都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「色部義昭:WALL」 ギンザ・グラフィック・ギャラリー
ギンザ・グラフィック・ギャラリー
「色部義昭:WALL」
9/2-9/28
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ギンザ・グラフィック・ギャラリーで開催中の「色部義昭:WALL」を見てきました。
「中央区銀座七丁目7」と表記された一枚の街区表示板。ギンザ・グラフィック・ギャラリーの所在地です。青い看板に白く浮き出た文字。もちろん銀座に限らず、都内ほか、住所表示をしている地域であれば、あちこちに貼られています。見慣れている方も多いのではないでしょうか。
その街区表示板を変えようとするのがグラフィックデザイナーの色部義昭です。街区表示板を「街々の表札」、ないしは「町の風情をつくる要素」(パネルより)として捉え、東京らしい書体やサインシステムを提案しています。歴史や地域の特性を踏まえた街区表示板を作りました。
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新たな街区表示板が上の写真の左手、グレーの板です。どうでしょうか。既存のものと比べてどこかスタイリッシュ。縦ではなく横書きです。写真では分かりにくいかもしれませんが、表面の凹凸は踏襲されています。やや細目のフォントは東京シティフォントと名付けられました。
このフォントは街区表示板だけでなく、インフォメーションセンターやバス停、路上案内のサイン、それに街頭のバナーフラッグなどでの展開も想定しているそうです。そもそもの出発点は、2020年の東京オリンピックに向けて設置された「東京デザイン2020」フォーラムでのプレゼンテーションでもあります。
それにしても既存の街区表示板、規格が全て統一されているのかと思いきや、実際には色も書体もバラバラで、取り付け位置などのルールも特に決まっていないそうです。
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色部は「街区表示板の観察」にて既存の問題点を整理。特にローマ字の表記が粗雑であることを指摘しています。ちなみに街区表示板のはじまりは明治時代です。原型は縦書き、京都の森下仁丹が考案しました。また現在の表示板の設置が決まったのは1962年のことです。「住居表示に関する法律」の施行に遡ります。
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新たな街区表示板にグレーを採用したのは、東京にある「バラバラな色を吸収する」(パネルより)ためだそうです。確かに既存の青も目立ちますが、家屋やビルの外観からすればやや浮いている感も否めません。
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会場内には銀座を中心とした街区表示板の写真がずらりと並んでいます。もちろん色部の提唱した新しい表示板のサンプルもありました。どちらが街に溶け込み、なおかつサインシステムとして有用なのか。見比べてみるのも楽しいかもしれません。
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さて展示は二部構成です。階下のフロアでは過去に色部が手がけてきた様々なプロジェクトを紹介。色部の仕事は美術ファンにとっても身近です。例えばDIC川村記念美術館や市原湖畔美術館のサインシステムも色部によるもの。さらに山種美術館のサインも同様です。
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ちなみに私が最も好きなのは川村記念美術館のサインです。同館のリニューアルにあわせて生み出されたサイン。特に注意点に関するサインが実に明快でかつ、またどこか可愛らしくもあります。トイレ、エレベーター、また出口案内や展示室の表記も親しみやすい。初めて見た時から愛着がわきました。
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いちはらアートミックスも色部の仕事でした。また竹尾ペーパーショウのデザインなども行っています。街区表示板を起点に色部の各方面の仕事を見知る展覧会。なかなか楽しめました。
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9月28日まで開催されています。
「色部義昭:WALL」 ギンザ・グラフィック・ギャラリー(ggg)
会期:9月2日(水)~9月28日(月)
休廊:日曜・祝日
時間:11:00~19:00 土曜は18時まで。
料金:無料
住所:中央区銀座7-7-2 DNP銀座ビル1F
交通:東京メトロ銀座線・日比谷線・丸ノ内線銀座駅から徒歩5分。JR線有楽町駅、新橋駅から徒歩10分。
「色部義昭:WALL」
9/2-9/28
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ギンザ・グラフィック・ギャラリーで開催中の「色部義昭:WALL」を見てきました。
「中央区銀座七丁目7」と表記された一枚の街区表示板。ギンザ・グラフィック・ギャラリーの所在地です。青い看板に白く浮き出た文字。もちろん銀座に限らず、都内ほか、住所表示をしている地域であれば、あちこちに貼られています。見慣れている方も多いのではないでしょうか。
その街区表示板を変えようとするのがグラフィックデザイナーの色部義昭です。街区表示板を「街々の表札」、ないしは「町の風情をつくる要素」(パネルより)として捉え、東京らしい書体やサインシステムを提案しています。歴史や地域の特性を踏まえた街区表示板を作りました。
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新たな街区表示板が上の写真の左手、グレーの板です。どうでしょうか。既存のものと比べてどこかスタイリッシュ。縦ではなく横書きです。写真では分かりにくいかもしれませんが、表面の凹凸は踏襲されています。やや細目のフォントは東京シティフォントと名付けられました。
このフォントは街区表示板だけでなく、インフォメーションセンターやバス停、路上案内のサイン、それに街頭のバナーフラッグなどでの展開も想定しているそうです。そもそもの出発点は、2020年の東京オリンピックに向けて設置された「東京デザイン2020」フォーラムでのプレゼンテーションでもあります。
それにしても既存の街区表示板、規格が全て統一されているのかと思いきや、実際には色も書体もバラバラで、取り付け位置などのルールも特に決まっていないそうです。
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色部は「街区表示板の観察」にて既存の問題点を整理。特にローマ字の表記が粗雑であることを指摘しています。ちなみに街区表示板のはじまりは明治時代です。原型は縦書き、京都の森下仁丹が考案しました。また現在の表示板の設置が決まったのは1962年のことです。「住居表示に関する法律」の施行に遡ります。
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新たな街区表示板にグレーを採用したのは、東京にある「バラバラな色を吸収する」(パネルより)ためだそうです。確かに既存の青も目立ちますが、家屋やビルの外観からすればやや浮いている感も否めません。
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会場内には銀座を中心とした街区表示板の写真がずらりと並んでいます。もちろん色部の提唱した新しい表示板のサンプルもありました。どちらが街に溶け込み、なおかつサインシステムとして有用なのか。見比べてみるのも楽しいかもしれません。
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さて展示は二部構成です。階下のフロアでは過去に色部が手がけてきた様々なプロジェクトを紹介。色部の仕事は美術ファンにとっても身近です。例えばDIC川村記念美術館や市原湖畔美術館のサインシステムも色部によるもの。さらに山種美術館のサインも同様です。
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ちなみに私が最も好きなのは川村記念美術館のサインです。同館のリニューアルにあわせて生み出されたサイン。特に注意点に関するサインが実に明快でかつ、またどこか可愛らしくもあります。トイレ、エレベーター、また出口案内や展示室の表記も親しみやすい。初めて見た時から愛着がわきました。
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いちはらアートミックスも色部の仕事でした。また竹尾ペーパーショウのデザインなども行っています。街区表示板を起点に色部の各方面の仕事を見知る展覧会。なかなか楽しめました。
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9月28日まで開催されています。
「色部義昭:WALL」 ギンザ・グラフィック・ギャラリー(ggg)
会期:9月2日(水)~9月28日(月)
休廊:日曜・祝日
時間:11:00~19:00 土曜は18時まで。
料金:無料
住所:中央区銀座7-7-2 DNP銀座ビル1F
交通:東京メトロ銀座線・日比谷線・丸ノ内線銀座駅から徒歩5分。JR線有楽町駅、新橋駅から徒歩10分。
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「百年の愚行展」 3331ギャラリー
3331ギャラリー
「百年の愚行展」
8/22-9/27
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アーツ千代田3331ギャラリーで開催中の「百年の愚行展」を見てきました。
2002年と2014年に刊行された写真集「百年の愚行」。20~21世紀に人類が引き起こし、重大な被害をもたらした事件や事故を「愚行」と捉えて、その拡大を阻止しようと活動するグループがいます。その展覧会プロジェクトが、アーツ千代田の3331ギャラリーで行われています。
さて場内、天井から宙吊りになっているのが「愚行」の写真です。焦土と化した都市に濛々と煙る大気汚染。そして難民、飢餓、何とも虚ろな表情で前を見据える幼い子どもの姿も見えます。また奇形の魚でしょうか。破壊された自然も克明に写しています。さらに9.11のテロや3.11の原子力災害。戦争と環境汚染。ともすると誰が悪い云々でもなく、一見する限りでは顕在化していない問題もあるかもしれません。しかしながら根本的には誰もが無視して通れない、今も何ら解決されていない問題が取り上げられています。
写真を支える新聞に目が止まりました。いわゆるスクラップでしょうか。日本の新聞だけではありません。英字であり、また中国語もあるのでしょう。さらにおそらくは時事的な記事だけでなく、株価を示したグラフのようなものもあります。社会の諸問題は経済とも密接に絡み合っている。そうした意味もこめられているのかもしれません。
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基本的には写真展ですが、映像もありました。実は私自身、この写真集の存在も知らず、殆ど偶然に通りがかって見たに過ぎませんが、生々しく、時に記憶に新しい「愚行」を改めて目の当たりにすると、やはり考えさせられるものは多分にあります。
「百年の愚行 ONE HUNDRED YEARS OF IDIOCY」
「愚行」展では、展示を観客との「対話の場」と捉え、様々なトークイベントも行っているそうです。(イベントは有料。事前申込制。)活動は実践的、ないし政治的でもあります。
「百年の愚行展」各種トークイベント
観覧は無料でした。9月27日まで開催されています。
「百年の愚行展」 アーツ千代田3331(@3331ArtsChiyoda) 3331ギャラリー
会期:8月22日(土)~9月27日(日)
休館:火曜日
時間:12:00~20:00
料金:無料
場所:千代田区外神田6-11-14 アーツ千代田3331 1階
交通:東京メトロ銀座線末広町駅4番出口より徒歩1分、東京メトロ千代田線湯島駅6番出口より徒歩3分、都営大江戸線上野御徒町駅A1番出口より徒歩6分、JR御徒町駅南口より徒歩7分。
「百年の愚行展」
8/22-9/27
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アーツ千代田3331ギャラリーで開催中の「百年の愚行展」を見てきました。
2002年と2014年に刊行された写真集「百年の愚行」。20~21世紀に人類が引き起こし、重大な被害をもたらした事件や事故を「愚行」と捉えて、その拡大を阻止しようと活動するグループがいます。その展覧会プロジェクトが、アーツ千代田の3331ギャラリーで行われています。
さて場内、天井から宙吊りになっているのが「愚行」の写真です。焦土と化した都市に濛々と煙る大気汚染。そして難民、飢餓、何とも虚ろな表情で前を見据える幼い子どもの姿も見えます。また奇形の魚でしょうか。破壊された自然も克明に写しています。さらに9.11のテロや3.11の原子力災害。戦争と環境汚染。ともすると誰が悪い云々でもなく、一見する限りでは顕在化していない問題もあるかもしれません。しかしながら根本的には誰もが無視して通れない、今も何ら解決されていない問題が取り上げられています。
写真を支える新聞に目が止まりました。いわゆるスクラップでしょうか。日本の新聞だけではありません。英字であり、また中国語もあるのでしょう。さらにおそらくは時事的な記事だけでなく、株価を示したグラフのようなものもあります。社会の諸問題は経済とも密接に絡み合っている。そうした意味もこめられているのかもしれません。
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基本的には写真展ですが、映像もありました。実は私自身、この写真集の存在も知らず、殆ど偶然に通りがかって見たに過ぎませんが、生々しく、時に記憶に新しい「愚行」を改めて目の当たりにすると、やはり考えさせられるものは多分にあります。
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「愚行」展では、展示を観客との「対話の場」と捉え、様々なトークイベントも行っているそうです。(イベントは有料。事前申込制。)活動は実践的、ないし政治的でもあります。
「百年の愚行展」各種トークイベント
観覧は無料でした。9月27日まで開催されています。
「百年の愚行展」 アーツ千代田3331(@3331ArtsChiyoda) 3331ギャラリー
会期:8月22日(土)~9月27日(日)
休館:火曜日
時間:12:00~20:00
料金:無料
場所:千代田区外神田6-11-14 アーツ千代田3331 1階
交通:東京メトロ銀座線末広町駅4番出口より徒歩1分、東京メトロ千代田線湯島駅6番出口より徒歩3分、都営大江戸線上野御徒町駅A1番出口より徒歩6分、JR御徒町駅南口より徒歩7分。
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「伝説の洋画家たち 二科100年展」 東京都美術館
東京都美術館
「伝説の洋画家たち 二科100年展」
7/18-9/6
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東京都美術館で開催中の「伝説の洋画家たち 二科100年展」を見てきました。
大正3年に結成された美術家団体の二科会。今年で100年目を迎えたそうです。
その歴史を振り返る展覧会です。総作品数は131点。全て過去の二科展に出展された作品で構成されています。
さて大正3年の記念すべき第1回展、場所は上野竹之台の陳列館です。言わば文展に対抗する形でスタートしました。
冒頭は草創期、二科会の創設メンバーです。そのうちの一人は坂本繁二郎。「海岸の牛」はどうでしょうか。青い海を背に、やや黄緑色がかった草地に立つ一頭の牛。ぼんやりとした表情でこちらを向いています。得意のパステルカラーです。ただし朧げな色調の中でも造形は力強い。牛の肌がやや濃い白で塗られていました。
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有島生馬「鬼」 1914年 東京都現代美術館
有島生馬も創立会員の一人です。第1回展に出品したのは「鬼」。耳が大きく、頭を剃った男、いや鬼なのでしょう。太い左腕を曲げています。身体は肌色というよりも、オレンジ。そして背景には赤いカーテンが吊られています。何とも奇異な光景です。一体、何をモデルに描いたのでしょうか。
同じく創立会員では山下新太郎の「端午」も目を引きました。こちらは第2回展の出品作です。モデルはまだ幼き子ども。大きな椅子に座っては少し笑みを浮かべています。窓の外では鯉のぼりが風に靡いていました。晴天です。ルノワールの色調を思い出したのは私だけでしょうか。ちなみに本作は当時、とても人気を集め、貸出依頼が多く寄せられたそうです。ゆえにレプリカを制作したという逸話も残っています。
ほか草創期では岸田劉生、萬鉄五郎も重要ではないでしょうか。また珍しいのは劉生の「男の首」、ブロンズの男性像です。何と生涯で2作しか残さなかった立体のうちの一つ。まるで怒ったような顔をしています。ゴツゴツとした質感も特徴的でした。
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関根正二「姉弟」 1918年 福島県立美術館
関根正二の「姉弟」も心を打ちました。ひまわり畑でしょうか。妙に大人びているものの、穏やかな笑みをたたえた赤子。明るい朱色の服を着ています。一方で対照的なのが少女です。赤子を抱いては歩く。家路についているのでしょう。下を向いては疲れた表情をしています。二人は姉弟の愛を思わせるように密着しています。しかしながらどことない物悲しさを感じてなりませんでした。
1920~1930年頃は二科会に様々な分派が生まれた時期。また外国人の作家も出品しては多様に展開していきます。
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東郷青児「ピエロ」 1926年 東郷青児記念損保ジャパン日本興亜美術館
東郷青児では「ピエロ」が充実しています。第15回展の出品作。東郷はこの時期、長くフランスに留学していました。構成は実に堅牢です。ダダや未来派を吸収しながらも、独自の画風を切り開いています。
一際大きな画面です。中川紀元の「アラベスク」。パリでマティスに感動し、教えを受けたという画家ですが、舞台は同地のカフェでしょうか。やや上から覗き込むような構図で語り合う人々の姿を描いています。テーブルを囲み、お茶を飲みながら身振り手振りで談笑する紳士や婦人。皆、着飾っています。左上にはピアノを弾いている男もいました。カフェの賑わい、話し声が伝わってくるような一枚でもあります。
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小出楢重「帽子をかぶった自画像」 1924年 石橋財団ブリヂストン美術館
小出楢重の「帽子をかぶった自画像」も興味を引きました。薄暗いアトリエの一角、画家本人がキャンバスの前に立ち、絵筆とパレットを持ってはポーズをとっています。後ろの椅子の上に置いてある楽器はトランペットでしょうか。光は下方、椅子や画家の足に当たっています。さらに画面の下部に注目です。何でも小出は画面をなかなか決められず、後になってから下に5センチほどキャンバスを足しては描いたそうです。その跡を確かに見ることが出来ました。
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佐伯祐三「新聞屋」 1927年 個人蔵
佐伯祐三の遺作が出ていました。「新聞屋」です。2度目のパリ生活で描いたという一枚、店先には新聞がたくさん積まれています。そして中央にぽっかり開いた黒。店の出入口でしょうか。何らの人影はおろか、一筋の光もありません。まさしく真っ暗闇。冥界への扉のようです。思わず吸い込まれそうになりました。
長谷川利行の「酒売場」にも目が止まりました。舞台は浅草の神谷バー。売場というよりも酒場と言った方が良いのかもしれません。殴り書きのような筆触です。何やら退廃的。人の姿は必ずしも判別しませんが、酒場特有の喧噪は伝わってきました。なお長谷川は独学の画家で、経歴については不明な点も多いそうです。簡易宿泊所に寝泊まりしては、酒場に通い、いつしか健康を害して亡くなってしまいます。他にはどのような作品を残しているのでしょうか。
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藤田嗣治「メキシコに於けるマドレーヌ」 1934年 京都国立近代美術館
このほか戦前では藤田嗣治、桂ゆき、吉原治良、松本竣介などの優品も並んでいます。またマティスの「青い胴着の女」も出ていました。ちらしに「名作が集結」と記されていましたが、あながち誇張ではないかもしれません。
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岡本太郎「重工業」 1949年 川崎市岡本太郎美術館
戦後では岡本太郎の「重工業」も目を引きました。終戦4年後、1949年の作品、鉄工所がモチーフかもしれません。ギラギラとした火花が散り、歯車が回転し、人が躍動します。何故か長ネギのみが具象的に描かれています。またいわゆる幽玄主義に入る前の岡田謙三の「シルク」も印象に残りました。
なお今回の展示では二科会を4つの時代、つまり戦前の「草創期」、「揺籃期」、「発展そして解散」、そして戦後の「再興期」に分けて紹介。その歴史を時代順に追っています。ただし時代の配分は均一ではありません。圧倒的に重点が置かれてるのは草創から解散、つまり戦前までです。
実のところ二科展自体は戦前が30回、戦後が31回から100回展と、後者の方が多く行われているわけですが、出品作だけを取り上げれば戦後は12点と僅かです。残り118点は全て戦前の作品でした。事実上、二科展の戦前の展開を振り返る展示と言えるかもしれません。
[伝説の洋画家たち 二科100年展 巡回予定]
大阪市立美術館:9月12日(土)~11月1日(日)
石橋美術館:11月7日(土)~12月27日(日)
全70館、100名の画家の展覧会です。一部の個人蔵を除くと、全国各地の国公立美術館のコレクションが目立ちました。
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会期末が近づいていますが、館内はさほど混雑していませんでした。
9月6日まで開催されています。
「伝説の洋画家たち 二科100年展」 東京都美術館(@tobikan_jp)
会期:7月18日(土) ~9月6日(日)
時間:9:30~17:30
*入館は閉館の30分前まで。
*毎週金曜日は21時まで開館。
休館:月曜日。7月21日(火)。但し7月20日(月・祝)は開館。
料金:一般1500(1300)円、大学生1200(1000)円、高校生800(600)円。65歳以上1000(800)円。中学生以下無料。
*( )は20名以上の団体料金。
*8月19日(水)はシルバーデーのため65歳以上は無料。
*毎月第3土・翌日曜日は家族ふれあいの日のため、18歳未満の子を同伴する保護者(都内在住)は一般料金の半額。(要証明書)
住所:台東区上野公園8-36
交通:JR線上野駅公園口より徒歩7分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅7番出口より徒歩10分。京成線上野駅より徒歩10分。
「伝説の洋画家たち 二科100年展」
7/18-9/6
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東京都美術館で開催中の「伝説の洋画家たち 二科100年展」を見てきました。
大正3年に結成された美術家団体の二科会。今年で100年目を迎えたそうです。
その歴史を振り返る展覧会です。総作品数は131点。全て過去の二科展に出展された作品で構成されています。
さて大正3年の記念すべき第1回展、場所は上野竹之台の陳列館です。言わば文展に対抗する形でスタートしました。
冒頭は草創期、二科会の創設メンバーです。そのうちの一人は坂本繁二郎。「海岸の牛」はどうでしょうか。青い海を背に、やや黄緑色がかった草地に立つ一頭の牛。ぼんやりとした表情でこちらを向いています。得意のパステルカラーです。ただし朧げな色調の中でも造形は力強い。牛の肌がやや濃い白で塗られていました。
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有島生馬「鬼」 1914年 東京都現代美術館
有島生馬も創立会員の一人です。第1回展に出品したのは「鬼」。耳が大きく、頭を剃った男、いや鬼なのでしょう。太い左腕を曲げています。身体は肌色というよりも、オレンジ。そして背景には赤いカーテンが吊られています。何とも奇異な光景です。一体、何をモデルに描いたのでしょうか。
同じく創立会員では山下新太郎の「端午」も目を引きました。こちらは第2回展の出品作です。モデルはまだ幼き子ども。大きな椅子に座っては少し笑みを浮かべています。窓の外では鯉のぼりが風に靡いていました。晴天です。ルノワールの色調を思い出したのは私だけでしょうか。ちなみに本作は当時、とても人気を集め、貸出依頼が多く寄せられたそうです。ゆえにレプリカを制作したという逸話も残っています。
ほか草創期では岸田劉生、萬鉄五郎も重要ではないでしょうか。また珍しいのは劉生の「男の首」、ブロンズの男性像です。何と生涯で2作しか残さなかった立体のうちの一つ。まるで怒ったような顔をしています。ゴツゴツとした質感も特徴的でした。
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関根正二「姉弟」 1918年 福島県立美術館
関根正二の「姉弟」も心を打ちました。ひまわり畑でしょうか。妙に大人びているものの、穏やかな笑みをたたえた赤子。明るい朱色の服を着ています。一方で対照的なのが少女です。赤子を抱いては歩く。家路についているのでしょう。下を向いては疲れた表情をしています。二人は姉弟の愛を思わせるように密着しています。しかしながらどことない物悲しさを感じてなりませんでした。
1920~1930年頃は二科会に様々な分派が生まれた時期。また外国人の作家も出品しては多様に展開していきます。
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東郷青児「ピエロ」 1926年 東郷青児記念損保ジャパン日本興亜美術館
東郷青児では「ピエロ」が充実しています。第15回展の出品作。東郷はこの時期、長くフランスに留学していました。構成は実に堅牢です。ダダや未来派を吸収しながらも、独自の画風を切り開いています。
一際大きな画面です。中川紀元の「アラベスク」。パリでマティスに感動し、教えを受けたという画家ですが、舞台は同地のカフェでしょうか。やや上から覗き込むような構図で語り合う人々の姿を描いています。テーブルを囲み、お茶を飲みながら身振り手振りで談笑する紳士や婦人。皆、着飾っています。左上にはピアノを弾いている男もいました。カフェの賑わい、話し声が伝わってくるような一枚でもあります。
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小出楢重「帽子をかぶった自画像」 1924年 石橋財団ブリヂストン美術館
小出楢重の「帽子をかぶった自画像」も興味を引きました。薄暗いアトリエの一角、画家本人がキャンバスの前に立ち、絵筆とパレットを持ってはポーズをとっています。後ろの椅子の上に置いてある楽器はトランペットでしょうか。光は下方、椅子や画家の足に当たっています。さらに画面の下部に注目です。何でも小出は画面をなかなか決められず、後になってから下に5センチほどキャンバスを足しては描いたそうです。その跡を確かに見ることが出来ました。
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佐伯祐三「新聞屋」 1927年 個人蔵
佐伯祐三の遺作が出ていました。「新聞屋」です。2度目のパリ生活で描いたという一枚、店先には新聞がたくさん積まれています。そして中央にぽっかり開いた黒。店の出入口でしょうか。何らの人影はおろか、一筋の光もありません。まさしく真っ暗闇。冥界への扉のようです。思わず吸い込まれそうになりました。
長谷川利行の「酒売場」にも目が止まりました。舞台は浅草の神谷バー。売場というよりも酒場と言った方が良いのかもしれません。殴り書きのような筆触です。何やら退廃的。人の姿は必ずしも判別しませんが、酒場特有の喧噪は伝わってきました。なお長谷川は独学の画家で、経歴については不明な点も多いそうです。簡易宿泊所に寝泊まりしては、酒場に通い、いつしか健康を害して亡くなってしまいます。他にはどのような作品を残しているのでしょうか。
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藤田嗣治「メキシコに於けるマドレーヌ」 1934年 京都国立近代美術館
このほか戦前では藤田嗣治、桂ゆき、吉原治良、松本竣介などの優品も並んでいます。またマティスの「青い胴着の女」も出ていました。ちらしに「名作が集結」と記されていましたが、あながち誇張ではないかもしれません。
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岡本太郎「重工業」 1949年 川崎市岡本太郎美術館
戦後では岡本太郎の「重工業」も目を引きました。終戦4年後、1949年の作品、鉄工所がモチーフかもしれません。ギラギラとした火花が散り、歯車が回転し、人が躍動します。何故か長ネギのみが具象的に描かれています。またいわゆる幽玄主義に入る前の岡田謙三の「シルク」も印象に残りました。
なお今回の展示では二科会を4つの時代、つまり戦前の「草創期」、「揺籃期」、「発展そして解散」、そして戦後の「再興期」に分けて紹介。その歴史を時代順に追っています。ただし時代の配分は均一ではありません。圧倒的に重点が置かれてるのは草創から解散、つまり戦前までです。
実のところ二科展自体は戦前が30回、戦後が31回から100回展と、後者の方が多く行われているわけですが、出品作だけを取り上げれば戦後は12点と僅かです。残り118点は全て戦前の作品でした。事実上、二科展の戦前の展開を振り返る展示と言えるかもしれません。
[伝説の洋画家たち 二科100年展 巡回予定]
大阪市立美術館:9月12日(土)~11月1日(日)
石橋美術館:11月7日(土)~12月27日(日)
全70館、100名の画家の展覧会です。一部の個人蔵を除くと、全国各地の国公立美術館のコレクションが目立ちました。
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会期末が近づいていますが、館内はさほど混雑していませんでした。
9月6日まで開催されています。
「伝説の洋画家たち 二科100年展」 東京都美術館(@tobikan_jp)
会期:7月18日(土) ~9月6日(日)
時間:9:30~17:30
*入館は閉館の30分前まで。
*毎週金曜日は21時まで開館。
休館:月曜日。7月21日(火)。但し7月20日(月・祝)は開館。
料金:一般1500(1300)円、大学生1200(1000)円、高校生800(600)円。65歳以上1000(800)円。中学生以下無料。
*( )は20名以上の団体料金。
*8月19日(水)はシルバーデーのため65歳以上は無料。
*毎月第3土・翌日曜日は家族ふれあいの日のため、18歳未満の子を同伴する保護者(都内在住)は一般料金の半額。(要証明書)
住所:台東区上野公園8-36
交通:JR線上野駅公園口より徒歩7分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅7番出口より徒歩10分。京成線上野駅より徒歩10分。
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「浄瑠璃寺」 京都府木津川市
真言律宗
「小田原山 浄瑠璃寺」
2015/8/20
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「真言律宗 浄瑠璃寺」へ行ってきました。
京都府最南端、奈良県との県境に面した木津川市。そのさらに南西部の山中に位置するのが浄瑠璃寺です。
創建は1047年。平安時代です。(ただし諸説あります。)12世紀には九体阿弥陀堂が造られ、平安末期には京都より三重塔を移設。今に至る寺観がおおむね整備されました。
東に薬師仏、中央に宝池、そして西が九体阿弥陀如来です。池を挟んで西に阿弥陀如来を配する伽藍は、平等院と同様です。過去仏と来世、未来仏。此岸と彼岸の世界を表しています。
さて浄瑠璃寺、所在こそ京都府内ですが、アクセスは奈良市中からの方が遥かに便利です。JR、もしくは近鉄の奈良駅より浄瑠璃寺行きのバスが出ています。
9時より15時頃まで1時間に1本。(12時台はありません。)本数こそ僅かですが、乗ってしまえば意外と早い。何と全便が急行バスです。途中、2~3の停留所にしかとまりません。ともかく山の中と聞いていたのでどれほど遠いのかと思いましたが、実際には30分もかからないうちに到着しました。
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バス停から浄瑠璃寺入口方向
浄瑠璃寺のバス停のそばがお寺の入口です。実に静かでした。土産物屋らしき店がありましたが、そもそも開いていませんでした。人気がありません。周囲は鬱蒼とした緑に囲まれた山間の田園地帯です。ちょうど雨が降ったからでしょうか。聞こえるのは雨音とウシガエルの合唱、そして蝉の声だけです。それ以外、ほぼ一切何も聞こえませんでした。
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宝池と九体阿弥陀堂(右)
山門をくぐると正面に池が開けてきました。左を向くと小高い丘の上に三重塔がそびえています。一方、右手は平屋の本堂。九体阿弥陀堂です。九体の阿弥陀仏を祀るゆえか横長です。塔とともに国宝の指定を受けています。
こうした九体の阿弥陀仏を祀る阿弥陀堂は、当時、京都を中心に競って建造されましたが、今残っているのがここ浄瑠璃寺だけです。
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浄瑠璃寺「九体阿弥陀堂」 藤原時代 国宝
此岸と彼岸。本来は三重塔から廻るべきなのかもしれませんが、気づかなった私は、まず阿弥陀堂の方へと向かいました。受付で拝観料を支払って中に入ります。靴を脱ぎ、お堂の裏側の外廊下を奥へ進みます。ちょうど受付の反対側に入口がありました。
そっと扉を開けてみました。並ぶのは阿弥陀如来像です。全九体で横一列。これほどのスケールで祀られているのを見たことはありせん。堂々たる姿です。中は薄暗いものの、金色の輝きを未だ失っていないようにも見えます。思わず息をのんでしまいました。
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浄瑠璃寺「西方九体阿弥陀如来像」 藤原時代 国宝 *パンフレット写真より
堂内では一体一体の仏像の前でじっくりと向き合うことが出来ます。ちょうど前に座って上を見やると、阿弥陀仏の視線にすっぽり収まりました。じっと見据える視線。時に険しくも、どこか優し気でもあります。まさしく荘厳です。(内部の撮影は出来ません。上に掲載した写真はパンフレットの画像です。)
中には九体阿弥陀如来像のほか、不動明王に四天王像、さらに子安地蔵菩薩像などが祀られています。なお四天王像に関しては持国天と増長天の二体のみでした。ほか多聞天は東京国立博物館、広目天は京都国立博物館に寄託されています。
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浄瑠璃寺「三重塔」 藤原時代 国宝
本堂を出て池の端を歩き、反対側にある三重塔へ向かいました。祀られているのは薬師如来。ただし秘仏です。開扉日が限定されています。この日に拝むことは叶いませんでした。(ほかにも吉祥天女像や大日如来像などが秘仏として扱われています。)
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三重塔より九体阿弥陀堂方向
三重塔は階段上のやや高い場所に建てられています。そこから池越しに彼岸、阿弥陀堂を眺めてみました。一体一体の如来の前にそれぞれ板扉が設置されていることが分かります。パンフレットによれば春分と秋分の彼岸の中日には、太陽がちょうど堂の後方へ沈んでいくそうです。どのように美しい光景なのでしょうか。今でこそ中に入ることが出来ますが、元々は堂の外の東側から来迎仏を拝むのが一般的だったのかもしれません。
さて浄瑠璃寺のある当尾一帯は古くから浄土信仰の霊地として栄えた地域。石仏が多いことから、現在は「当尾の石仏の里」とも名付けられています。
観光に際しては浄瑠璃寺とあわせ、その先に位置する岩船寺とバスで廻るのが一般的のようですが、この日は時間の都合で断念。ただし少しバスまでに時間があったので、しばらく散歩することにしました。石仏は浄瑠璃寺の徒歩圏内にもいくつか点在しています。
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「やぶの中三尊」
茂み、まさに薮の中に潜むように立つのが「やぶの中三尊」です。正面に地蔵菩薩、右に十一面観音様、そして左の岩に彫られたのが阿弥陀如来。銘に弘長2年(1262年)と記されていますが、それは当尾地区の石仏で最も古いものでもあるそうです。
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浄瑠璃寺周辺地区
ぷらりと石仏を探しての散歩道。元々、当尾は花崗岩が多く露出している地域でもあります。かつては僧や行者が奈良から伊賀の方へと行き交っていました。何時しか誰にともなく岩へ石仏を刻んでいったのかもしれません。
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宝池と三重塔(左)
バスに関しては奈良交通の世界遺産1dayPassが便利でした。Passを使うと往復500円で奈良駅と行き来することが出来ます。(通常は片道570円。)
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浄瑠璃寺山門
夏の雨の中の浄瑠璃寺彼岸体験。小さな小さなお寺です。先だっての「白鳳展」の観覧にあわせての短い滞在でしたが、しばし満喫しました。
「真言律宗 小田原山 浄瑠璃寺」
拝観時間:9:30~17:00。
*ただし冬季(12~2月)は前後各1時間短縮。
拝観料:300円。
住所:京都府木津川市加茂町西小札場40
交通:JR線、近鉄奈良駅より奈良交通バス112系統「浄瑠璃寺」行き、終点下車すぐ。(全便急行。所用時間約30分。)
「小田原山 浄瑠璃寺」
2015/8/20
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「真言律宗 浄瑠璃寺」へ行ってきました。
京都府最南端、奈良県との県境に面した木津川市。そのさらに南西部の山中に位置するのが浄瑠璃寺です。
創建は1047年。平安時代です。(ただし諸説あります。)12世紀には九体阿弥陀堂が造られ、平安末期には京都より三重塔を移設。今に至る寺観がおおむね整備されました。
東に薬師仏、中央に宝池、そして西が九体阿弥陀如来です。池を挟んで西に阿弥陀如来を配する伽藍は、平等院と同様です。過去仏と来世、未来仏。此岸と彼岸の世界を表しています。
さて浄瑠璃寺、所在こそ京都府内ですが、アクセスは奈良市中からの方が遥かに便利です。JR、もしくは近鉄の奈良駅より浄瑠璃寺行きのバスが出ています。
9時より15時頃まで1時間に1本。(12時台はありません。)本数こそ僅かですが、乗ってしまえば意外と早い。何と全便が急行バスです。途中、2~3の停留所にしかとまりません。ともかく山の中と聞いていたのでどれほど遠いのかと思いましたが、実際には30分もかからないうちに到着しました。
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バス停から浄瑠璃寺入口方向
浄瑠璃寺のバス停のそばがお寺の入口です。実に静かでした。土産物屋らしき店がありましたが、そもそも開いていませんでした。人気がありません。周囲は鬱蒼とした緑に囲まれた山間の田園地帯です。ちょうど雨が降ったからでしょうか。聞こえるのは雨音とウシガエルの合唱、そして蝉の声だけです。それ以外、ほぼ一切何も聞こえませんでした。
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宝池と九体阿弥陀堂(右)
山門をくぐると正面に池が開けてきました。左を向くと小高い丘の上に三重塔がそびえています。一方、右手は平屋の本堂。九体阿弥陀堂です。九体の阿弥陀仏を祀るゆえか横長です。塔とともに国宝の指定を受けています。
こうした九体の阿弥陀仏を祀る阿弥陀堂は、当時、京都を中心に競って建造されましたが、今残っているのがここ浄瑠璃寺だけです。
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浄瑠璃寺「九体阿弥陀堂」 藤原時代 国宝
此岸と彼岸。本来は三重塔から廻るべきなのかもしれませんが、気づかなった私は、まず阿弥陀堂の方へと向かいました。受付で拝観料を支払って中に入ります。靴を脱ぎ、お堂の裏側の外廊下を奥へ進みます。ちょうど受付の反対側に入口がありました。
そっと扉を開けてみました。並ぶのは阿弥陀如来像です。全九体で横一列。これほどのスケールで祀られているのを見たことはありせん。堂々たる姿です。中は薄暗いものの、金色の輝きを未だ失っていないようにも見えます。思わず息をのんでしまいました。
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浄瑠璃寺「西方九体阿弥陀如来像」 藤原時代 国宝 *パンフレット写真より
堂内では一体一体の仏像の前でじっくりと向き合うことが出来ます。ちょうど前に座って上を見やると、阿弥陀仏の視線にすっぽり収まりました。じっと見据える視線。時に険しくも、どこか優し気でもあります。まさしく荘厳です。(内部の撮影は出来ません。上に掲載した写真はパンフレットの画像です。)
中には九体阿弥陀如来像のほか、不動明王に四天王像、さらに子安地蔵菩薩像などが祀られています。なお四天王像に関しては持国天と増長天の二体のみでした。ほか多聞天は東京国立博物館、広目天は京都国立博物館に寄託されています。
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浄瑠璃寺「三重塔」 藤原時代 国宝
本堂を出て池の端を歩き、反対側にある三重塔へ向かいました。祀られているのは薬師如来。ただし秘仏です。開扉日が限定されています。この日に拝むことは叶いませんでした。(ほかにも吉祥天女像や大日如来像などが秘仏として扱われています。)
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三重塔より九体阿弥陀堂方向
三重塔は階段上のやや高い場所に建てられています。そこから池越しに彼岸、阿弥陀堂を眺めてみました。一体一体の如来の前にそれぞれ板扉が設置されていることが分かります。パンフレットによれば春分と秋分の彼岸の中日には、太陽がちょうど堂の後方へ沈んでいくそうです。どのように美しい光景なのでしょうか。今でこそ中に入ることが出来ますが、元々は堂の外の東側から来迎仏を拝むのが一般的だったのかもしれません。
さて浄瑠璃寺のある当尾一帯は古くから浄土信仰の霊地として栄えた地域。石仏が多いことから、現在は「当尾の石仏の里」とも名付けられています。
観光に際しては浄瑠璃寺とあわせ、その先に位置する岩船寺とバスで廻るのが一般的のようですが、この日は時間の都合で断念。ただし少しバスまでに時間があったので、しばらく散歩することにしました。石仏は浄瑠璃寺の徒歩圏内にもいくつか点在しています。
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「やぶの中三尊」
茂み、まさに薮の中に潜むように立つのが「やぶの中三尊」です。正面に地蔵菩薩、右に十一面観音様、そして左の岩に彫られたのが阿弥陀如来。銘に弘長2年(1262年)と記されていますが、それは当尾地区の石仏で最も古いものでもあるそうです。
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浄瑠璃寺周辺地区
ぷらりと石仏を探しての散歩道。元々、当尾は花崗岩が多く露出している地域でもあります。かつては僧や行者が奈良から伊賀の方へと行き交っていました。何時しか誰にともなく岩へ石仏を刻んでいったのかもしれません。
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宝池と三重塔(左)
バスに関しては奈良交通の世界遺産1dayPassが便利でした。Passを使うと往復500円で奈良駅と行き来することが出来ます。(通常は片道570円。)
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浄瑠璃寺山門
夏の雨の中の浄瑠璃寺彼岸体験。小さな小さなお寺です。先だっての「白鳳展」の観覧にあわせての短い滞在でしたが、しばし満喫しました。
「真言律宗 小田原山 浄瑠璃寺」
拝観時間:9:30~17:00。
*ただし冬季(12~2月)は前後各1時間短縮。
拝観料:300円。
住所:京都府木津川市加茂町西小札場40
交通:JR線、近鉄奈良駅より奈良交通バス112系統「浄瑠璃寺」行き、終点下車すぐ。(全便急行。所用時間約30分。)
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9月の展覧会・ギャラリーetc
多少暑さのぶり返しはあるものの、ここ数日で一気に涼しくなった感があります。9月中に見たい展覧会をリストアップしてみました。
展覧会
・「引込線 2015」 旧所沢市立第2学校給食センター(~9/23)
・「東の正倉院 金沢文庫」 神奈川県立金沢文庫(~9/27)
・「鎌倉からはじまった。1951-2016 PART2」 神奈川県立近代美術館鎌倉館(~10/4)
・「アイヌ工芸品展 木と生きるーアイヌのくらしと木の造形」 入間市博物館(~10/18)
・「唐画もん 武禅にろう苑、若冲も」 千葉市美術館(9/8~10/18)
・「琳派と秋の彩り」 山種美術館(~10/25)
・「蔵王権現と修験の秘宝」 三井記念美術館(~11/3)
・「『月映(つくはえ)』 田中恭吉・藤森静雄・恩地孝四郎」 東京ステーションギャラリー(9/19~11/3)
・「根津青山の至宝 財団創立75周年記念特別展」 根津美術館(9/19~11/3)
・「もうひとつの輝き 最後の印象派」 東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館(9/5~11/8)
・「没後100年 五姓田義松ー最後の天才」 神奈川県立歴史博物館(9/19~11/8)
・「アルフレッド・シスレー展ー印象派、空と水辺の風景画家」 練馬区立美術館(9/20~11/15)
・「舟越桂ー私の中のスフィンクス」 群馬県立館林美術館(9/19~12/6)
・「ウィーン美術史美術館所蔵 風景画の誕生」 Bunkamura ザ・ミュージアム(9/9~12/7)
・「マルモッタン・モネ美術館所蔵 モネ展」 東京都美術館(9/19~12/13)
・「ニキ・ド・サンファル展」 国立新美術館(9/18~12/14)
・「生誕120年記念 芹沢銈介展」 日本民藝館(~11/23)
・「マリー・ローランサン」 府中市美術館(9/12~12/20)
・「SHUNGA 春画展」 永青文庫(9/19~12/23)
・「そこにある、時間ードイツ銀行コレクションの現代写真」 原美術館(9/12~1/11)
ギャラリー
・「三田村 光土里 『DRIFT』」 バンビナートギャラリー(9/5~9/20)
・「塩田千春」 ケンジタキギャラリー(~9/26)
・「Celsius」 CASHI(~9/27)
・「境界 高山明+小泉明郎展」 メゾンエルメス(~10/12)
・「資本空間ースリー・ディメンショナル・ロジカル・ピクチャーの彼岸 vol.4 鈴木孝幸」 ギャラリーαM(9/12~10/17)
・「福永大介 Documenting Senses」 小山登美夫ギャラリー(9/12~10/17)
月並みな言葉ではありますが、芸術の秋。9月からも数多くの展覧会が始まります。
まず挙げたいのは練馬区立美術館です。アルフレッド・シスレーの回顧展が開催されます。
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「アルフレッド・シスレー展ー印象派、空と水辺の風景画家」@練馬区立美術館(9/20~11/15)
シスレーの画業を油彩や資料などで辿る展覧会。単に作品を時間軸で追うだけではなく、モチーフとして重要な「河川」をはじめ、日本への影響関係も見定める内容となるそうです。
それにしてもシスレーの名を冠した回顧展、関東近郊で行われるのはいつ以来のことでしょうか。実は私の最も好きな印象派画家がシスレーでもあります。ともかくは期待したいところです。
全国巡回中だった「月映」がいよいよ東京へやって来ます。東京ステーションギャラリーで「『月映(つくはえ)』 田中恭吉・藤森静雄・恩地孝四郎」が始まります。
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「『月映(つくはえ)』 田中恭吉・藤森静雄・恩地孝四郎」@東京ステーションギャラリー(9/19~11/3)
「月映」とは表題にもある3名の芸術家、田中恭吉、藤森静雄、恩地孝四郎が共同で刊行した詩画集。今年で刊行から約100年を迎えるそうです。
うち私が注目したいのが田中恭吉です。と言うのも何年か前、確か松濤美術館での「大正イマジュリィ」展にて「冬虫夏草」を見て、強く心打たれた記憶があります。以来、どこかまとまった形で見る機会があればと願っていました。楽しみにしたいと思います。
何ともインパクトのあるチラシではないでしょうか。主に明治時代に活動した画家、五姓田義松の回顧展が、神奈川県立歴史博物館で行われます。
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「没後100年 五姓田義松ー最後の天才」@神奈川県立歴史博物館(9/19~11/8)
展示替えを挟むとはいえ、出品作は資料を含めて全800点。驚きのスケールです。必ずしも広いとは言い難い神奈川歴博でどのように展示するのか想像もつきません。
なお五姓田展ですが、随分と告知、広報にも力が入っているようです。特設サイトに専用のツイッターアカウント(@Goseda_Yosimatu)もあります。そちらも事前にチェックしたいものです。
秋の大型展としては東京都美術館の「マルモッタン・モネ美術館所蔵 モネ展」なども人気を集めるのではないでしょうか。ただおそらく最も話題となり、また混雑が予想されるのは永青文庫の春画展かもしれません。
「SHUNGA 春画展」@永青文庫(9/19~12/23)
開館時間は日曜を除き、連日夜8時まで。(月休)夜間も狙い目となるのでしょうか。ただし前後期で展示替えがあるそうです。まずは早めに見に行きたいと思います。
それでは今月も宜しくお願いします。
展覧会
・「引込線 2015」 旧所沢市立第2学校給食センター(~9/23)
・「東の正倉院 金沢文庫」 神奈川県立金沢文庫(~9/27)
・「鎌倉からはじまった。1951-2016 PART2」 神奈川県立近代美術館鎌倉館(~10/4)
・「アイヌ工芸品展 木と生きるーアイヌのくらしと木の造形」 入間市博物館(~10/18)
・「唐画もん 武禅にろう苑、若冲も」 千葉市美術館(9/8~10/18)
・「琳派と秋の彩り」 山種美術館(~10/25)
・「蔵王権現と修験の秘宝」 三井記念美術館(~11/3)
・「『月映(つくはえ)』 田中恭吉・藤森静雄・恩地孝四郎」 東京ステーションギャラリー(9/19~11/3)
・「根津青山の至宝 財団創立75周年記念特別展」 根津美術館(9/19~11/3)
・「もうひとつの輝き 最後の印象派」 東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館(9/5~11/8)
・「没後100年 五姓田義松ー最後の天才」 神奈川県立歴史博物館(9/19~11/8)
・「アルフレッド・シスレー展ー印象派、空と水辺の風景画家」 練馬区立美術館(9/20~11/15)
・「舟越桂ー私の中のスフィンクス」 群馬県立館林美術館(9/19~12/6)
・「ウィーン美術史美術館所蔵 風景画の誕生」 Bunkamura ザ・ミュージアム(9/9~12/7)
・「マルモッタン・モネ美術館所蔵 モネ展」 東京都美術館(9/19~12/13)
・「ニキ・ド・サンファル展」 国立新美術館(9/18~12/14)
・「生誕120年記念 芹沢銈介展」 日本民藝館(~11/23)
・「マリー・ローランサン」 府中市美術館(9/12~12/20)
・「SHUNGA 春画展」 永青文庫(9/19~12/23)
・「そこにある、時間ードイツ銀行コレクションの現代写真」 原美術館(9/12~1/11)
ギャラリー
・「三田村 光土里 『DRIFT』」 バンビナートギャラリー(9/5~9/20)
・「塩田千春」 ケンジタキギャラリー(~9/26)
・「Celsius」 CASHI(~9/27)
・「境界 高山明+小泉明郎展」 メゾンエルメス(~10/12)
・「資本空間ースリー・ディメンショナル・ロジカル・ピクチャーの彼岸 vol.4 鈴木孝幸」 ギャラリーαM(9/12~10/17)
・「福永大介 Documenting Senses」 小山登美夫ギャラリー(9/12~10/17)
月並みな言葉ではありますが、芸術の秋。9月からも数多くの展覧会が始まります。
まず挙げたいのは練馬区立美術館です。アルフレッド・シスレーの回顧展が開催されます。
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「アルフレッド・シスレー展ー印象派、空と水辺の風景画家」@練馬区立美術館(9/20~11/15)
シスレーの画業を油彩や資料などで辿る展覧会。単に作品を時間軸で追うだけではなく、モチーフとして重要な「河川」をはじめ、日本への影響関係も見定める内容となるそうです。
それにしてもシスレーの名を冠した回顧展、関東近郊で行われるのはいつ以来のことでしょうか。実は私の最も好きな印象派画家がシスレーでもあります。ともかくは期待したいところです。
全国巡回中だった「月映」がいよいよ東京へやって来ます。東京ステーションギャラリーで「『月映(つくはえ)』 田中恭吉・藤森静雄・恩地孝四郎」が始まります。
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「『月映(つくはえ)』 田中恭吉・藤森静雄・恩地孝四郎」@東京ステーションギャラリー(9/19~11/3)
「月映」とは表題にもある3名の芸術家、田中恭吉、藤森静雄、恩地孝四郎が共同で刊行した詩画集。今年で刊行から約100年を迎えるそうです。
うち私が注目したいのが田中恭吉です。と言うのも何年か前、確か松濤美術館での「大正イマジュリィ」展にて「冬虫夏草」を見て、強く心打たれた記憶があります。以来、どこかまとまった形で見る機会があればと願っていました。楽しみにしたいと思います。
何ともインパクトのあるチラシではないでしょうか。主に明治時代に活動した画家、五姓田義松の回顧展が、神奈川県立歴史博物館で行われます。
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「没後100年 五姓田義松ー最後の天才」@神奈川県立歴史博物館(9/19~11/8)
展示替えを挟むとはいえ、出品作は資料を含めて全800点。驚きのスケールです。必ずしも広いとは言い難い神奈川歴博でどのように展示するのか想像もつきません。
なお五姓田展ですが、随分と告知、広報にも力が入っているようです。特設サイトに専用のツイッターアカウント(@Goseda_Yosimatu)もあります。そちらも事前にチェックしたいものです。
秋の大型展としては東京都美術館の「マルモッタン・モネ美術館所蔵 モネ展」なども人気を集めるのではないでしょうか。ただおそらく最も話題となり、また混雑が予想されるのは永青文庫の春画展かもしれません。
「SHUNGA 春画展」@永青文庫(9/19~12/23)
開館時間は日曜を除き、連日夜8時まで。(月休)夜間も狙い目となるのでしょうか。ただし前後期で展示替えがあるそうです。まずは早めに見に行きたいと思います。
それでは今月も宜しくお願いします。
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