〇『陳情令之生魂』(愛奇藝、2019)『陳情令之乱魄』(愛奇藝、2020)
2019年の中国ドラマ『陳情令』は、今も熱狂的なファンを世界中で増やし続けている、武侠ブロマンスファンタジーである。私がネットで同作品を視聴したのは2020年4-5月だが、このときスピンオフ(番外編)『生魂』があることは聞いており、のち『乱魄』が制作されたことも聞いていた(各編90分くらい)。時間のあるときに見ようと思って先延ばしにしていたら、この日曜にWOWOWで初放映されるという。我が家はWOWOWは見られないのだが、これは乗らなきゃ!と思って、同じ日にネットで中国語原版を探し当てて視聴した。年度末の週末に何をやっているか…と苦笑しながら。でも後悔はしていない。
『生魂』は、鬼将軍・温寧と思追が主人公。『陳情令』本編の終幕で、岐山温氏の生き残りである温寧は、姑蘇藍氏の若き仙師・蘇思追(実は出自は同じ温氏)とともに旅立った。その二人が、たまたま立ち寄ったのが扶風城。人々は日が暮れると、悪鬼に怯えて真っ暗な家に閉じこもっていた。温寧と思追は、蕭家の古屋敷で、蕭憶と名乗る青年に出会う。蕭憶には蕭情という美しい姉がいたが、周子殊という青年に騙され、殺されてしまう。周子殊は悪鬼となり、さらに蕭家の人々を皆殺しにした上に、今も蕭憶を責め立て続けているという。
それを聞いて、蕭憶を守ろうとした温寧と思追だが、調べるとどうもおかしいところがある。結局、蕭憶の正体は趙憶という下僕で、蕭情に身分違いの恋をし、陰鉄(陰虎符)によって、死せる周子殊を傀儡として操っていたことが分かる。
ストーリーはわりと単純で、SFXとワイヤーアクションを駆使した激しいバトル映像が見どころ。中華ホラーのおどろおどろしい演出も好きな人には楽しめる。『陳情令』本編では可愛い癒し系だった二人が、別人のようにタフで自立した闘士ぶりを発揮するのは感涙もの。そして、蕭憶(趙憶)に精神的に捕らわれた温寧が、魏公子の励まし(後ろ姿と声だけの出演)で自分を取り戻すのがクライマックス。総じて『陳情令』ファンの「見たいもの」がよく分かっている番外編である。
『乱魄』は清河聶氏の明玦・懐桑兄弟の物語。武勇に優れた激情家の兄・明玦と柔弱で風流人の弟・懐桑はしばしば対立していた。あるとき、聶氏歴代の陵墓(祭刀堂)で怪しい動きがあったことから、宗主の明玦は、弟と武士たちを連れて様子を見にいく。心配そうに送り出すのは、当時、聶氏に同居していた金光瑶。祭刀堂では制御の効かなくなった刀霊が暴走を始めており、聶氏の武士たちは次々に命を落とす。なんとか助け合って危機を脱し、幼い頃からの強い絆をあらためて思い出す明玦・懐桑兄弟。
しかし暗転した画面に表示された筋書きによれば、祭刀堂の事件以後、明玦は日増しに激怒しやすくなり、ついに「爆体而亡」つまり健康を害して死んでしまう。『陳情令』本編でも謎の死として描かれていたものだ。明玦の葬儀で、金光瑶の悔やみの言葉を受けながら、あることに思い当たる懐桑。その最後の表情が素晴らしくいい!
この作品も、ある意味、『陳情令』ファンの「見たかったもの」で、本編では物足りなかった描写を補完する内容になっている。ただ、『生魂』が本編を知らなくても楽しめるのに対して、『乱魄』は本編とあわせて見る必要があるだろう。本編では、え?と思ってしまった懐桑の豹変ぶりが、『乱魄』を見ると腑に落ちる。しかし『陳情令』は魅力的なキャラを無数に揃えているので、この調子ならいくらでも番外編が作れそうだ。