雷さんには、もうひとつ ほろ苦い思い出がある。
この頃の夏の出来事だった。
夏やすみのある日の夕方のことだ。
親戚に、お中元をとどけるからといって、二人の娘には
「ちゃんと留守番をしていてね、すぐに帰ってくるから」といいきかせて、
バイクに二人乗りで、夫とでかけた
長女が6才、次女が3才の頃。
あ~、いつまでも忘れることなく、雷さんがゴロッとなるたびに、
「あの時は、ごめんね・・・」
娘二人に怖い思いをさせたことが、いまでも悔やまれてならぬ。
どれほど詫びても詫びきれない、これからも、絶対に忘れられないだろう。
実は・・・
”親戚にお中元をとどけるから”というのは口実で・・・
夏休みにはいつも子どもたちを、市営のプールにつれていって楽しんでいたが、
一度でいいから、ゆっくりと二人だけでプールへ行ってみたいなぁという思いもあった。
その頃に、ようやくテレビを買うことができた。まだ白黒のテレビだった。
子どもたちは、毎日テレビ番組のマンガを喜んで見ていた。
その時も、丁度好きなマンガを観ていたので、いまがチャンスとばかり
バイクで、ちょっとだけとプールへ出かけたのだった。
ところがプールに着いたころに、雲行きが怪しくなり始めて、
「これは、もしかしたらひと雨くるな」と思いながらも、水着にきがえてプールに入ったときだった。
突然、ゴロッ!ときた
「あ、雷!帰ろう!!」
子どもたちが家に残っている!!急いで着替えた。
途中から雨もふりだし、雷もいっそうひどくなってきた。
あ~悪いことした・・・ 急いで帰らなきゃ!早く早く 走ってと心の中で叫んでいた。
「ただいまッ!!、ごめんね!!」
「ママ~ッ! こわかったよ!!」 泣きながら二人とも飛びついて来た。
子どもたちは、テレビはそのままで家の隅の方で、二人とも震えていたのだった
「・・・・・・ごめんね、ごめんね、怖かったやろ? ごめんね・・・」
ようやく雨も雷も止んで、静かになった時だった。
なんとバックの中の、濡れた水着をみつけた長女が・・・
「ママたちは、プールに行ってきたね! なんで私たちを置いていったの?」
あのときの顔が今も忘れられない、ちいさな胸を恐怖にかられた精いっぱいの抗議だったろう。
心から恨んだことだろうなぁ・・・
あれから40余年が過ぎた
長女は、この事を覚えているだろうか・・・
若き日のほろにがい思い出