「路上から世界を変えていく 日本の新進作家vol.12」 東京都写真美術館

東京都写真美術館
「路上から世界を変えていく 日本の新進作家vol.12」 
2013/12/7~2014/1/26



東京都写真美術館で開催中の「路上から世界を変えていく 日本の新進作家vol.12」をみてきました。

比較的若い世代の写真家をグループ展形式で紹介する「日本の新進作家」シリーズ。今回で12回目。都写美ではもうお馴染み。すっかり定着してきた感があります。

キーワードは「路上」です。写真家が「路上」で何と出会うのか。ともかくも写真表現の多様な在り方を提示しています。

[出展作家]
糸崎公朗(1965~)
大森克己(1963~)
鍛治谷直記(1970~)
津田隆志(1983~)
林ナツミ(1982~)

それでは順に印象に残ったポイントを。まずはチラシ表紙にも掲げられた大森克己から。展示は「全ては初めて起こる」シリーズ。かの震災の年、2011年の春に桜の開化を追って、東京から福島への旅を写した連作です。


大森克己「すべては初めて起こる 千葉県浦安市」2011年

はじまりは東京近郊、街路には桜が咲いています。大森の写真の特徴としてはハレーションを意図的に取り入れているところです。それに由来するピンク色と桜色の煌めきが呼応する。どこか乾いた都市風景に幻想的な光を呼び込みます。

しかしながら福島はどうでしょうか。甚大な津波の被害を受けた南相馬。大地には瓦礫が散乱している。そこに浮かぶピンク色のハレーション。福島での桜を捉えた作品もあります。ここではやはり物悲しく映って見える。もちろん冒頭の浦安も被災地です。何が共通し、そして異なるのか。ハレーションを見ながら考えさせるものがありました。

本日の浮遊 Today's Levitation/林ナツミ/青幻舎」

「路上」というキーワードが最もハマっているかもしれません。林ナツミからは人気の浮遊シリーズが登場。都市の一角で自らジャンプした姿を捉えた作品。もちろん本展でもひたすらにジャンプしています。

ジャンプ、そして浮遊することで、普段意識もしないような日常に一種の『異界』を持ち込む。シンプルながらも強いビジュアルです。また今回は3幅対の作品に新鮮味があります。中央には正面を向いて浮遊する林。左右ではそれぞれ画面の外へ向かって同じくジャンプしている。祭壇画を連想しました。

「おや、何故に展示室にジオラマが。」と、不思議に思われるかもしれません。異彩を放つのが糸崎公朗です。スペースの中央にはノスタルジックな街のジオラマが展開。その後ろには道頓堀の同じくジオラマ。さながら飛び出す絵本のように無数の人々が戎橋を渡っています。

「フォトモの物件 (Fotomo)/糸崎公朗/アートン」

実はこれ、作家が路上で建物なり人を撮り、その写真を立体に仕立てたもの。ジオラマの周囲には建物の写真がずらり。言わば図面です。そして建物はパーツ毎に分解可能。組み立てるための山折りや谷折り、また貼り合わせるための糊代の部分までありました。


糸崎公朗 「路上ネイチャー フタトガリコヤガ 藤沢市」2012年

なお糸崎は昆虫をモチーフとした作品も展示しています。こちらも建物や人間と同じく路上の主役、小さき虫たちへの眼差し。非常に独創的ですが、何せ現れるのは虫や鳥の死骸です。この辺は生理的に好き嫌いが分かれるかもしれません。


鍛治谷直記「JPEG five-star」2002-2013年

けばけばしいネオンサインや風俗店の艶やかなる看板。スナックにコンパニオン。歓楽街の一コマを切り取ったのは鍛冶谷直記です。タイトルは「JPEG」。2002年から本年の間に全国各地で撮りためた作品を展示しています。

面白いのは金閣寺です。おそらくは繁華街の一角か、金閣寺の写真の貼られたコインロッカーを写していますが、よく追いかけると別の作品には本物の金閣寺も登場している。言わば趣味の悪いコインロッカー。しかしながらイメージは同じく『美しき』金閣寺であるということ。何とも言い難い都市のカオスを表しています。


津田隆志「SITEより」2011年

最年少の津田隆志からはベンチを写した連作に惹かれました。都内の「寝る場所」をピックアップしたという同シリーズ。特に寝る人を排除するためのベンチ。それらが闇夜に沈んでいる。その佇まいは奇妙なほど美しく、またどこか虚しくもありました。

日頃は意識もせずただ通り過ぎるだけの路上。しかし見るべきものがたくさんあった。日常と世界。それを捉える眼差しを少し変えるような展示かもしれません。


糸崎公朗+前衛実験NETART「フォトモ 六会日大前駅」2013年

展示室外の作品の撮影が可能でした。2階エントランス部分に堂々登場するのは林ナツミです。飛び上がる脚。吹き抜けの空間を効果的に活かしていました。


林ナツミ「Today's Levitation 05/13/2011」2012年

2012年1月26日まで開催されています。*1/2は「写美のお正月」のため入場無料。

「路上から世界を変えていく 日本の新進作家vol.12」 東京都写真美術館
会期:2013年12月7日(土)~2014年1月26日(日)
休館:毎週月曜日(月曜日が祝日の場合は開館し、翌火曜日休館。)。及び年末年始(12/29~1/1)。
時間:10:00~18:00 *毎週木・金曜日は20時まで。(入館は閉館の30分前まで。)2014/1/2/、1/3は11:00~18:00。
料金:一般700円(560円)、学生600円(480円)、中高生・65歳以上500円(400円)
 *( )内は20名以上の団体料金。
 *第3水曜日は65歳以上無料。
 *1/2は「写美のお正月」のため入場無料。
住所:目黒区三田1-13-3 恵比寿ガーデンプレイス内
交通:JR線恵比寿駅東口改札より徒歩8分。東京メトロ日比谷線恵比寿駅より徒歩10分。
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