○鳩山由紀夫、孫崎享、植草一秀『「対米従属」という宿痾』 飛鳥新社 2013.6
仕事に追われて、なかなかブログが書けないのだが、本は読んでいる。このところ、6月11日の鈴木邦男シンポジウムで話題になった本を、シリーズで読み続けていた。本書は、6月初めに書店で見かけて気になりはしたものの、並んでいる名前が、ちょっと胡乱な感じがして、ためらっていた。それを、鈴木邦男さんだったか中島岳志さんだったかが、わりと好意的な言及をされていたので、じゃあ、と思って手を出した。
興味深かったことのひとつは、政権交代の顛末。私は、せっかく実現した政権交代なのだから、もう少し民主党にやらせたいという気持ちが少なからずあったのだが、本書を読むと、民主党内部がすでに瓦解していて、鳩山内閣(2009年9月-2010年6月)とそれ以降(菅、野田内閣)には大きな隔たりがあったことが感じられる。菅政権以降は「クーデター」によって「米国や官僚と結び付いた旧来の勢力」が民主党の実権を握ってしまった、と鳩山氏は総括している。
鳩山政権の「躓き」は、米軍基地の移設問題だったが、これについて鳩山氏は、官僚の「面従腹背」を嘆いている。官僚側にも言い分はあると思うが、米軍側の事情を事前に忖度することが、日本の官僚の習い性になっているというのは、なんとなく分かる。私は、ずっと下っ端の「官僚」としか付き合ったことがないが、「忖度」に基づく行動は、彼ら官僚集団のお家芸だと感じることがあるので。
尖閣、竹島、北方四島という三つの領土問題については、孫崎享氏のレビューが非常に参考になった。ポツダム宣言では日本の領土は三つの軸によって定義されている。一、日本の領土は、北海道、本州、四国、九州の四島であること。二、その他の島々については、連合国が決めたものが日本の領土であること。三、新たに決める日本の領土については、カイロ宣言を遵守すること。つまり、ポツダム宣言を受諾することによって、「日本固有の領土」論というのは根拠を失っているのである。それが嬉しいか悔しいかは別として、国際関係において認められた日本の領土がそういうものだということは、もっと日本人が自覚しなければならないことではないかと思う。またカイロ宣言は、日本が清の時代に「盗んだ」領土は中国に返すことをうたっている(ただし、尖閣諸島がこれに該当するか否かには論争の余地があるともいう)。
ちょうど本書を読み終えたあとで、鳩山由紀夫氏が「尖閣諸島は日本が盗んだ」「盗んだものは返すのが当然」という発言したとかしないとかで、ネットメディアが大騒ぎになった。私は本書を思い出して、ああ、あの話か、と思ったが、きちんと歴史的根拠を整理して報道しているメディアは見当たらなかったように思う。
経済については、植草一秀氏が意見を述べている。財政には「構造的な財政赤字」と「循環的な財政赤字」があり、百年に一度の金融津波的なリーマンショックによる税収減は後者である(この考え方、面白いなあ。天災みたいなものと捉えるのか)。こういう場合は、まず経済回復に取り組むことが大切で、増税による赤字削減など、緊縮財政をとるのはその後でよい、とのこと。なるほど、素人なりに納得できる説ではある。
三人に共通するのは、日本の官僚にも国民にも染みついた「対米従属」という習い性から、一歩でも抜け出そうという態度だが、なぜかそうした人々には、悲劇的な運命、あるいは胡散臭いイメージがついて回る。そのことに声を上げれば、全てをアメリカの陰謀に帰する「陰謀論者」のレッテルを張られてしまう。
正直なところ、私もこの三人のメンツは「胡散臭い」と思ったし、自分が政治経済の基本に弱いこともあって、今でも少し警戒はしている。しかし、本書の趣旨は明瞭だった。これが陰謀論に値するかどうかは、読者各人に確かめてもらいたいと思う。
※『「対米従属」という宿痾』発売記念トークイベント
おおーまさに今日(6/30)こんなイベントやっていたのか。聞きたかったなあ…。東京生活が恋しい。
仕事に追われて、なかなかブログが書けないのだが、本は読んでいる。このところ、6月11日の鈴木邦男シンポジウムで話題になった本を、シリーズで読み続けていた。本書は、6月初めに書店で見かけて気になりはしたものの、並んでいる名前が、ちょっと胡乱な感じがして、ためらっていた。それを、鈴木邦男さんだったか中島岳志さんだったかが、わりと好意的な言及をされていたので、じゃあ、と思って手を出した。
興味深かったことのひとつは、政権交代の顛末。私は、せっかく実現した政権交代なのだから、もう少し民主党にやらせたいという気持ちが少なからずあったのだが、本書を読むと、民主党内部がすでに瓦解していて、鳩山内閣(2009年9月-2010年6月)とそれ以降(菅、野田内閣)には大きな隔たりがあったことが感じられる。菅政権以降は「クーデター」によって「米国や官僚と結び付いた旧来の勢力」が民主党の実権を握ってしまった、と鳩山氏は総括している。
鳩山政権の「躓き」は、米軍基地の移設問題だったが、これについて鳩山氏は、官僚の「面従腹背」を嘆いている。官僚側にも言い分はあると思うが、米軍側の事情を事前に忖度することが、日本の官僚の習い性になっているというのは、なんとなく分かる。私は、ずっと下っ端の「官僚」としか付き合ったことがないが、「忖度」に基づく行動は、彼ら官僚集団のお家芸だと感じることがあるので。
尖閣、竹島、北方四島という三つの領土問題については、孫崎享氏のレビューが非常に参考になった。ポツダム宣言では日本の領土は三つの軸によって定義されている。一、日本の領土は、北海道、本州、四国、九州の四島であること。二、その他の島々については、連合国が決めたものが日本の領土であること。三、新たに決める日本の領土については、カイロ宣言を遵守すること。つまり、ポツダム宣言を受諾することによって、「日本固有の領土」論というのは根拠を失っているのである。それが嬉しいか悔しいかは別として、国際関係において認められた日本の領土がそういうものだということは、もっと日本人が自覚しなければならないことではないかと思う。またカイロ宣言は、日本が清の時代に「盗んだ」領土は中国に返すことをうたっている(ただし、尖閣諸島がこれに該当するか否かには論争の余地があるともいう)。
ちょうど本書を読み終えたあとで、鳩山由紀夫氏が「尖閣諸島は日本が盗んだ」「盗んだものは返すのが当然」という発言したとかしないとかで、ネットメディアが大騒ぎになった。私は本書を思い出して、ああ、あの話か、と思ったが、きちんと歴史的根拠を整理して報道しているメディアは見当たらなかったように思う。
経済については、植草一秀氏が意見を述べている。財政には「構造的な財政赤字」と「循環的な財政赤字」があり、百年に一度の金融津波的なリーマンショックによる税収減は後者である(この考え方、面白いなあ。天災みたいなものと捉えるのか)。こういう場合は、まず経済回復に取り組むことが大切で、増税による赤字削減など、緊縮財政をとるのはその後でよい、とのこと。なるほど、素人なりに納得できる説ではある。
三人に共通するのは、日本の官僚にも国民にも染みついた「対米従属」という習い性から、一歩でも抜け出そうという態度だが、なぜかそうした人々には、悲劇的な運命、あるいは胡散臭いイメージがついて回る。そのことに声を上げれば、全てをアメリカの陰謀に帰する「陰謀論者」のレッテルを張られてしまう。
正直なところ、私もこの三人のメンツは「胡散臭い」と思ったし、自分が政治経済の基本に弱いこともあって、今でも少し警戒はしている。しかし、本書の趣旨は明瞭だった。これが陰謀論に値するかどうかは、読者各人に確かめてもらいたいと思う。
※『「対米従属」という宿痾』発売記念トークイベント
おおーまさに今日(6/30)こんなイベントやっていたのか。聞きたかったなあ…。東京生活が恋しい。