三無主義

 ~ディスパレートな日々~   耶馬英彦

映画「フリークスアウト」

2023年05月18日 | 映画・舞台・コンサート
 映画「フリークスアウト」を観た。
映画『フリークスアウト』公式サイト|5月12日(金)公開

映画『フリークスアウト』公式サイト|5月12日(金)公開

映画『フリークスアウト』公式サイト|5月12日(金)公開

https://klockworx-v.com/freaksout/

 登場する超能力者たちは、能力の特殊性ゆえに実用の役に立たず、大道芸人としてしか生きる道がない。20世紀前半のイタリアは大らかで、科学で説明できないこともすんなり受け入れる。重箱の隅を突くようなことはしないのだ。考えてみれば、庶民というものは深く知るよりも楽しんだり便利に使ったりすることに重きを置く。携帯電話の仕組みを知らなくてもネットも通信もできるし、ボンネットを開けたことがなくても自動車で移動できる。技術の開発は苦労だが、技術を享受するのは楽しい。

ベルリンサーカスの団長フランツを演じたフランツ・ロゴフスキは2018年製作のドイツ映画「希望の灯り」では、穏やかで優しい主人公を好演していたが、本作品では狂気を孕んだ愛国者を演じた。愛国の熱狂がどのような悲劇に至るか、身をもって示した形だ。見事な演技だった。

 戦時中でも庶民には楽しみを与えなければならない。正義の戦という大義名分だけでは疲弊してしまう。パンとサーカスが必要なのだ。逆に言えば、戦時下の人々は四六時中緊張していたわけではなく、戦争という日常を平静に生きていた訳だ。

 パルチザンのひとりが言うように、人を殺すことも、最初は抵抗があるが、すぐに慣れる。人間の環境適応能力を侮ってはいけない。非道な振る舞いも、日常になれば何の呵責もなくなる。戦争の大義名分に寄りかかっていれば悩まずに済む。戦争になったからといって、生活が劇的に変わる訳ではない。気づいたら戦争になっていたというのが庶民の実感だろう。そこが空恐ろしい。

 本作品は必ずしも歴史に忠実ではない。現代とオーバーラップさせたり、フランツの幻覚を通じて未来を見せたりする。しかし、敵を一定の基準でカテゴライズして、人格をスポイルするという戦争の本質を見失うことはない。ラストのバトルはとても見ごたえがあった。

 エンドロールに映される絵がいい。解説は何もないが、モハメド・アリは分かった。あとはマラドーナとペレ? ネルソン・マンデラ? マリー・キュリー? ベトナム戦争? チェルノブイリ? ベルリンの壁? などなど。第二次大戦後も、人類の歴史はごった煮的に続いてますねえという、製作者のため息に似た雑感のようなものを感じた。人類の歴史を俯瞰すると、その賢さに感心すると同時に、その愚かさに呆れてしまうのだ。

映画「アルマゲドン・タイム ある日々の肖像」

2023年05月18日 | 映画・舞台・コンサート
 映画「アルマゲドン・タイム ある日々の肖像」を観た。

 1980年と言えば、まだコンピュータが一般的ではなく、インターネットなど誰も知らず、一部の専門家がハードとソフトを開発していた時代だ。情報といえば新聞かテレビラジオか人づてに聞くくらいで、調べ物をするのは本屋か図書館と相場が決まっていた。
 年配者の話は子供にとって貴重で、それなりの重味をもって受け止められていた。どんな年寄りもそれなりに苦労してきたことは、話を聞けば子供でも分かる。少なくとも年寄りを十把一絡げにして「老害」などと侮蔑するようなことはなかった。

 本作品でアンソニー・ホプキンスが演じたアーロンは、孫のポールからちゃんと話を聞いてもらえる。年寄りの話を聞きながらスマホで調べて間違いを指摘するような孫でなくて幸運だ。末梢的な事柄よりも、本質を理解してもらいたい。そのために話をするのだ。
 ポールを演じたバンクス・レペタは撮影時(2022年)はまだ13歳か14歳だったようだが、演技力は大したものである。親の言うことを聞けという強圧的な両親に反発を覚えつつ、また父親の暴力に恐怖しつつ、自意識の目覚めに伴って、楽しいことを探す12歳の思春期をリアルに演じ切った。アンソニー・ホプキンスと堂々と渡り合ったのも立派である。
 ポールの両親は頭が悪くて、世間的な価値観で物事を判断するしか能がない。夫婦揃って金持ちになりたいだけの我利我利亡者だが、おじいちゃんには世界観がある。どうすれば得をするかよりも、勇気を出すことと、卑怯者にならないこと、高潔な態度をとることだと言う。その3つは実は同じことなのだが、ポールにはまだ分からない。

 友だちと一緒だと孤独や不安に苛まれずに済む。だから子供たちはつるみたがる。しかし友だちとの時間の大半は、無意味な時間だ。孤独と不安を紛らす以上の意味を持たないからである。
 ひとりきりで孤独に苦悩する時間こそ、人を成長させ、人生に深みを与えてくれるものだが、若いうちはなかなかそのことに気づかない。中には一生気づかないまま、他人に自分の時間を浪費されて一生を終える者もいる。

 ポールには人生を左右する選択が迫っている。勇気のある決断ができるだろうか。それはひとえに、どれだけ孤独に悩んだかにかかっている。年寄りの話は鬱陶しいかもしれないが、重大な決断をしなければならないときに役に立つことがある。そのために話をしているのだと、アーロンは予言した。おそらくその通りになるだろう。