■荏原畠山美術館 開館記念展 II(破)『琳派から近代洋画へ-数寄者と芸術パトロン:即翁、酒井億尋』(2025年1月18日~3月16日)
開館記念展の第二弾として琳派の歴史を彩る名品が勢ぞろいし、開館記念展Ⅰにつづき、即翁の甥で、荏原製作所社長を継いだ酒井億尋の近代洋画コレクションを紹介する。私は鈴木其一の『向日葵図』が久しぶりに見たかったので、後期を待って出かけた。向日葵は17世紀に日本にもたらされた植物で、絵画化された早い例には抱一の作品があるという。今、ヒマワリを絵に描くなら、花の中心部を茶色で塗ると思うのだが、其一の向日葵は花全体が黄色で、中央は少し緑がかっている。まっすぐな茎と合わせて、可憐で瑞々しい。
抱一の『十二ヶ月花鳥図』も堪能した。茶器は光悦の赤楽茶碗『銘:雪峯』と『銘:李白』を見ることができた。前者はわりと厚手、赤楽というけどほぼ茶色に白い釉薬が流れている。大きな火割れに施された金粉漆繕い(金継ぎではないのだな)が稲妻のよう。後者は桶みたいにずん胴で、つるんとした造り。酒樽に見立てた命名だろう。
■根津美術館 特別展『片桐石州の茶:武家の正統』(2025年2月22 日~3月30日)
片桐石州(1605-1673)は大和国小泉藩第2代藩主であり、武家を中心に広まった茶道・石州流の祖。茶道史上に極めて重要な位置を占めながらも、これまで注目されることが少なかった石州と石州流の茶の湯を顕彰する。私は石州の名前はほとんど知らなかったので、小堀遠州や鳳林承章との交流の跡を見て、あの時代の人か、と納得する。そして松平不昧や井伊直弼も石州流の系譜に位置づけられている。展示室5は季節もので『百椿図』。展示室6の『春情の茶の湯』は、ほのかな春の兆しを感じさせる道具がどれもよかった。
■目黒区立美術館 『中世の華・黄金テンペラ画-石原靖夫の復元模写:チェンニーノ・チェンニーニ「絵画術の書」を巡る旅』(2025年2月15日~3月23日)
石原靖夫(1943ー)が1970年代に制作したシモーネ・マルティーニ『受胎告知』の復元模写と周辺資料を展示し、テンペラ画の技法と表現の魅力に迫る。特に金箔の黄金背景に、顔料を卵黄で練って描き上げていく「卵黄テンペラ」は14世紀から15世紀前半のイタリアで発展した“中世の華” というべきもの。ちょっと他で見たことのない展覧会で、とても面白かった。同館では、過去に石原を中心としたテンぺラ画のワークショップも開催しており、その受講生の作品も展示されていた。テンぺラ画は非常に手間のかかる技法で、その工芸的な不自由さがかえって魅力的である。
■東京国立近代美術館 『美術館の春まつり』(2025年3月13日~4月6日)
春なので「MOMATコレクション」展を見て来た。10室では恒例「美術館の春まつり」に合わせて、花を描いた作品を集めて展示する。川合玉堂『行く春』、菊池芳文『小雨ふる吉野』など、毎年おなじみの作品なのだが、必ずこの時期に見ることができるのは嬉しい。「明治の中ごろ~」の部屋に出ていた小林古径『極楽井』もよかった。小石川伝通院裏の宗慶寺にあった極楽井の水を描いたとさせ、佇む少女のひとりは、イエズス会の紋章「IHS」を象った模様の着物を着ている。小杉放菴(未醒)『羅摩物語』はインド風の豊満な肉体の女性たちが描かれており「ローマ?」と首を傾げたら、『ラーマーヤナ」の「ラーマ王」だった。こういう戦前のエキゾチック趣味には惹かれる。「風景の誕生」や「シュルレアリスム100年」などの個別テーマも興味深く、「『相手』がいる」と題された戦争絵画を毎年この時期に見直すのもよい経験になっている。
■國學院大學博物館 企画展『江戸の本屋さん-板元と庶民文学の隆盛-』(2025年2月22日~4月20日)
今年の大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』を、今のところ期待どおり楽しんで見ている。そして各地の博物館で、江戸の出版文化をテーマにした展覧会が次々に開催されているのが嬉しくてたまらない。本展は、江戸戯作群の製作、出版、販売を担った本屋の活動を概観するとともに、甘露堂文庫(伊藤孝一旧蔵)と小柴文庫(小柴値一旧蔵)の江戸戯作コレクション蔵本を展示する。私はいちおう日本文学を学んだので、蔦重、須原屋くらいは知っていたが、鱗形屋孫兵衛とか鶴屋喜右衛門の名前に、おお!と目が輝いてしまうのは、全く大河ドラマの影響である。冒頭に「大本」「中本」「半紙本」などの版型が並べてあったのも楽しかった。
■国立公文書館 令和7年春の特別展『書物がひらく泰平-江戸時代の出版文化-』(2025年3月20日〜5月11日)
江戸時代の出版文化に着目し、近世文学作品を中心に、江戸時代に特徴的な版本の数々をご紹介する。ここでもやはり、須原屋や鱗形屋の刊記にしみじみ見入ってしまう。あと『江戸買物独案内』から書店の案内がパネル写真で紹介されていた。これは国立国会図書館のデジタルコレクションにあるはず、と思って見つけたものの、どのぺージを見ればいいのか分からない。初めからぺージを送っていたら「いろは順」の「ほ」の部(本屋)に出て来た。「書物問屋」を名乗る店と「書物/地本問屋」を名乗る店がある。「小伝馬町二丁目/書物問屋/新吉原細見板本/蔦屋重三郎」の記載もあるが、これは文政7年刊行なので後継者。そのままぺージを送って、銘茶所やら紙問屋やら煙草問屋やら、飽きずに眺めてしまった。