三無主義

 ~ディスパレートな日々~   耶馬英彦

映画「Un beau matin」(邦題「それでも私は生きていく」)

2023年05月13日 | 映画・舞台・コンサート
 映画「Un beau matin」(邦題「それでも私は生きていく」)を観た。
【公式】映画『それでも私は生きていく』オフィシャルサイト

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5月5日(金)より新宿武蔵野館、シネスイッチ銀座ほか全国順次公開|病気の父親の介護、仕事、子育て、新たな恋 懸命に生きようとする女性の物語

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 シャンソン歌手の金子由香利のリサイタルに一度だけ行ったことがある。本作品に出てくる介護施設でみんなで合唱するのが、彼女の持ち歌である「サンジャンの私の恋人」だ。

 アコルディオンの流れに誘われいつの間にか
 サンジャンの人波に私は抱かれていた
 甘い囁きなら 信じてしまうもの
 あの腕に抱かれれば
 誰だってそれっきりよ
 あの眼差しに見つめられたときから
 もう私はあの人のものよ

 本作品は、ミウミウが主演した映画「夜よさようなら」に似ていて、一曲のシャンソンみたいな物語である。昔ながらの恋の紆余曲折に加えて、高齢化時代らしく介護や尊厳死の問題も登場する。

 レア・セドゥが演じたサンドラは、母として、時にはひとりの女として、人生に向き合い、時代に向き合う。その態度は率直であり真摯だ。他人に対してというより、自分自身に対して真摯なのである。
 見栄や保身のために自分を飾るのは、見苦しい上に、つらい。本人にとってもつらいが、周囲にとってもつらい。見栄や保身はそもそもその人の人生観ではなく、社会のパラダイムだから、その人らしさがなくて、人間的な魅力を失う。
 逆に飾らない人間は強い。変な虚勢がないから、気が楽だ。その人らしさが現われるから、人間的な魅力もある。サンドラはレア・セドゥがこれまで演じた中で、群を抜いて素晴らしい女性だ。クレマンがそんなサンドラに魅せられたのは当然の流れだろう。

 原題の「Un beau matin」は「ある晴れた朝」である。ドイツ語では「Ein sonniger Morgen」で、痴呆症になってしまった哲学者の父親が自伝のタイトルにしようとしていた。父親のドイツ語の蔵書が紹介されるから、ドイツ哲学が専門だったのかもしれない。父親の人となりが知れるエピソードであり、その人となりを愛した娘の愛情も同時に感じられた。とても温かい、いい映画だ。

映画「Brahmastra Part One: Shiva」(邦題「ブラフマーストラ」)

2023年05月13日 | 映画・舞台・コンサート
 映画「Brahmastra Part One: Shiva」(邦題「ブラフマーストラ」)を観た。
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2023年5月12日(金)ロードショー|運命が、覚醒する―― 全米映画ランキング初登場第2位!新たな神々の物語(アストラバース)が幕を開ける

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 タイトルは「ブラフマーストラ パート1:シヴァ」である。どうしてもバラモン教やヒンドゥー教の神話に依拠した壮大なファンタジーを期待してしまう。しかし本作品はあまりにもこじんまりとした作品であった。
 主人公シヴァはその名前にしてはスケールの小さいステレオタイプの青年で、人間としての魅力に乏しい。相手役のイーシャはそこらへんの娘さんだ。シヴァとイーシャの関係性の変化や成長も表面的で、何も響いてこない。行動の動機が意味不明で登場人物に感情移入できないから、ワクワクもドキドキもない。世界観は十年一日のパターナリズムだ。こうなるともうどうしようもない。

 戦闘シーンはくどくて、神話みたいな圧倒的かつ瞬殺的な力を感じさせてくれることはなかった。ブラフマーストラを解放したら世界が地獄と化すという触れ込みだったが、映画ではちょっとした超能力者同士がちまちま戦っているだけで、これなら人間の造った兵器のほうがよほど強力だ。たいして強くもない登場人物たちがヒマラヤでせこい戦いを繰り広げているところに核爆弾を一発落としたら、本作品の存在意義ごと消し飛んでしまうだろう。
 インド映画だから脳天気な踊りが延々と続くのは仕方がないが、踊り自体が不出来で歌もよくない。大抵のインド映画のダンス場面は楽しいはずだが、本作品はちっとも楽しくなかった。それにストーリーと無関係すぎる。

 もしかしたら新しい世界観を紹介してくれる作品かもしれないと期待したが、古臭い思想でショボい戦いを見せられただけだった。説明過多にもうんざりする。「パート2」も期待できないと思う。