都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「五線譜に描いた夢ー日本近代音楽の150年」 東京オペラシティアートギャラリー
東京オペラシティアートギャラリー
「五線譜に描いた夢ー日本近代音楽の150年」
10/11-12/23
東京オペラシティアートギャラリーで開催中の「五線譜に描いた夢ー日本近代音楽の150年」を見てきました。
幕末より現代まで、時に社会や政治情勢と関わりながら歩み続けてきた日本の近代音楽。その流れを楽譜や楽器の他、資料に映像、また「音」で辿っていく。いわゆる美術館にてこうした展覧会が開催されたことは殆どなかったかもしれません。
そこを武満の名を冠したコンサートホールを持つオペラシティが実現。日本の近代音楽史の150年を一挙に総覧します。
出品は明治学院大学日本近代音楽館の所蔵資料を中心とした全300点。かなり見応えがありました。
さて初めは幕末です。シーボルトとも親しかったという蘭学者、宇田川榕菴の記した「大西楽律考」は、国内における西洋音楽の最初の本。またペリー来航時にやってきた軍楽隊の奏でた音楽は、まさに当時の日本人が殆ど初めて耳にする西洋の響き。明治維新後、政府が近代軍隊を導入する過程においても、当然ながら軍楽隊を整備します。
東京音楽学校編「中等唱歌集」 1889年 日本近代音楽館
また欧化政策は当然ながら音楽にも及びます。鹿鳴館でのコンサートはもとより、唱歌集や軍歌などによって、西洋音楽は一気に人々の身近なものとなっていきました。
島崎藤村がパリで足を運んだ演奏家の冊子が目を引きます。何でもバッハのマタイを聞いたとか。ちなみに日本における本格的なオペラ公演は1903年、グルック作曲の「オルフェオとエウリディーチェ」です。さらに会場には日本人が最初に制作したピアノなどの楽器もあわせて展示。またドイツに留学し、純正調オルガンを発明した田中正平の取り組み(日本の伝統的な音楽を五線譜に置き換えたそうです。)なども紹介されていました。
絵画では彭城貞徳の「和洋合奏之図」にも注目。時は明治39年。畳の上で和装の女性たちが座布団の上に座りながらヴァイオリンを奏でる姿が描かれています。明治期の日本人と西洋音楽の関わりを良く表した作品と言えるかもしれません。
山田耕筰「曼陀羅の華」 1913年
大正へ進みましょう。ここで重要なのは山田耕筰。ベルリン留学を果たし、帰国後、作曲や指揮活動へ積極的に取り組んだ彼の功績がクローズアップされています。
中山晋平「ゴンドラの唄」(セノオ・新小唄3) 1916年 日本近代音楽館
また大正期に一大ムーブメントを起こしたのは浅草オペラです。庶民も熱を上げて接したという浅草オペラ。ヒロインの歌う流行のアリアは楽譜としても発売。かの夢二が装丁画を描いた楽譜も人気を呼んだそうです。
いわゆる音楽批評が誕生したのもこの時期のことです。中でも知られるのがロンドンへの留学経験を持つ大田黒元雄。来日したプロコフィエフとも親交があったという彼は、評論活動とともに、様々な西洋音楽を日本に紹介します。
「音楽報国挺身隊腕章」 1943年 個人蔵
一方で昭和に入り、戦争の色が濃くなると、「音楽は軍需品」という言葉にも象徴されるように、国家が音楽へ介入する様が露骨になってきます。
その最たる例が1940年に行われた紀元二千六百年奉祝楽曲発表会。いわゆる皇紀2600年を祝して開催された一大イベントです。政府はアメリカ、イギリス、イタリア、ドイツ、フランス、ハンガリーの6カ国に奉祝曲の作曲を依頼。対日関係が極めて悪化していたアメリカを除く5カ国が曲を提供します。(イギリスはブリテンが「シンフォニア・ダ・レクイエム」を提供しましたが、演奏されることはありませんでした。)
R.シュトラウス「日本の皇紀二千六百年祭のための祝典音楽」 1940年 日本近代音楽館
ドイツからはかの大作曲家R.シュトラウス。曲名もずばり「祝典音楽 紀元二千六百年奉祝」です。15分ほどの短い管弦楽曲ですが、シュトラウスはゲッペルスから直接話を受けて作曲。ベルリンの在日本大使館では自らの手でピアノを演奏し、楽譜を日本へ送りました。
会場ではその時の様子を映像で紹介。これがなかなか見せます。なお本展ではこうした映像が各セクション毎に計4つ展示。いずれもそれぞれ2~3本の映像があり、おおよそ20分ほど。全て見るとおそらくは1時間以上かかります。
またご紹介が遅れましたが、映像と同じように音源の試聴コーナーがあるのもポイントです。見て、また聞いて追いかける日本近代音楽の流れ。なかなか充実していました。
「二期会第1回オペラ公演 ラ・ボエーム プログラム」 1952年 日本近代音楽館
戦後の流れはやや駆け足気味です。実験工房から電子音楽に湯浅やら武満。それに大阪万博の音楽イベントなど。また総じて音楽と社会の関わりを強く意識しています。いわゆる音楽好き以外の方にも楽しめるのではないかと思いました。
ラストは「オーケストラの現在」です。国内のオーケストラのプログラムなどがずらりと並びます。見慣れた月刊都響やN響定期の冊子。もう一歩、それぞれの団体の活動を紹介するテキストなりがあればとは思いましたが、例えば83年の大フィルの「朝比奈隆音楽生活50周年記念プログラム」など、クラシックファンとして注目したいものもありました。
ドビュッシー「鐘」(セノオ楽譜65番) 1917年
資料、映像、試聴コーナー。私も結局2時間くらい見ていましたが、映像を一つ一つ追っていくともっと時間がかかります。余裕をもってお出かけ下さい。
会場内及び近江楽堂で行われるミニコンサートが大変に充実しています。
「関連企画:ミニコンサート」@東京オペラシティアートギャラリー
無料(要展覧会半券)とは思えないラインナップです。こちらとあわせて見るのも良いのではないでしょうか。
12月23日まで開催されています。
「五線譜に描いた夢ー日本近代音楽の150年」 東京オペラシティアートギャラリー
会期:10月11日(金)~12月23日(月・祝)
休館:月曜日。祝日の場合は翌火曜日。
時間:11:00~19:00 *金・土は20時まで開館。最終入場は閉館30分前まで。
料金:一般1000(800)円、大・高生800(600)円、中・小生600(400)円。
*( )内は15名以上の団体料金。土・日・祝は小中学生無料。
住所:新宿区西新宿3-20-2
交通:京王新線初台駅東口直結徒歩5分。
「五線譜に描いた夢ー日本近代音楽の150年」
10/11-12/23
東京オペラシティアートギャラリーで開催中の「五線譜に描いた夢ー日本近代音楽の150年」を見てきました。
幕末より現代まで、時に社会や政治情勢と関わりながら歩み続けてきた日本の近代音楽。その流れを楽譜や楽器の他、資料に映像、また「音」で辿っていく。いわゆる美術館にてこうした展覧会が開催されたことは殆どなかったかもしれません。
そこを武満の名を冠したコンサートホールを持つオペラシティが実現。日本の近代音楽史の150年を一挙に総覧します。
出品は明治学院大学日本近代音楽館の所蔵資料を中心とした全300点。かなり見応えがありました。
さて初めは幕末です。シーボルトとも親しかったという蘭学者、宇田川榕菴の記した「大西楽律考」は、国内における西洋音楽の最初の本。またペリー来航時にやってきた軍楽隊の奏でた音楽は、まさに当時の日本人が殆ど初めて耳にする西洋の響き。明治維新後、政府が近代軍隊を導入する過程においても、当然ながら軍楽隊を整備します。
東京音楽学校編「中等唱歌集」 1889年 日本近代音楽館
また欧化政策は当然ながら音楽にも及びます。鹿鳴館でのコンサートはもとより、唱歌集や軍歌などによって、西洋音楽は一気に人々の身近なものとなっていきました。
島崎藤村がパリで足を運んだ演奏家の冊子が目を引きます。何でもバッハのマタイを聞いたとか。ちなみに日本における本格的なオペラ公演は1903年、グルック作曲の「オルフェオとエウリディーチェ」です。さらに会場には日本人が最初に制作したピアノなどの楽器もあわせて展示。またドイツに留学し、純正調オルガンを発明した田中正平の取り組み(日本の伝統的な音楽を五線譜に置き換えたそうです。)なども紹介されていました。
絵画では彭城貞徳の「和洋合奏之図」にも注目。時は明治39年。畳の上で和装の女性たちが座布団の上に座りながらヴァイオリンを奏でる姿が描かれています。明治期の日本人と西洋音楽の関わりを良く表した作品と言えるかもしれません。
山田耕筰「曼陀羅の華」 1913年
大正へ進みましょう。ここで重要なのは山田耕筰。ベルリン留学を果たし、帰国後、作曲や指揮活動へ積極的に取り組んだ彼の功績がクローズアップされています。
中山晋平「ゴンドラの唄」(セノオ・新小唄3) 1916年 日本近代音楽館
また大正期に一大ムーブメントを起こしたのは浅草オペラです。庶民も熱を上げて接したという浅草オペラ。ヒロインの歌う流行のアリアは楽譜としても発売。かの夢二が装丁画を描いた楽譜も人気を呼んだそうです。
いわゆる音楽批評が誕生したのもこの時期のことです。中でも知られるのがロンドンへの留学経験を持つ大田黒元雄。来日したプロコフィエフとも親交があったという彼は、評論活動とともに、様々な西洋音楽を日本に紹介します。
「音楽報国挺身隊腕章」 1943年 個人蔵
一方で昭和に入り、戦争の色が濃くなると、「音楽は軍需品」という言葉にも象徴されるように、国家が音楽へ介入する様が露骨になってきます。
その最たる例が1940年に行われた紀元二千六百年奉祝楽曲発表会。いわゆる皇紀2600年を祝して開催された一大イベントです。政府はアメリカ、イギリス、イタリア、ドイツ、フランス、ハンガリーの6カ国に奉祝曲の作曲を依頼。対日関係が極めて悪化していたアメリカを除く5カ国が曲を提供します。(イギリスはブリテンが「シンフォニア・ダ・レクイエム」を提供しましたが、演奏されることはありませんでした。)
R.シュトラウス「日本の皇紀二千六百年祭のための祝典音楽」 1940年 日本近代音楽館
ドイツからはかの大作曲家R.シュトラウス。曲名もずばり「祝典音楽 紀元二千六百年奉祝」です。15分ほどの短い管弦楽曲ですが、シュトラウスはゲッペルスから直接話を受けて作曲。ベルリンの在日本大使館では自らの手でピアノを演奏し、楽譜を日本へ送りました。
会場ではその時の様子を映像で紹介。これがなかなか見せます。なお本展ではこうした映像が各セクション毎に計4つ展示。いずれもそれぞれ2~3本の映像があり、おおよそ20分ほど。全て見るとおそらくは1時間以上かかります。
またご紹介が遅れましたが、映像と同じように音源の試聴コーナーがあるのもポイントです。見て、また聞いて追いかける日本近代音楽の流れ。なかなか充実していました。
「二期会第1回オペラ公演 ラ・ボエーム プログラム」 1952年 日本近代音楽館
戦後の流れはやや駆け足気味です。実験工房から電子音楽に湯浅やら武満。それに大阪万博の音楽イベントなど。また総じて音楽と社会の関わりを強く意識しています。いわゆる音楽好き以外の方にも楽しめるのではないかと思いました。
ラストは「オーケストラの現在」です。国内のオーケストラのプログラムなどがずらりと並びます。見慣れた月刊都響やN響定期の冊子。もう一歩、それぞれの団体の活動を紹介するテキストなりがあればとは思いましたが、例えば83年の大フィルの「朝比奈隆音楽生活50周年記念プログラム」など、クラシックファンとして注目したいものもありました。
ドビュッシー「鐘」(セノオ楽譜65番) 1917年
資料、映像、試聴コーナー。私も結局2時間くらい見ていましたが、映像を一つ一つ追っていくともっと時間がかかります。余裕をもってお出かけ下さい。
会場内及び近江楽堂で行われるミニコンサートが大変に充実しています。
「関連企画:ミニコンサート」@東京オペラシティアートギャラリー
無料(要展覧会半券)とは思えないラインナップです。こちらとあわせて見るのも良いのではないでしょうか。
12月23日まで開催されています。
「五線譜に描いた夢ー日本近代音楽の150年」 東京オペラシティアートギャラリー
会期:10月11日(金)~12月23日(月・祝)
休館:月曜日。祝日の場合は翌火曜日。
時間:11:00~19:00 *金・土は20時まで開館。最終入場は閉館30分前まで。
料金:一般1000(800)円、大・高生800(600)円、中・小生600(400)円。
*( )内は15名以上の団体料金。土・日・祝は小中学生無料。
住所:新宿区西新宿3-20-2
交通:京王新線初台駅東口直結徒歩5分。
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