映画「岸辺露伴 ルーヴルへ行く」を観た。
映画サイト以外の予備知識なしで鑑賞したが、逆にそれがよくて新鮮な印象だった。序盤は若いのに偏屈な漫画家の珍道中の物語かと思っていたが、中盤以降は怒涛の展開と言ってよく、露伴の名に恥じぬ洞察力と古典への敬意を存分に発揮する。これは面白い。
相棒の編集者の名前が泉京香というのも洒落ている。明治の文豪泉鏡花は幸田露伴よりも6歳下で、露伴と同じようにリインカーネーションについての考え方を持っていた。本作品にも輪廻転生の思想が影を落としている。
高橋一生は昨年(2022年)の7月に渋谷のパルコ劇場で一人芝居を観劇した。この人は台詞に独特の緩急と間があって、身のこなしにぎこちなさと滑らかさの両方を持っている。そして視線には人懐こさと孤高の拒絶の両方がある。それらが総合して高橋一生ワールドとなっている。演技の幅の広さは指折りで、怪物級の悪役から、陽だまりのようなお人好しまで、どんな役でもこなせる。
本作品では、ややエキセントリックだが頭が切れて用意周到で特異な能力の持ち主という破天荒な役柄を楽々と演じてみせた。高橋一生ワールドの炸裂である。しかしそのままでは観客がついていけないので、物語を現実に引き戻すために登場させたおちゃらけたキャラクターが泉京香だ。美人すぎずバカすぎずという丁度いい役柄を飯豊まりえがうまく演じた。
中盤から登場する見るからに怪しげなキュレーターを安藤政信が好演。この人はどんな役でも器用にこなす。器用すぎるが故に主役よりも脇役が多いのかもしれない。木村文乃は可もなく不可もなし。
本作品は主人公の設定は突拍子もないが、登場人物のバランスもよく、過去と現在の繋がりもわかりやすかった。主人公の設定だけで既に位置エネルギーを持っているから、あとは登場人物を配置するだけで自動的に物語が動き出しそうである。脳天気な編集者の泉京香の過去の秘密に迫るような続編があれば、ぜひ観たいと思う。