三無主義

 ~ディスパレートな日々~   耶馬英彦

映画「King Richard」(邦題「ドリームプラン」)

2022年02月25日 | 映画・舞台・コンサート
 映画「King Richard」(邦題「ドリームプラン」)を観た。
 一本調子のサクセスストーリでないところがいい。既にウィリアムズ姉妹の大活躍は広く知られているから、順調なサクセスストーリーには誰も興味がない。姉妹がグランドスラム大会を何度も制するに至ったのはどのような道であったのか、本作品はそこに焦点を当てる。
 
 父リチャード・ウィリアムズの存在がすべてと言っていい。決して人格者とはいい難いリチャードだが、その底知れぬバイタリティは家族全員を巻き込んで、ビーナスとセリーナのテニス英才教育を推進していく。バイタリティの源は幼少期から青年期にかけて受けた黒人差別である。差別から抜け出すには世間で認められた価値を得るしかない。つまり金と名声、それに教養である。
 
 子育てに正解はない。温厚で親切で思慮深い親の子供がグレたりすることはよく聞く話だ。トンビが鷹を生むことも稀なことではない。本作品でウィル・スミスが演じたリチャードは、決して暴力的ではなかったし、暴力や怒声で娘を支配するのではなく、ひたすら娘を褒め続けることで自信を持たせようとしていた。
 妻のオラシーンは、あなたがやってきたのは決して娘のためじゃない、自分のためだけなのだとリチャードを非難するが、娘たちはそんなことは最初から百も承知だったと思う。ビーナスが勝ったときに、勝って兜の緒を締めよといったふうな注意をしたのは、家族が自分よりも娘を褒めたからだ。
 自分たちも父親のためにテニスをやっているわけじゃない。好きだからやっている訳で、学業が出来なければテニスをさせてもらえないから、勉強も頑張るのだ。勉強も自分のためにやっている。リチャードが娘たちの人格を認めていたから、娘たちもリチャードの人格を認めた。リチャードにも基本的人権はある。
 
 リチャード・ウィリアムズはまだ存命だから、迂闊なことは言えないが、本作品でウィル・スミスが演じたリチャードは、実物とはかなり違っていると思う。しかしブルドーザーみたいなところは実物と同じに違いない。その圧倒的なエネルギーがあってこそ、テニスの英才教育が成功して、姉妹が成功を収めた訳だ。ウィル・スミスが描きたかったのは、リチャードの人格ではなく、その人間エネルギーが生むドラマだと思う。
 SNS社会での取り澄ました人間性は、自分をよく見せようとでっち上げた人間性だ。生身の人間は怒ったり泣いたり、嘘を吐いたり告白したり、衝突したり和解したりしながら、エネルギーをぶつけ合って生きる。ドラマはそういうところでしか生まれない。

第三次世界大戦

2022年02月25日 | 政治・社会・会社

 ロシアがウクライナに侵攻した。第三次世界大戦のはじまりかもしれない。もし世界大戦がはじまるとしたら、それは第一次、第二次と同様に同時多発的に始まるに違いないと思っていた。

 遡れば、ソ連が解体したときにワルシャワ条約機構も同時に解体して、対抗勢力であるNATOはその勢力を広げないという合意が出来ていた。ウクライナのNATO入りという約束違反を、プーチンは見逃さなかった。加えて、ウクライナは公用語であるウクライナ語を話す国民の割合が少ない。実に7割はロシア語を話すのである。プーチンはロシア語を話すウクライナ東部の民族に対して、ウクライナ政府や極右勢力が弾圧をしていると主張する。

 一方、西側諸国は必ずしも一枚岩ではない。ロシアからの石油が止まればEU諸国は打撃を受ける。アメリカは被害はないが、不人気のバイデンが国内の問題から国民の関心をウクライナに移す目的でロシアを強く非難している。どさくさに紛れてウクライナのNATO入りが決まれば、条約機構の一員である国を守るという大義名分が生まれるから、NATOという名の米軍もウクライナに侵攻するかもしれない。そうなれば第三次世界大戦だ。

 中国の動向も怪しい。世界がウクライナ有事にかまけていれば、その隙を突いて台湾に軍隊を派遣するかもしれない。中国は核保有国だ。軍事力では台湾はひとたまりもない。日本は台湾を独立国として承認していないから、中国に強い態度を取れないが、アメリカも同じだから、日本をせっついて何とかさせようとするだろう。

 日本海で有事が起きると、黙っていないのが北朝鮮である。この機会にミサイルの威力を見せつけようとするかもしれない。場合によってはソウルにミサイルを打ち込む可能性もある。韓国政府は休戦協定を破棄して再び北朝鮮に侵攻するだろう。トチ狂った北朝鮮は日本に向けてミサイルを発射するかもしれない。
 自民党政権は極右の安倍や高市の揺さぶりに弱いから、国内にミサイルが打ち込まれたら、北朝鮮に宣戦布告しようとするだろう。しかし徴兵制がない日本は、現状の自衛隊員が尽きればそれでおしまいだ。やはり宣戦布告は無理で、厳重抗議で済ますかもしれない。すると弱腰だという政府批判が起きて、政権交代が起きるだろう。極右政権だ。その先は考えるのもおぞましい。

 ヨーロッパでロシアとフランスとイギリスが争い、極東で中国と北朝鮮と韓国と日本が争えば、これはもう世界大戦である。しかもすべての核兵器保有国が参加している。映画のレビューで何度も書いたが、世界はバカが利口を支配する構図である。どのバカが核兵器を使用しないとも限らない。

 しかしその前にWEBでの争いが起きるのは間違いない。ハッキングの応酬だ。核兵器を含む現代の軍事は通信によって管理されている。それがハッキングされたら一大事だ。敵国が自国の核兵器を操るかもしれない。そうならないように、外部の通信から独立したAIによって管理された兵器があると、危機だと判断したAIが自動的に兵器を使用するかもしれない。核弾頭付きのICBMやSLBMが発射されたら、世界は終わる。ロシアのウクライナ侵攻が終わりの始まりでなければいいのだが。