都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「描かれた都 開封・杭州・京都・江戸」 大倉集古館
大倉集古館
「描かれた都 開封・杭州・京都・江戸」
10/5-12/15
大倉集古館で開催中の「描かれた都 開封・杭州・京都・江戸」を見てきました。
日本と中国。ともに中世から近世を代表する都市であった開封、杭州、京都、江戸。その4都市をモチーフとした絵画を参照しながら、各々の個性なり相互の影響の在り方を探っていく。そうした展覧会が大倉集古館で行われています。
まずはじめは中国。北宋の都、開封です。かつて北京の故宮より東博にやってきて大きな話題となった「清明上河図」の模本が3点ほど展示されています。
1本目は大倉集古館のもの。時代は明。蘇州の風景です。また残りの2本は清時代の作品ですが、模本とは言え、細部の表現など、当然ながら違いがあるのも面白いところ。さらに会場ではご丁寧にも故宮の「清明上河図」がパネルで紹介されています。
仇英(款)「清明上河図」(部分) 清時代 個人蔵
そうした3本の違いを見比べるのも良いのではないでしょうか。2本目の作は色味も強め、土には鮮やかな緑や青の顔料が。また3本とも故宮の作に比べると筆致は明らかに『粗め』ですが、それでもさすがに緻密な描写も随所に見られます。単眼鏡は必須かもしれません。
曾我蕭白「林和靖図」 江戸時代 千葉市美術館
さて杭州へと進みましょう。こちらは南宋の都。目立つのは西湖をモチーフとした2点の屏風に襖絵。中国は呉◯(火に繹から糸偏を抜いた文字)に日本からは山楽(款)の作品。ともに西湖とそれを望む雄大な山々が描かれています。
呉◯作はまるで箱庭です。ぐるりと西湖を囲む山の姿。桜花に紅葉。四季の情景も表されているそうです。
狩野山楽「西湖図襖絵」 江戸時代 個人蔵
一方で山楽(款)はもっと遠い視点から西湖を俯瞰したもの。もちろん実際の西湖を見て描かれたわけではありませんが、その光景は雄大かつ深淵。中央にはモニュメンタルなまでの奇岩がそびえたっていました。
さて後半は京都に江戸。日本の都市です。会場スペースの都合なのか、展示は江戸から京都の順。それぞれを表した絵画が紹介されています。
江戸からは広重の「名所江戸百景」に宮川長亀の「上野観山・隅田川納涼図」なども見どころ。桜の下の宴会で踊る人々。今も昔も花見の光景は変わりません。
鍬形蕙斎「東都繁昌図巻」(部分) 江戸時代 千葉市美術館
面白いのは鍬形蕙斎の「東都繁昌図巻」です。日本橋の魚市場が表されていますが、ともかくたくさんの魚が驚くほどよく描き分けられている。まるでちょっとした魚図鑑。押し合いへし合いの仲買人たち。大変な賑わいです。また魚をとって食べようとする犬の姿なども見て取れます。
京都では衝撃の作品と出会いました。それが「洛中洛外図」。はて、一定の様式化された洛中洛外、どこが衝撃なのかと思う方もおられるかもしれません。
図版がないので何ともお伝えしにくいのですが、一言で申し上げるとともかくびっくりするほど下手なのです。もう何もかもがメタメタ。店より巨大な人間たちが闊歩する街並。天守閣は崩壊寸前、構図に形状がもはやシュールといえるほどに歪んだ二条城。これがまた金地の上に表されている。作者は長谷川巴龍。しかもサインには堂々たる法橋の号が。もはやこれはネタなのでしょうか。思わず笑ってしまうほどでした。
さて本展、近世より時空を超え、現代の絵師が登場しているのも注目すべきポイントです。絵師の名はお馴染み山口晃。2点の「東京圖」を出品しています。
山口晃「東京圖 広尾ー六本木」2002年 森美術館
いずれも山口流現代版洛中洛外図。ヒルズを中心にした江戸東京の異界が描かれていますが、森ビルのタワーの横にそっと描かれた原子力発電所に目が止まりました。
これはあくまでもヒルズの動力としての発電所に過ぎませんが、本作が完成したのは2002年。もし今、作者が描いたらここに何を表現するのだろうか。そんなことも色々と想像させる作品でもありました。
「描かれた都:開封・杭州・京都・江戸/板倉聖哲/東京大学出版会」
またやや高額ではありますが、一般書籍としても扱われている図録が論文も含めて充実しています。大倉の手狭なスペース、決して点数は多くありません。それでも4都市に絞り、関係の深い作品ばかりを並べた展示。小さくとも見応えのある内容だと感心しました。
なお一部作品が会期途中で入れ替わりましたが、現在は既に後期期間中です。これ以降の入れ替えはありません。
12月15日まで開催されています。
「描かれた都 開封・杭州・京都・江戸」 大倉集古館
会期:10月5日(土)~12月15日(日)
休館:月曜日(休日は開館)
時間:10:00~16:30 (入館は16時まで。)
料金:一般1000円、 65歳以上・大学生・高校生800円、中学生以下無料。
*20名以上の団体は100円引。
*土・日は、高校生以下の生徒と引率の両親・教師が無料。
住所:港区虎ノ門2-10-3 ホテルオークラ東京本館正面玄関前
交通:東京メトロ南北線六本木一丁目駅改札口より徒歩5分。東京メトロ日比谷線神谷町駅4b出口より徒歩7分。
「描かれた都 開封・杭州・京都・江戸」
10/5-12/15
大倉集古館で開催中の「描かれた都 開封・杭州・京都・江戸」を見てきました。
日本と中国。ともに中世から近世を代表する都市であった開封、杭州、京都、江戸。その4都市をモチーフとした絵画を参照しながら、各々の個性なり相互の影響の在り方を探っていく。そうした展覧会が大倉集古館で行われています。
まずはじめは中国。北宋の都、開封です。かつて北京の故宮より東博にやってきて大きな話題となった「清明上河図」の模本が3点ほど展示されています。
1本目は大倉集古館のもの。時代は明。蘇州の風景です。また残りの2本は清時代の作品ですが、模本とは言え、細部の表現など、当然ながら違いがあるのも面白いところ。さらに会場ではご丁寧にも故宮の「清明上河図」がパネルで紹介されています。
仇英(款)「清明上河図」(部分) 清時代 個人蔵
そうした3本の違いを見比べるのも良いのではないでしょうか。2本目の作は色味も強め、土には鮮やかな緑や青の顔料が。また3本とも故宮の作に比べると筆致は明らかに『粗め』ですが、それでもさすがに緻密な描写も随所に見られます。単眼鏡は必須かもしれません。
曾我蕭白「林和靖図」 江戸時代 千葉市美術館
さて杭州へと進みましょう。こちらは南宋の都。目立つのは西湖をモチーフとした2点の屏風に襖絵。中国は呉◯(火に繹から糸偏を抜いた文字)に日本からは山楽(款)の作品。ともに西湖とそれを望む雄大な山々が描かれています。
呉◯作はまるで箱庭です。ぐるりと西湖を囲む山の姿。桜花に紅葉。四季の情景も表されているそうです。
狩野山楽「西湖図襖絵」 江戸時代 個人蔵
一方で山楽(款)はもっと遠い視点から西湖を俯瞰したもの。もちろん実際の西湖を見て描かれたわけではありませんが、その光景は雄大かつ深淵。中央にはモニュメンタルなまでの奇岩がそびえたっていました。
さて後半は京都に江戸。日本の都市です。会場スペースの都合なのか、展示は江戸から京都の順。それぞれを表した絵画が紹介されています。
江戸からは広重の「名所江戸百景」に宮川長亀の「上野観山・隅田川納涼図」なども見どころ。桜の下の宴会で踊る人々。今も昔も花見の光景は変わりません。
鍬形蕙斎「東都繁昌図巻」(部分) 江戸時代 千葉市美術館
面白いのは鍬形蕙斎の「東都繁昌図巻」です。日本橋の魚市場が表されていますが、ともかくたくさんの魚が驚くほどよく描き分けられている。まるでちょっとした魚図鑑。押し合いへし合いの仲買人たち。大変な賑わいです。また魚をとって食べようとする犬の姿なども見て取れます。
京都では衝撃の作品と出会いました。それが「洛中洛外図」。はて、一定の様式化された洛中洛外、どこが衝撃なのかと思う方もおられるかもしれません。
図版がないので何ともお伝えしにくいのですが、一言で申し上げるとともかくびっくりするほど下手なのです。もう何もかもがメタメタ。店より巨大な人間たちが闊歩する街並。天守閣は崩壊寸前、構図に形状がもはやシュールといえるほどに歪んだ二条城。これがまた金地の上に表されている。作者は長谷川巴龍。しかもサインには堂々たる法橋の号が。もはやこれはネタなのでしょうか。思わず笑ってしまうほどでした。
さて本展、近世より時空を超え、現代の絵師が登場しているのも注目すべきポイントです。絵師の名はお馴染み山口晃。2点の「東京圖」を出品しています。
山口晃「東京圖 広尾ー六本木」2002年 森美術館
いずれも山口流現代版洛中洛外図。ヒルズを中心にした江戸東京の異界が描かれていますが、森ビルのタワーの横にそっと描かれた原子力発電所に目が止まりました。
これはあくまでもヒルズの動力としての発電所に過ぎませんが、本作が完成したのは2002年。もし今、作者が描いたらここに何を表現するのだろうか。そんなことも色々と想像させる作品でもありました。
「描かれた都:開封・杭州・京都・江戸/板倉聖哲/東京大学出版会」
またやや高額ではありますが、一般書籍としても扱われている図録が論文も含めて充実しています。大倉の手狭なスペース、決して点数は多くありません。それでも4都市に絞り、関係の深い作品ばかりを並べた展示。小さくとも見応えのある内容だと感心しました。
なお一部作品が会期途中で入れ替わりましたが、現在は既に後期期間中です。これ以降の入れ替えはありません。
12月15日まで開催されています。
「描かれた都 開封・杭州・京都・江戸」 大倉集古館
会期:10月5日(土)~12月15日(日)
休館:月曜日(休日は開館)
時間:10:00~16:30 (入館は16時まで。)
料金:一般1000円、 65歳以上・大学生・高校生800円、中学生以下無料。
*20名以上の団体は100円引。
*土・日は、高校生以下の生徒と引率の両親・教師が無料。
住所:港区虎ノ門2-10-3 ホテルオークラ東京本館正面玄関前
交通:東京メトロ南北線六本木一丁目駅改札口より徒歩5分。東京メトロ日比谷線神谷町駅4b出口より徒歩7分。
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