映画「リング・ワンダリング」を観た。
上映後のトークで、金子雅和監督は「同じ場所に過去と現在が同居しているイメージ」という意味のことを言っていた。まさに本作品が示す世界観そのものである。歴史は常に土地に紐付いているのだ。
これは素晴らしい世界観である。ともすれば我々は世界を意識するときに現在の空間の広がりだけを思い浮かべてしまうが、同じ空間に時の流れもイメージする必要がある。我々の世界は四次元時空間なのだ。
役者陣は揃って好演。ミドリを演じた阿部純子の寄り目がちの視線は、こちらの心の奥まで覗かれているようである。この女優さんはもっと活躍していい。猟師役の長谷川初範は久しぶりに見たが、相変わらず線が細い割に存在感がある。安田顕はそれなりの役をそれなりに演じている。達者なこの人にとっては本作品の役は朝飯前だっただろう。
主演の笠松将は、テレビドラマ「君と世界が終わる日に」の演技は一本調子で疑問だったが、本作品は打って変わって表情豊かに演じている。特に「川内寫眞館」が「川内写真館」に変わった後、写真館を出て神社の御神木付近で佇む演技は、同じ場所で70年以上の時間を飛び越えてしまった不思議な体験を整理できないまま、様々な感情が胸に去来している様子を、とても上手に表現できていたと思う。このシーンが本作品の白眉であり、笠松将の渾身の演技だったと思う。
映画の世界観の話に戻るが、土地に歴史がある、時空間として繋がっているという金子監督のテーゼを敷衍すると、当方がこのレビューを入力している足元でも、かつては誰かが殺されたかもしれないし、誰かの恋が成就したかもしれないし、今生の別れに涙したかもしれない。そう考えると、世界中の過去と現在の人々との不思議な共生感を覚える。その共生感は時間の連続として未来に繋がる。
本作品は、空間の広がりだけではなく時間の広がりも想像することで、過去に同じ場所で生きた人々の感情や苦悩までも共有するような、そんな飛躍がある。想像力の躍動と言ってもいい。当方にとってエポックメイキングな作品となった。