小品が思いの外に魅力的です。一例が「マフをはめた女性」(1884年頃)。細かな描線で象られた横向きの女性の影。光が滲むような白い部分とのコントラストが際立ちます。
またこの二人と同じくフランス生まれのマクシミリアン・リュスも面白い画家ではないでしょうか。労働者階級に育ち、無政府主義にも賛同したという彼は、時に人間の労働を見つめた絵画を制作。中でも「鋳鉄工場」(1899年)は迫力の一枚です。火焔に包まれて格闘する男たちの荒々しい姿。光と影のドラマテックな対比。モニュメンタルですらあります。

フィンセント・ファン・ゴッホ「レストランの内部」1887年 クレラー=ミュラー美術館
ゴッホは10点ほど出ていました。チラシ表紙を飾る「種まく人」(1888年)も充実していましたが、分割主義との関わりとしては「レストランの内部」(1887年)もポイントです。白いクロスのかかったテーブルが並ぶレストランの一室。壁が点描です。

ピート・モンドリアン「赤と黄と青のあるコンポジション」1927年 クレラー=ミュラー美術館
ラストはモンドリアン。早い段階の具象画から三原色のコンポジションへ。時系列での8点の出品でした。

アルフレッド・シスレー「舟遊び」1877年 島根県立美術館
なお冒頭には印象派絵画も登場します。いずれも国内所蔵で6点です。(本展は必ずしも全てクレラー=ミュラー美術館の所蔵品ではありません。)うち嬉しいのは私の好きなシスレーが3点あったこと。確かにシスレーは点描的な筆致を巧みに用いています。とりわけセーヌ川沿い、パリ近郊の町シュレーヌを明るい色遣いで描いた「舟遊び」(1877年)には惹かれました。
オランダの美術館の視点で追った点描と色彩表現の変遷。ラストにモンドリアンを提示するなど切り口も個性的です。楽しめました。
会場内はなかなか盛況でした。12月23日まで開催されています。
[巡回予定]
広島県立美術館 2014年1月2日(木)~2月16日(日)
愛知県美術館 2014年2月25日(火)~4月6日(日)
「クレラー=ミュラー美術館所蔵作品を中心に 印象派を超えてー点描の画家たち ゴッホ、スーラからモンドリアンまで」 国立新美術館(@NACT_PR)
会期:10月4日(金)~12月23日(月・祝)
休館:毎週火曜日。
時間:10:00~18:00 *金曜日は20時まで開館。
料金:一般1500(1300)円、 大学生1200(1000)円、高校生800(600)円。中学生以下無料。
*( )内は20名以上の団体料金。
*10/5(土)~11/24(日)までの土・日・祝は高校生無料観覧日(要学生証)
住所:港区六本木7-22-2
交通:東京メトロ千代田線乃木坂駅出口6より直結。都営大江戸線六本木駅7出口から徒歩4分。東京メトロ日比谷線六本木駅4a出口から徒歩5分。
「クレラー=ミュラー美術館所蔵作品を中心に 印象派を超えてー点描の画家たち ゴッホ、スーラからモンドリアンまで」
10/4-12/23

国立新美術館で開催中の「印象派を超えてー点描の画家たち」を見てきました。
「点描」に「ゴッホ、スーラからモンドリアン」。大画家の名が並ぶタイトル。確かに点描がキーワード、いずれの画家も展示で重要な地位を占めています。しかしながらそれだけでは語れないのがこの展覧会の面白いところではないでしょうか。
というのも、本展で最も注目すべきなのはフランス国外、ベルギーとオランダにおける分割主義の画家だからです。
名前を挙げればレイセルベルへにヴァン・ド・ヴェルド、そしてトーロップにプリッカー、さらにブレマーとレオ・ヘステル。ブリュッセルの芸術家グループ「20人会」で活動したメンバーが中心です。実際の出品作から見ても全100点のうち40点余り。かなりの割合を占めています。
さて何故にこれほどベルギーとオランダの画家が出てくるのか。その一つの理由が本展は主にオランダの誇るクレラー=ミュラー美術館のコレクションで構成されていることです。
そもそも美術館の設計を行ったのは建築家でもあったアンリ・ヴァン・ド・ヴェルド。そして美術館のコレクションの形成に大きな役割を果たしたのはヘンドリクス・ペトルス・ブレマー。特にブレマーは美術評論家としても活動し、クレラー=ミュラー夫妻の作品購入に際して数々の助言を行ったそうです。

アンリ・ヴァン・ド・ヴェルド「夕暮れ」1889年頃 クレラー=ミュラー美術館
両者の作品を挙げてみましょう。まずはヴェルド。「夕暮れ」(1889年頃)はどうでしょうか、空に建物、そして手前の地面の三層に色面を分割したかのような構図。とぼとぼ歩くのは老婆なのか。縦に伸びる木もアクセント。そしてこれらはいずれも細かな絵具の粒、ようは点描で表されています。

ヘンドリクス・ペトルス・ブレマー「石炭入のある食器洗い場の眺め」1899年 クレラー=ミュラー美術館
ブレマーでは「石炭入のある食器洗い場の眺め」(1899年)が印象的です。何やら日本の家屋でも連想させるような室内風景。淡い色調はいずれも点描によるもの。しかしこの細かさ。遠目からでは点描とは分かりません。

テオ・ファン・レイセルベルへ「7月の朝」1890年 クレラー=ミュラー美術館
その他にはパステル風の明るい色合いで戸外のピクニックを描いたレイセルベルへの「7月の朝」(1890年)なども見どころ。筆致が心なしかスーラよりものびやかです。こうした日本ではあまり知られていない画家の展開。興味深いものがありました。

ポール・シニャック「ダイニングルーム、音楽作品152」1886-87年 クレラー=ミュラー美術館
さてスーラとシニャック。出品はぞれぞれ5点と7点です。まずはシニャックから。初期作で目立っていたのが「ダイニングルーム」(1886-87年)。年老いた夫婦のティータイムなのか。右手前にはでっぷりとした初老の男性が葉巻を持ってくつろぐ姿。そして窓を背にした婦人がカップを口元に寄せてお茶を飲もうとしている。何やら古典的な絵画を思わせるモチーフですが、いうまでもなくシニャックはこれを点描にて表しました。

ジョルジュ・スーラ「マフをはめた女性」1884年頃 クレラー=ミュラー美術館
スーラではクレヨンによる小品が思いの外に魅力的です。一例が「マフをはめた女性」(1884年頃)。細かな描線で象られた横向きの女性の影。光が滲むような白い部分とのコントラストが際立ちます。
またこの二人と同じくフランス生まれのマクシミリアン・リュスも面白い画家ではないでしょうか。労働者階級に育ち、無政府主義にも賛同したという彼は、時に人間の労働を見つめた絵画を制作。中でも「鋳鉄工場」(1899年)は迫力の一枚です。火焔に包まれて格闘する男たちの荒々しい姿。光と影のドラマテックな対比。モニュメンタルですらあります。

フィンセント・ファン・ゴッホ「レストランの内部」1887年 クレラー=ミュラー美術館
ゴッホは10点ほど出ていました。チラシ表紙を飾る「種まく人」(1888年)も充実していましたが、分割主義との関わりとしては「レストランの内部」(1887年)もポイントです。白いクロスのかかったテーブルが並ぶレストランの一室。壁が点描です。

ピート・モンドリアン「赤と黄と青のあるコンポジション」1927年 クレラー=ミュラー美術館
ラストはモンドリアン。早い段階の具象画から三原色のコンポジションへ。時系列での8点の出品でした。

アルフレッド・シスレー「舟遊び」1877年 島根県立美術館
なお冒頭には印象派絵画も登場します。いずれも国内所蔵で6点です。(本展は必ずしも全てクレラー=ミュラー美術館の所蔵品ではありません。)うち嬉しいのは私の好きなシスレーが3点あったこと。確かにシスレーは点描的な筆致を巧みに用いています。とりわけセーヌ川沿い、パリ近郊の町シュレーヌを明るい色遣いで描いた「舟遊び」(1877年)には惹かれました。
オランダの美術館の視点で追った点描と色彩表現の変遷。ラストにモンドリアンを提示するなど切り口も個性的です。楽しめました。
会場内はなかなか盛況でした。12月23日まで開催されています。
[巡回予定]
広島県立美術館 2014年1月2日(木)~2月16日(日)
愛知県美術館 2014年2月25日(火)~4月6日(日)
「クレラー=ミュラー美術館所蔵作品を中心に 印象派を超えてー点描の画家たち ゴッホ、スーラからモンドリアンまで」 国立新美術館(@NACT_PR)
会期:10月4日(金)~12月23日(月・祝)
休館:毎週火曜日。
時間:10:00~18:00 *金曜日は20時まで開館。
料金:一般1500(1300)円、 大学生1200(1000)円、高校生800(600)円。中学生以下無料。
*( )内は20名以上の団体料金。
*10/5(土)~11/24(日)までの土・日・祝は高校生無料観覧日(要学生証)
住所:港区六本木7-22-2
交通:東京メトロ千代田線乃木坂駅出口6より直結。都営大江戸線六本木駅7出口から徒歩4分。東京メトロ日比谷線六本木駅4a出口から徒歩5分。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )