三無主義

 ~ディスパレートな日々~   耶馬英彦

映画「最後まで行く」

2023年05月20日 | 映画・舞台・コンサート
 映画「最後まで行く」を観た。
映画『最後まで行く』公式サイト│大ヒット上映中!!

映画『最後まで行く』公式サイト│大ヒット上映中!!

映画『最後まで行く』大ヒット上映中!!岡田准一主演最新作。綾野剛と初タッグ!!韓国大ヒット、世界中でリメイクされた映画に藤井道人監督(日本アカデミー賞受賞)が挑むー...

映画『最後まで行く』公式サイト│大ヒット上映中!!

 藤井道人監督の前作「ヴィレッジ」のレビューで、藤井監督の作品は主人公の気持ちに寄り添った優しい作品と、登場人物の全員を突き放したような冷徹な作品とに分かれる気がすると書いた。本作品はどうかというと、エンタテインメントとして、その両方の特徴を出している。とても面白い作品だ。
 登場人物が大体ブラックだから、完全に気持ちに寄り添うことはないが、極限状況での追い詰められた気持ちが理解できるような演出だ。時系列のシーンを日付で区切っているのもいい。全体像がわかりやすい。展開もスピーディで楽しく鑑賞できた。

 岡田准一が演じた庶民的な刑事の工藤、綾野剛が演じたエリート警察官の矢崎。それぞれに事情があり、強味と弱味がある。恐れがあり、焦りがあり、それに怒りもある。共通しているのは驚異的な粘り強さだ。ブラックなふたりなのに、何故か感情移入してしまうのは、我々の中にもブラックな面があるからだろう。

 人間は環境適応能力が生物の中でも飛び抜けて優れているから、かなり悲惨な環境でも生きていける。なぜか土地に愛着を持つから別の場所にはあまり行かない。というより出ていくのが怖いのかもしれない。生命の危険があるかも知れない別の場所に行くくらいなら、まだ生命の危険がないこの場所で生きていく。
 そんな状況のことを、本作品は砂漠のトカゲに例える。以前にテレビ番組で紹介されていたので覚えているが、ナミブ砂漠に生息するアンチエタヒラタカナヘビというカナヘビである。デーモン閣下がこのカナヘビのことを歌っていたのが印象に残っている。

 本作品のふたりも、環境に適応しただけだ。イギリスの詩人ウィスタン・ヒュー・オーデンが書いたように、正しい者たちの中で正しく、不浄の中で不浄に生きるのが人間なのだ。実に不憫である。それでも最後までそうやって生きていくのだ。

映画「ソフト/クワイエット」

2023年05月20日 | 映画・舞台・コンサート
 映画「ソフト/クワイエット」を観た。
映画『ソフト/クワイエット』公式サイト

映画『ソフト/クワイエット』公式サイト

ブラムハウスが放つ全編ワンショットの衝撃 それは、しずかで、やさしい“怪物” 5/19(金)ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿武蔵野館ほか全国順次公開

映画『ソフト/クワイエット』公式サイト

 頭の悪いレイシストの女たちが暴走する話だが、あまりにも急激な展開に少し驚いた。「Soft & quiet 」というタイトルから予想していたのはもっとゆっくりした話で、グループを作って活動を始めると、社会から非難が殺到して、追い詰められた挙げ句に尖鋭化して過激になっていくという展開だったが、本作品はまだるっこしい中盤を全部すっ飛ばして、いきなり終盤に突入する。
 女たちは悪ガキの中学生みたいなノリと浅はかさで突っ走るが、日常的な感覚のままで始めたものだから、気持ちがついていかない。自分のしでかしたことに恐れをなしたりする。このあたりの描き方と演技はとても上手い。
 議論などとは程遠い井戸端会議みたいな無定見な会話から発案された計画だけに、綻びがあるどころか、綻びしかないと言っていいくらいで、女たちは怒りと不安と恐怖の感情でいっぱいになって、行き当たりばったりに対応するしかない。ドタバタの中のリアルである。

 女たちの怒りの底には、被害妄想があるようだ。有色人種に自分たちの権利を奪われているという妄想である。本作品は過激な表現だから現実にはあり得ないと笑えるが、動機を考えると、似たような人々が現実の世界に蔓延していることに思い当たる。排他的な極右の人々が勢力を広げているのだ。日本でも被害妄想でヘイトスピーチを繰り返す人々がいる。

 本作品と同じようなヘイトクライムがこれから世界各地で急増するであろうというのは、毎日の報道を見る限り、ほぼ既定路線だ。そういう意味では、画期的な作品と言えるかもしれない。名作ではないが、ケッサクであることは確かである。