三無主義

 ~ディスパレートな日々~   耶馬英彦

映画「65/シックスティ・ファイブ」

2023年05月27日 | 映画・舞台・コンサート
 映画「65/シックスティ・ファイブ」を観た。
映画『65/シックスティ・ファイブ』 オフィシャルサイト | ソニー・ピクチャーズ

映画『65/シックスティ・ファイブ』 オフィシャルサイト | ソニー・ピクチャーズ

辿り着いたのは、6500万年前の地球。ここにいたら、命はない。映画『65/シックスティ・ファイブ』5月26日(金)全国の映画館で公開

映画『65/シックスティ・ファイブ』 オフィシャルサイト | ソニー・ピクチャーズ

 メキシコのユカタン半島にあるチクシュルーブ・クレーターに隕石が落下したのは6600万年前だとずっと思っていた。本作のタイトルを見る限り、6500万年前という考え方もあるようだ。白亜紀の終わりが6600万年前でも6500万年前でも我々にはあまり関係ないが、地質学の専門家にとっては大きな違いかもしれない。地質分析の精度の問題になる。

 それはさておき、本作品はかなり面白かった。アメリカ映画だから予定調和のベタなストーリーであることは最初から分かっている。ストーリーよりも、恐竜時代の最後をどんなふうに観せてくれるのかを期待していた。
 本作品は無理に地球全体を描こうとせずに、主人公の周辺を具体的に描く。そのことで逆に地球の状況をあぶり出す。小説などでは、ひとりの人間の内面を掘り起こすことで人類共通の真実に至ろうとするが、あれと同じだ。上手な手法である。
 白亜紀は問答無用の弱肉強食の世界である。だからこそ、そこに放り込まれた主人公のヒューマニズムが際立つ。極めつけは「Launch!」と叫ぶ場面だ。自分が生命の危機に瀕していても、他人の生命を優先して守ろうとする。

 カメラワークも見事で、全編を通じて躍動感に溢れている。エンドロールで製作にサム・ライミが名を連ねているのを見て納得した。音楽もBGMも効果的だ。緊迫感がずっと続く。
 地球にやってくるほどの文明の進み具合は、主人公が携帯している道具で表現する。レーザーガンもそうだが、1台でセンサーとアナライザー、3Dプロジェクターにもなる音声機能付きの通信装置には感心した。このデバイスのアイデアは素晴らしい。
 硫酸混じりの間欠泉や、毒のある果実などの伏線は、物語の佳境で効果的に回収される。なかなかどうしてストーリーも意外に楽しめるのだ。
 ところで、出発地の惑星の名前が「ソラリス」なのはタルコフスキーへのオマージュだろうか。

 アダム・ドライバーは2016年製作の映画「パターソン」で、繊細な詩人でもあるバス運転手を等身大に演じていて、当方の中で評価の高い俳優である。演技力は当然のこと、存在感もハリウッドでピカイチだ。本作品は主人公の存在感で物語を維持するような側面があるから、俳優によって印象がまったく異なる作品になる。本作品はある意味、アダム・ドライバーの世界だ。
 同行する少女コアを演じた15歳のアリアナ・グリーンブラットもとてもよかった。多感な年頃らしい傷つきやすさと、若さのエネルギーの爆発を存分に表現した。