「伝説の洋画家たち 二科100年展」 東京都美術館

東京都美術館
「伝説の洋画家たち 二科100年展」
7/18-9/6



東京都美術館で開催中の「伝説の洋画家たち 二科100年展」を見てきました。

大正3年に結成された美術家団体の二科会。今年で100年目を迎えたそうです。

その歴史を振り返る展覧会です。総作品数は131点。全て過去の二科展に出展された作品で構成されています。

さて大正3年の記念すべき第1回展、場所は上野竹之台の陳列館です。言わば文展に対抗する形でスタートしました。

冒頭は草創期、二科会の創設メンバーです。そのうちの一人は坂本繁二郎。「海岸の牛」はどうでしょうか。青い海を背に、やや黄緑色がかった草地に立つ一頭の牛。ぼんやりとした表情でこちらを向いています。得意のパステルカラーです。ただし朧げな色調の中でも造形は力強い。牛の肌がやや濃い白で塗られていました。


有島生馬「鬼」 1914年 東京都現代美術館

有島生馬も創立会員の一人です。第1回展に出品したのは「鬼」。耳が大きく、頭を剃った男、いや鬼なのでしょう。太い左腕を曲げています。身体は肌色というよりも、オレンジ。そして背景には赤いカーテンが吊られています。何とも奇異な光景です。一体、何をモデルに描いたのでしょうか。

同じく創立会員では山下新太郎の「端午」も目を引きました。こちらは第2回展の出品作です。モデルはまだ幼き子ども。大きな椅子に座っては少し笑みを浮かべています。窓の外では鯉のぼりが風に靡いていました。晴天です。ルノワールの色調を思い出したのは私だけでしょうか。ちなみに本作は当時、とても人気を集め、貸出依頼が多く寄せられたそうです。ゆえにレプリカを制作したという逸話も残っています。

ほか草創期では岸田劉生、萬鉄五郎も重要ではないでしょうか。また珍しいのは劉生の「男の首」、ブロンズの男性像です。何と生涯で2作しか残さなかった立体のうちの一つ。まるで怒ったような顔をしています。ゴツゴツとした質感も特徴的でした。


関根正二「姉弟」 1918年 福島県立美術館

関根正二の「姉弟」も心を打ちました。ひまわり畑でしょうか。妙に大人びているものの、穏やかな笑みをたたえた赤子。明るい朱色の服を着ています。一方で対照的なのが少女です。赤子を抱いては歩く。家路についているのでしょう。下を向いては疲れた表情をしています。二人は姉弟の愛を思わせるように密着しています。しかしながらどことない物悲しさを感じてなりませんでした。

1920~1930年頃は二科会に様々な分派が生まれた時期。また外国人の作家も出品しては多様に展開していきます。


東郷青児「ピエロ」 1926年 東郷青児記念損保ジャパン日本興亜美術館

東郷青児では「ピエロ」が充実しています。第15回展の出品作。東郷はこの時期、長くフランスに留学していました。構成は実に堅牢です。ダダや未来派を吸収しながらも、独自の画風を切り開いています。

一際大きな画面です。中川紀元の「アラベスク」。パリでマティスに感動し、教えを受けたという画家ですが、舞台は同地のカフェでしょうか。やや上から覗き込むような構図で語り合う人々の姿を描いています。テーブルを囲み、お茶を飲みながら身振り手振りで談笑する紳士や婦人。皆、着飾っています。左上にはピアノを弾いている男もいました。カフェの賑わい、話し声が伝わってくるような一枚でもあります。


小出楢重「帽子をかぶった自画像」 1924年 石橋財団ブリヂストン美術館

小出楢重の「帽子をかぶった自画像」も興味を引きました。薄暗いアトリエの一角、画家本人がキャンバスの前に立ち、絵筆とパレットを持ってはポーズをとっています。後ろの椅子の上に置いてある楽器はトランペットでしょうか。光は下方、椅子や画家の足に当たっています。さらに画面の下部に注目です。何でも小出は画面をなかなか決められず、後になってから下に5センチほどキャンバスを足しては描いたそうです。その跡を確かに見ることが出来ました。


佐伯祐三「新聞屋」 1927年 個人蔵

佐伯祐三の遺作が出ていました。「新聞屋」です。2度目のパリ生活で描いたという一枚、店先には新聞がたくさん積まれています。そして中央にぽっかり開いた黒。店の出入口でしょうか。何らの人影はおろか、一筋の光もありません。まさしく真っ暗闇。冥界への扉のようです。思わず吸い込まれそうになりました。

長谷川利行の「酒売場」にも目が止まりました。舞台は浅草の神谷バー。売場というよりも酒場と言った方が良いのかもしれません。殴り書きのような筆触です。何やら退廃的。人の姿は必ずしも判別しませんが、酒場特有の喧噪は伝わってきました。なお長谷川は独学の画家で、経歴については不明な点も多いそうです。簡易宿泊所に寝泊まりしては、酒場に通い、いつしか健康を害して亡くなってしまいます。他にはどのような作品を残しているのでしょうか。


藤田嗣治「メキシコに於けるマドレーヌ」 1934年 京都国立近代美術館

このほか戦前では藤田嗣治、桂ゆき、吉原治良、松本竣介などの優品も並んでいます。またマティスの「青い胴着の女」も出ていました。ちらしに「名作が集結」と記されていましたが、あながち誇張ではないかもしれません。


岡本太郎「重工業」 1949年 川崎市岡本太郎美術館

戦後では岡本太郎の「重工業」も目を引きました。終戦4年後、1949年の作品、鉄工所がモチーフかもしれません。ギラギラとした火花が散り、歯車が回転し、人が躍動します。何故か長ネギのみが具象的に描かれています。またいわゆる幽玄主義に入る前の岡田謙三の「シルク」も印象に残りました。

なお今回の展示では二科会を4つの時代、つまり戦前の「草創期」、「揺籃期」、「発展そして解散」、そして戦後の「再興期」に分けて紹介。その歴史を時代順に追っています。ただし時代の配分は均一ではありません。圧倒的に重点が置かれてるのは草創から解散、つまり戦前までです。

実のところ二科展自体は戦前が30回、戦後が31回から100回展と、後者の方が多く行われているわけですが、出品作だけを取り上げれば戦後は12点と僅かです。残り118点は全て戦前の作品でした。事実上、二科展の戦前の展開を振り返る展示と言えるかもしれません。

[伝説の洋画家たち 二科100年展 巡回予定]
大阪市立美術館:9月12日(土)~11月1日(日)
石橋美術館:11月7日(土)~12月27日(日)

全70館、100名の画家の展覧会です。一部の個人蔵を除くと、全国各地の国公立美術館のコレクションが目立ちました。



会期末が近づいていますが、館内はさほど混雑していませんでした。

9月6日まで開催されています。

「伝説の洋画家たち 二科100年展」 東京都美術館@tobikan_jp
会期:7月18日(土) ~9月6日(日)
時間:9:30~17:30
 *入館は閉館の30分前まで。
 *毎週金曜日は21時まで開館。
休館:月曜日。7月21日(火)。但し7月20日(月・祝)は開館。
料金:一般1500(1300)円、大学生1200(1000)円、高校生800(600)円。65歳以上1000(800)円。中学生以下無料。
 *( )は20名以上の団体料金。
 *8月19日(水)はシルバーデーのため65歳以上は無料。
 *毎月第3土・翌日曜日は家族ふれあいの日のため、18歳未満の子を同伴する保護者(都内在住)は一般料金の半額。(要証明書)
住所:台東区上野公園8-36
交通:JR線上野駅公園口より徒歩7分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅7番出口より徒歩10分。京成線上野駅より徒歩10分。
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