映画「最後まで行く」を観た。
藤井道人監督の前作「ヴィレッジ」のレビューで、藤井監督の作品は主人公の気持ちに寄り添った優しい作品と、登場人物の全員を突き放したような冷徹な作品とに分かれる気がすると書いた。本作品はどうかというと、エンタテインメントとして、その両方の特徴を出している。とても面白い作品だ。
登場人物が大体ブラックだから、完全に気持ちに寄り添うことはないが、極限状況での追い詰められた気持ちが理解できるような演出だ。時系列のシーンを日付で区切っているのもいい。全体像がわかりやすい。展開もスピーディで楽しく鑑賞できた。
岡田准一が演じた庶民的な刑事の工藤、綾野剛が演じたエリート警察官の矢崎。それぞれに事情があり、強味と弱味がある。恐れがあり、焦りがあり、それに怒りもある。共通しているのは驚異的な粘り強さだ。ブラックなふたりなのに、何故か感情移入してしまうのは、我々の中にもブラックな面があるからだろう。
人間は環境適応能力が生物の中でも飛び抜けて優れているから、かなり悲惨な環境でも生きていける。なぜか土地に愛着を持つから別の場所にはあまり行かない。というより出ていくのが怖いのかもしれない。生命の危険があるかも知れない別の場所に行くくらいなら、まだ生命の危険がないこの場所で生きていく。
そんな状況のことを、本作品は砂漠のトカゲに例える。以前にテレビ番組で紹介されていたので覚えているが、ナミブ砂漠に生息するアンチエタヒラタカナヘビというカナヘビである。デーモン閣下がこのカナヘビのことを歌っていたのが印象に残っている。
本作品のふたりも、環境に適応しただけだ。イギリスの詩人ウィスタン・ヒュー・オーデンが書いたように、正しい者たちの中で正しく、不浄の中で不浄に生きるのが人間なのだ。実に不憫である。それでも最後までそうやって生きていくのだ。