「写真芸術展 CHIBA FOTO」(後編) コミュニティセンター店舗跡地、千葉公園、千葉市美術館、千葉そごう

千葉市内13会場
「写真芸術展 CHIBA FOTO」
2021/8/21~9/12



「写真芸術展 CHIBA FOTO」(前編)に続きます。千葉市内13会場にて開催中の「写真芸術展 CHIBA FOTO」@sennoha_art_fes)を見てきました。

稲毛区内の2会場とコミュニティセンター松波分室の展示を見た後は、中央区エリアで最も海側にある千葉市役所向かいの千葉市中央コミュニティセンターを目指すことにしました。

鉄道を使うルートであれば、松波分室の近くの西千葉駅から千葉駅を経由し、モノレールを使って市役所前へ向かうのが一般的ですが、この日は天候も良かったために西千葉駅前のレンタサイクルを利用することにしました。ちょうど返却ポートも市役所前に設置されていました。

千葉市中央コミュニティセンターは、体育館や温水プール、それに集会室などからなる複合公共施設で、モノレールの市役所前駅と直結していました。



そのうち「CHIBA FOTO」の会場は同ビルの2階にあるスペースで、かつて喫茶店として利用されていて店舗の跡地でした。



ここでは写真家で小説家としても活動する清水裕貴が「コールドスリープ」と題した展示を行なっていて、写真のみならず、時計やグラス、さらに花などを用いたインスタレーションを展開していました。



古びた照明や薄汚れたカーペット、それに使い古された椅子などは、喫茶店当時の店内の光景を生々しく伝えるかのようで、風景や食事などの写真のモチーフとも響き合っていました。



この「コールドスリープ」は、今回、清水が書き下ろしの小説として発表していて、会場でもリーフレットとして配布されていました。物語は千葉の地理や歴史を踏まえつつ、世代を超えた男女の不思議な邂逅を綴っていて、幻想的な雰囲気に満ちていました。それらは写真のイメージにも反映されていたのではないでしょうか。



コミュニティセンターを出て市役所前駅へと歩き、今度はモノレールに乗って次の目的地である千葉公園へ向かいました。千葉公園では園内の2ヶ所の施設にて展示が行われていました。



まずボートの浮かぶ池に面した休憩スペースの蓮華亭では、吉田志穂が加曽利貝塚をきっかけに縄文文化からインスピレーションを受けたという写真を公開していました。



それらの中には地層や炎、また洞窟や岩石など、さながら太古の記憶が蘇るようなモチーフが写されていて、鏡面が仕込まれた造作壁においても際立って見えました。



続く茶室の好日亭では、新井卓が数百点のダゲレオタイプを長く組み合わせた「汀にて」を展示していました。



ダゲレオタイプとは、銀メッキした銅板などへ像を定着させる写真黎明期に誕生した技法で、新井は一枚一枚のダゲレオタイプへ2010年から2021年の11年間の間に東日本沿岸の風景を写しました。



そしてランダムに抽出されたダゲレオタイプが、全体として1つの風景に繋がるように構成されていて、千葉を含んだ被災地などの様子も垣間見えました。異なった場所や時間が同時に連なる写真絵巻と呼んで良いのかもしれません。



一連の千葉公園の展示を見た後は、千葉市美術館へと向かうことにしました。同館では4名の作家が展示を行なっていて、「CHIBA FOTO」の事実上のメイン会場でもありました。



千葉公園から千葉市美術館へは道なりで1.5キロほどありますが、ここは公園の近くのコンビニでレンタサイクルを借ることにしました。公園からは美術館へは一本道で、約10分ほどでたどり着くことができました。



千葉市美術館の1階さや堂ホールでは、「CHIBA FOTO」の会場の特徴である鏡の壁を用いたスペースが作られていて、蔵真墨と佐藤信太郎が展示を行っていました。



まず蔵真墨は「千の葉のひとびと」にて、千葉市内にて撮り下ろした多くの人々のポートレイトなどを公開していて、いずれも正方形のモノクロにて写し出していました。



それらは市内の何気ない光景や日常であるものの、中にはマスクをしてポーズをとったりする人がいるなど、いわゆるコロナ禍の現在の状況が切り取られていました。実際に2020年から今年にかけて撮影されました。



もう1人の作家である佐藤信太郎は、東京湾岸の埋立地の地表を写した「Geography」と、境界をテーマに千葉市内で撮影された「Boundaries」を展示していて、縦と横、つまり壁と床面にて垂直に行き来するように並べていました。



さや堂の中に新たに築かれたコの字型のスペースは、鏡の効果によって作品が複数に増えていくかのようで、鑑賞者の姿までも取り込んでいました。



続く美術館の9階市民ギャラリーでは、千葉の街や学校を被写体とした本城直季の「地域と学校」が行われていました。



そこには千葉駅やマリンスタジアム、または千葉県立美術館といった千葉市内の景観をはじめ、市内の学校の運動会の様子などが空から写されていて、まるでミニチュアのジオラマを目にするかのようでした。



こうした一連の写真以外には小学校でのコマ撮りを繋げた映像も上映されていて、本城の新たな制作を見ることができました。



それにギャラリーの中へ4つの建物のような部屋が連なる空間も面白いのではないでしょうか。



11階の講堂では、千葉県内に在住し、三里塚や船橋を写した作品で知られる北井一夫が「写真集の裏側」と題した展示を行っていました。



「写真集」とあるように多くの写真集が吊り下げられた空間には、ヴィンテージ・プリントをはじめ、ポスターやカメラ雑誌などの印刷物が公開されていて、北井の永井キャリアを時間を追って見ることができました。



北井は2020年、最初のデジタル写真をまとめた写真集「道」を、かつて自らが立ち上げた「のら社」を復活させて自費出版していて、最新作の「街路樹 千葉市」は、「道」において新たにデジタルで撮影された作品でした。



そもそも出展作品からして「CHIBA FOTO」で最も多く、充実した回顧展と言って良いかもしれません。見応えは十分でした。



宇佐美雅浩の「宇佐美正夫 千葉 2021」の会場は、千葉駅前の千葉そごうの9階「滝の広場」で、吹き抜けのスペースに半透明の布の壁によるギャラリーが築かれていました。



その中では製鉄所を背景とした1枚の大きな写真が公開されていて、大勢の作業服を着た人々ともに、クレーンやかつて千葉を走っていた鉄道などが写されていました。



これは旧川崎製鉄株式会社の元社員であった父の正夫を経験を元に制作されたもので、よく見ると過去と現在の鉄工所の制服を着た人たちが左右に分かれて並んでいました。そして場違いな食卓を囲む人々や写真を撮る人がいたり、突如闖入したかのような鉄道車両などから、合成のように見えてしまいましたが、驚くことにセットを組んで撮られた実写でした。



またそごう千葉店では、中央コミュニティセンターでも展示を行なっていた清水裕貴が、海側南エレベーターにおいてテキストと写真を出展していました。コミュニティセンターと同様の「コールドスリープ」と題する作品で、そもそもタイトルはエレベーターの形状から連想されたそうです。

この日は昼過ぎから稲毛に入りましたが、結果的に移動を含め、全ての展示を見るには半日ほどかかりました。各会場への移動方法は様々ですが、私として2度利用したレンタサイクルが大変便利に感じました。千葉市内はハローサイクリングが多くのポートを設置していて、ポート間であれば自由に行き来することができます。(有料)



別荘や喫茶店跡、それに美術館やデパートなど多様な会場も魅力でしたが、鏡の壁などを設置した展示デザインも大変に面白く思えました。ここは千葉市稲毛区出身で、「千の葉の芸術祭」のアートディレクターを務めたおおうちおさむによる力が大きいのかもしれません。

現在、千葉市内では千葉市美術館にて「前川千帆展」が行われているほか、千葉県立美術館ではイラストレーターユニットの100%ORANGEによる展覧会「オレンジ・ジュース」が開催されています。ともに一日かけて「CHIBA FOTO」とあわせて見て歩くのも楽しいかもしれません。


各会場の観覧は無料ですが、休場日や閉場時間が異なる場合があります。お出かけの際はご注意ください。

9月12日まで開催されています。おすすめします。

「CHIBA FOTO 清水裕貴『コールドスリープ』 千葉市中央コミュニティセンター2階 店舗跡地
会期:2021年8月21日(土)~9月12日(日)
休館:会期中無休
時間:9:00~17:00
料金:無料
住所:千葉市中央区千葉港2-1
交通:千葉都市モノレール市役所前駅徒歩1分。

「CHIBA FOTO 吉田志穂『空白と考古学』、新井卓『汀にて』」 千葉公園(蓮華亭、好日亭)
会期:2021年8月21日(土)~9月12日(日)
休館:会期中無休
時間:9:00~17:00
料金:無料
住所:千葉市中央区弁天3-1-1
交通:千葉都市モノレール千葉公園駅より徒歩1分。

「CHIBA FOTO 蔵真墨『千の葉のひとびと』、佐藤信太郎『Geography/Boundaries』、本城直季『地域と学校』、北井一夫『写真集の裏側』」 千葉市美術館(さや堂ホール・市民ギャラリー・講堂)
会期:2021年8月21日(土)~9月12日(日)
休館:9月6日
時間:10:00~18:00
料金:無料
住所:千葉市中央区中央3-10-8
交通:千葉都市モノレール葭川公園駅下車徒歩5分。京成千葉中央駅東口より徒歩約10分。JR千葉駅東口より徒歩約15分。

「CHIBA FOTO 宇佐美雅浩『宇佐美正夫 千葉 2021』」 そごう千葉店9階 滝の広場
会期:2021年8月21日(土)~9月12日(日)
休館:会期中無休
時間:10:00~19:00 *9月12日は17時まで
料金:無料
住所:千葉市中央区新町1000番地
交通:JR線・千葉都市モノレール千葉駅より徒歩5分。京成線京成千葉駅より徒歩1分。
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