『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』本予告 2020年9月18日(金)公開
待ちに待った新作ということでぜひ初日に見たいと思っていたので、
見れてよかったです。
様々な思いの交錯する作品ですが、
TVシリーズから描いてきたことを丁寧にすくい上げていて良かったです。
TVシリーズを見れてない、忘れてしまった方は再視聴した後に見たほうが楽しみは増すかなと感じました。
以下ネタバレ感想。
実は鑑賞前にパンフレットを見るという禁じ手をユーフォに続いてまたやってしまい、
そこでチラッと諸星すみれの名前を見て、
TVシリーズ10話のゲストキャラ、アンがまた出るのかと思っていたら、
映画冒頭が正にアンの家から始まってビックリしました。
10話は小川太一さんの演出回として非常に印象的な回で、
それを引き継ぐように始まったのに驚いたという感。
ヴァイオレット・エヴァーガーデンという作品は、
ヴァイオレットを通じて虚構を見る作品という印象でしたが、
故人となったであろう人々の足跡を、
アンの孫が探っていくという形は、
歴史の持つ一種の虚構性と被せてくる印象がしたかな。
ヴァイオレットの生きた足跡を辿り、
彼女が存在していた事実に触れることで形になっていく現在、
そしてそれはヴァイオレットという作品を作り出した京アニ自身にも跳ね返ってくる形だったかもしれないなとも。
ヴァイオレットが存在した今は、私達の世界へ作品として通じているわけで、
その作品の歩む軌跡を見ていく、成り立ちを知っていく楽しみもある。
人生の中でヴァイオレットがどういう作品になっていくのか夢想させるような、そんなものも見てしまったかな。
アンの孫のデイジー側へ行くところも家の中にカメラが入ることで一転、
屋内のカメラ視点で始まるので、
そういう反転性みたいのは最初から意識されていた感じ。
最初に映し出される平行線の溝を辿るような映像も、
レールや道を想起させられるし、他作ですが境界線上のホライゾンで語られるような境界線上を意識した平行線なのかなとか、色々意識させられました。
特にギルベルトと兄のディートフリードの過去の回想や、
島についてからの土にできていた轍など、
ギルベルト側を意識した線、という意味合いが強いように感じられました。
その2つの線は交わらないヴァイオレットとギルベルト、
またはブーゲンビリア兄弟、などなど作品内の様々なものを辿る線だったのかな。
ラストがその2つの線で印象付けられる道をあるいていくヴァイオレットで締めていて、
石立監督の俯瞰の使い方でまた印象的な作品が増えたなという印象もありました。
今作はTVシリーズの延長ということで様々なキャラが出るオールスター的な側面がありますが、
普通の劇場作品のような祭り感はなく、
ヴァイオレットの関わった人たちとの関わり合いへ思いを馳せる感じだったかな。
TVシリーズ各話のイメージの引用を思い出せる限りでメモ。
1話
・手紙が舞うという事象
・ホッジンズの父としての側面
・入社したてのヴァイオレットの姿
・願望を握りしめるようにスカートを掴む姿
2話
・エリカとヴァイオレット
今回はヴァイオレットの後ろ姿を見せるカットが多く、その中でエリカの後ろ姿で髪を1つのお団子にしてまとめているのが強調されていた。ヴァイオレットは団子2つなのでその差異に意識を持っていかれたかな。ヴァイオレットが手紙の代筆だけではなく式典で読まれる文書などを作成したいたこと、エリカが舞台の脚本を書いていたことなど、文章を書く仕事をする2人というのを意識していたのかななど。
3話
・一流の証と扉を開ける存在
ルクリエがヴァイオレットを次のステージへと進める役、
その扉を開ける役をやっていた印象で、
今作は閉じられた扉をヴァイオレットは鍵を使って開けることができる、
という形で扉を開く役を必要とはしていなかったように思えましたが、
ギルベルトの再開に関してはホッジンズが扉を開け、ヴァイオレットを導いていた。
しかしギルベルトの閉じた扉はギルベルト自身でしか開けられなかった、
というように扉の存在を意識してしまった感じ。
また兄妹の存在を通じて様々な兄弟関係を見ていた感。
4話
・アイリス
電話の登場やモールス信号など離れた相手とやり取りできるツールができ、
自分たちドールの地位も脅かされる。
上昇意識の強いアイリスが疎ましく思うのも無理はないなと思いつつ、
ドールとしての仕事ができないと判断したアイリスが電話へ頼るのは、
姫の手紙をヴァイオレット自身で書かなかったことを想起させる。
お客のために何ができるのか、何が最善なのか。
そこでヴァイオレットと同じステージに上がれていたのがアイリスの描き方として印象的でした。
ちなみに個人的にアイリスとユリスのやり取りが今作で1番の泣き所でした。
ユリスがヴァイオレットがギルベルトと再会できたことに対して、
祝福の言葉を送るのに耐えられなかった。
嗚咽が出るくらい感極まってしまったのがその一連。
あとアイリスの衣装は色トレスの処理などが綺麗で非常に丁寧な印象を受けたな。
戸松遥苦手でしたが、本当にありがとうございました、という気持ちになりました。
・名の意味
今作でもヴァイオレットの名に由来する花が度々挿入されていましたね。
5話
・ディートフリートとの確執
・姫様の婚姻
6話
・物語という虚構
・リオンとの別れ
ヴァイオレットが去っていく姿を追いかけるギルベルトを見て、
互いを見ながら別れたリオンを思い出してしまったな、と。
お互いを見て別れ、顔を下に向けるヴァイオレットに対し、
顔を合わせず別れたギルベルトとは最後に互いを求めて走りあった。
ただ1度の出会いと、
再会したい2人というイメージの反転だったのかもな、みたいな。
アイリスがユリスとリュカを電話で繋ぐのは王子と姫を直接繋いだヴァイオレットをやっぱ思い出しちゃうなと。
形的にアイリスが電話という機器に敗北を認めてしまう側面を踏まえつつ、モールス信号によってユリスのもとへ駆けつけたアイリスのことを考えると、手紙以外のやり取りを否定できなくなったのかなという感があり、時代の激動感もここにはあるのかなと思えたな。
7話
・オリビア
ユリスという病気の少年の存在はオリビアを連想させられる。
シリーズではアンの母など病気で亡くなる人が結構いるので、
その人達の存在を受けてというキャラクター感が強いイメージ。
8話
・ギルベルトの死
・レール
9話
・ヴァイオレット・エヴァーガーデン
10話
・アン
孫が出るくらいなので。
ヴァイオレットがユリスに対して特別料金で仕事を請け負ったりしていますが、これはアンとの1件があったためだったのかなとか。
ユリスから家族宛への手紙を書き終えたところでヴァイオレットが泣きそうなのを我慢しているような描写、またはそう思えるような描き方をしているので、10話のラストを思い出してしまう感じ。
あとは時を超えた手紙、というのを二重でやったのが印象的かな。
場所だけではなく時を超えることで、
手紙の書き手にも注目が集まるのが歴史に残ったものという感を受けるかなと。
ヴァイオレット・エヴァーガーデンは歴史に残る名である。
川澄綾子ボイス、諸星すみれボイスで心が洗われるようであったかな。
ルクリエにも登場して欲しかったなぁ。
11話
12話
・戦争とヴァイオレット
13話
・愛してるも少しはわかるのです
・少佐に当てた手紙
他にも多々あったような気がしますが思い出せる範囲で。
というわけで遠回りしましたが改めて本編感想。
アンの孫のデイジーがアンの母からの手紙を見つけるところ、
奥にある手紙を手前のものを避けるように取り出す芝居が新鮮に感じたな。
こういう細かい芝居がまだ健在なところに安心感がありました。
ヴァイオレットの仕事ぶりを見るのもちょっと誇らしい感じ。
TVシリーズでは触れていませんでしたが、こういう仕事もしていたのかと。
ホッジンズの隣にいるヴァイオレットが最後にはその位置にいないことの寂しさもあるのかな。
ドールが廃れることと合わせてヴァイオレットも郵便社から離れるので、
時代の荒波のせいでヴァイオレットが消えたように見えるけども、
ドールは最後までドールとしての仕事を全うしていたこと、
それが形だけでなく無形の文化として残ったことを描くことで、
時を超えた文化が残ったことを意識させられる感。
市長とヴァイオレットのシーンはヴァイオレットを孤立させるようなカット割りで、
そういう無機質な感じがちょっと気になったかな。
大佐との船でのやり取りも、揺れてる船上での描写に対し、
揺れる描写ではなく、
幾何学的に画面を分割して見せるレイアウトを選んでいて、
海上でのヴァイオレットの見せ方がちょっと気になる感じでした。
休みにヴァイオレットがお墓参りに行ってリボンを落とすのも気になる感。
髪のお団子の片割れのリボンが解けるのは兄弟とかけてるのか赤い糸とかけているのか落としたことに意味があるのかとちょっと考えてしまったなと。
兄がヴァイオレットに近づく意味合いが強かったので、
ギルベルトを亡くしたことについての2人の繋がりを意識させる意味で、だったのかな。
ヴァイオレットが船上でギルベルトの遺品を落とさないように大事に抱えているのを見て、
ヴァイオレットはギルベルトへの思いを捨てられないことを兄が感じ取っている感じも印象的でした。
ギルベルトが立ち寄った島で祭りに立ち会いますが、
ここの長回しがまた気合の入ったカットで凄かったですね。
多くのモブを動かしているのとか、
歩きのタイミングなんかもちょっと気になる感じ。
ギルベルトがヴァイオレットの名を聞いてどう反応するのかも見ていて気になる感じでしたし。
あとギルベルトが代筆業をやったおかげで消息がわかるのも気になったかな。
外伝でのベネディクトの描写がそこに繋がる感じとか。
ホッジンズは兄弟ではないですが、三兄弟の次男坊みたいな感じで、
よく世話を焼いている感じが印象的でした。
ヴァイオレットが義手の調子を見る際のディテールなどは細かく、
義手をかざしてそれまでの出来事に感じ入っているのも目を引かれたな。
ロングショットでヴァイオレットの佇まいを印象づけているのとか、
ちょっとエヴァっぽい感じだったかなとも。
ギルベルトが島の運搬機を直しているのも気になる感。
ギルベルトに思いを伝えるための手紙を何度も書くヴァイオレットに対し、
物を運ぶを直すギルベルトの姿を並べられると、
どちらも機械じかけのものを使いながら人に届けられる何かを模索しているという共通点があるように思える。
腕を失っても、それでも届けたい何か、
というのが抱えることができなくなっても抱える尊さがあるように思えるかなと。
ヴァイオレットが孤児院で子供目線で話すの、
アンとの会話を思い出して、相手の目線に立つことを印象づけているのがグッとくる感。
ヴァイオレットが出した手紙がギルベルトに伝わって、
それからの泣き応酬で境界の彼方に続いて石立作品はやはりこうなのか、
というのを感じられたな。
海に飛び込んだり月の光に照らされたりというのがそれまでのイメージからの差異を強調されている気がしたな。
特に月の光に照らされるギルベルトは月の君を思い出すし、
リオンと見上げた星空に対し、たった1人の月の君を強調する形の尊さにグッとくるかなと。
そこから舞い上がった手紙をカメラが追っていっての世界が迎える新時代という大団円のイメージが綺麗だったなと。
こういう風に感想を書いてしまいましたが、
感じ入るシーンが多く、非常に充実した劇場版だったように思います。
1人の少年の死に対し、それを真正面から描き、
思いを伝える尊さを描いた点も今作だからできる話だったと思いますし。
京都アニメーションが新たに迎える新時代、
そして一つの物語の終わり。
様々なシーン、カットに思いをはさられる作品だったと思います。
公開中はまた何回か足を運んで、また感想書きたいですね。
もっとヴァイオレットの話がしたい。
そういう作品でした。