三無主義

 ~ディスパレートな日々~   耶馬英彦

映画「ハマのドン」

2023年05月10日 | 映画・舞台・コンサート
 映画「ハマのドン」を観た。
映画『ハマのドン』公式サイト

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2023年5月5日(金)公開!カジノ誘致阻止に向け、“ハマのドン”こと藤木幸夫が市民とともに人生最後の闘いに打って出る!

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 俺は自民党員だと藤木幸夫は言う。戦前の日本はどんどんおかしくなっていった。俺は子供心にそう感じたことを憶えている。そして今、あの頃と同じようにおかしくなっている。そんな風に感じられてならない。91歳。感性は少しも衰えていない。
 主権在民と彼は言う。それがおかしくなっているということは、主権が別のところに移りつつあるということだ。つまり自民党の幹部がおかしくなっているということだ。それは日本の政治がおかしくなっているということに等しい。
 何か変だと感じるのは大変重要なことだ。ゲーテは「直感は過たない。誤るのは判断の方だ」と書いている。ショーペンハウエルは「第一印象が最も正しい」と書いている。ドイツの知の巨人たちの言葉には真実がある。藤木幸夫の直感と印象は的を射ているのだろう。

 自分の直感と第一印象をどれだけ信じられるかで、その人間の人間力が違ってくる。ころころと判断を変える人は信用されない。所謂ブレる人だ。藤木幸夫のブレのなさは問答無用で自分を信じることに由来する。厄介な人だが、信頼できる人でもある。

 昔の人らしく、凝り固まったパターナリズムはあるが、藤木幸夫には感謝の気持ちがある。そこがアベシンゾーなどとは違うところだ。感謝を忘れた為政者は、最後は総スカンを食らって退場するだけだ。アベシンゾーの最期は、まさに因果応報である。ただ、勝手に退場するだけならいいが、戦前のように国をとんでもない方向に連れて行ってもらったら困る。藤木幸夫が危惧している通りだ。

 自民党員でも腐っていない人間もいるのだということがわかってよかった。テレビ朝日にも意地がある人がいることも、わかってよかった。

映画「La Brigade」(邦題「ウィ、シェフ!」)

2023年05月10日 | 映画・舞台・コンサート
 映画「La Brigade」(邦題「ウィ、シェフ!」)を観た。
映画『ウィ、シェフ!』公式サイト

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元一流レストランのスーシェフ v.s 強制送還寸前の少年たち 料理がハートを熱くする!観たら作ってみたくなる!ドラマチック・キッチン・コメディ 5.5(金・祝)新宿ピカデ...

映画『ウィ、シェフ!』公式サイト

 本作品は難民問題の映画である。難民といっても、ひとりひとり事情が異なるし、能力や適性も様々だ。フランス政府はそのあたりを踏まえて、単に国の負担になるだけの人間なのか、国のために役に立ってくれる人間なのかを峻別しようとしているようだ。本作品では、20歳までに進学するか、就職が出来る人間には在留資格を与え、そうでない人間は強制送還すると紹介されている。
 冷たい政策のように聞こえるが、共同体は行政サービスを個人に与える代わりに、個人に納税義務を負わせている。それはある種の契約だ。難民と言えども納税できない人間を共同体に置いておくことはできない。逆に言えば、納税する人間にはちゃんとした行政サービスを与える。ジャン・ジャック・ルソーの「社会契約論」の思想が、彼を生み出したフランスでは未だに根強く生きていると思われる。
 共同体の為政者は選挙で選ばれる。フランスには難民を拒絶しようとする勢力があるが、人権の観点から、フランス政府は基本的には難民を受け入れる方向性だ。難民の中には犯罪に走る者がいる一方、高い能力を持っていて経済的社会的文化的に目覚ましい活躍をする者もいる。個人個人を見極めなければならないのだ。日本では難民個人個人を見ようとしないで、かなり拒絶的な規則で難民を十把一絡げに判定してしまう。人権無視の政策で、世界的に非難されているが、日本のマスコミは少しも報じない。

 本作品の主人公である料理人カティ・マリーは、料理にあたっては、人種も性別も国籍も無関係で、すべての人間が平等だと力強く宣言する。それは彼女の負けん気の強い性格を形作った生い立ちに由来していて、物語の中で明らかになる。人は自分の努力以外で差別されてはならないという考え方は、自由と平等の理念が国民に行き渡っているフランスらしい。国籍も人種もバラバラで、それぞれに並々ならぬ覚悟でフランスに来ている若い難民たちが相手だ。気が強くなければ負けてしまうだろう。ヒロインの人物造形はよく出来ている。

 フランスでも日本と同じく、バカ製造機みたいなテレビ番組がある。料理番組に乗っかって人気を博したシェフのことが、カティ・マリーは嫌いだ。料理は文化であって、ミーハーにちやほやされるのとは違うと思っている。それがカティ・マリーの料理人としての矜持でもある。料理を志す人には、なんとしてもその心意気を受け継いでほしいが、現実は厳しい。そこでこのバカ番組を利用しようと企む。それが本作品のクライマックスだ。

 映画のポスターから邦題を「ウィ、シェフ!」としたのだろうが、原題の「La Brigade」からすると、難民の若者たちの「俺たちはチームだ」という言葉が本作品の主題だろう。難民として助け合って生きていくのだ。そうして世界の恵まれない環境を少しずつ改善していく。若者たちが一歩ずつ歩きはじめるような、そんな作品だった。