いちおう東京近郊の展覧会は、見逃さないように行っているのだが、レポートする時間がなかなかないので、まとめて。
■国立歴史民俗博物館 特集展示(国際展示)『東アジアを駆け抜けた身体(からだ) -スポーツの近代-』(2021年1月26日~3月14日)
明治維新後、近代化とともに日本に入ってきた「スポーツ」の概念の展開を、錦絵や双六、写真などで紹介する。20世紀に入ると、スポーツは隆盛し、帝国日本の膨張とともに、植民地の選手たちが「日本」代表としてオリンピックに登場するようになる。本展が注目するのは、台湾出身の陸上選手、張星賢(1910-1989)である。国立台湾歴史博物館(台南市)には、張星賢選手に関する歴史資料が多数所蔵されており(日記などは日本語)、歴博および国立成功大学との共同研究によって、この展示が実現した。張星賢、大学卒業後は満鉄に就職していたり、母国台湾で女子選手の育成に携わっていたりする。いろいろ興味深いが、重いテーマの展示だった。
■太田記念美術館 『没後30年記念 笠松紫浪-最後の新版画』(2021年2月2日~3月28日)
笠松紫浪(1898-1991)は、大正から昭和にかけて活躍した絵師で、鏑木清方に入門して日本画を学び、版元の渡邊庄三郎から新版画を刊行した。戦前にはモダンな東京の街並みや温泉地の風情を淡い色彩で表現し、戦後も精力的に版画を制作し続けた。前後期で130件を展示。笠松紫浪の名前は知らなかったが、週刊誌の表紙や広告ポスターなど、どこかで出会っていそうな作品が多かった。ちょうど同時期に回顧展を開催中の吉田博に比べると、より大衆的で親しみやすい作品が多いように思う。ちなみに『本郷赤門の雪』という作品があって、東大職員が永続勤務記念や退職記念にもらえるという版画(紫浪の作品である)はこれかな?と思ったが確かめていない。調べたら、紫浪には「東大風景シリーズ」6点物もあるようだ。
■練馬区立美術館 『電線絵画展-小林清親から山口晃まで-』(2021年2月28日~4月18日)
明治初期から現代に至るまでの電線、電柱が果たした役割と各時代ごとに絵画化された作品の意図を検証し、読み解く展覧会。明治の画家たちは、都会風景でも郊外の風景でも、文明開化の象徴である電柱と電線を、けっこう堂々と描き込んでいる。そこには全く拒否感はない。展覧会の途中に、北斎の赤富士に電柱と電線を配して「いかに景観を壊しているか」を告発する意図の作品が登場するが、そうした見方が、実は「ある時代の感覚」でしかないことを教えてくれる、実に興味深い展覧会である。実際の電柱に載っている「碍子(がいし)」も展示されていたが(茶台がいし、玉がいしなど形態の別あり)、やきものの名品を見るようで笑ってしまった。
私は、電柱といえば最初に思い出すのは宮沢賢治の『月夜のでんしんばしら』なのだが、あれは出ていなかったな。電線絵画展だから、電柱はちょっと違うのかしら。山口晃さんの雑誌連載マンガ『趣都』「電柱でござる!の巻」が全編、会場のパネルで読めたのも嬉しかった。あと、私は送電線の鉄塔が大好物なのだが(特に中国の田舎でよく見るネコの顔みたいなヤツ…烏帽子型というそうだ)、鉄塔絵画はないのだろうか。
■山種美術館 開館55周年記念特別展『川合玉堂-山﨑種二が愛した日本画の巨匠-』(2021年2月6日~4月4日)
川合玉堂(1873-1957)は、日本の自然や風物を叙情豊かに描き出した作品でファンの多い画家。だが、私はあまり得意でないのは、都会育ちで「郷愁を誘う美しい日本の風景」がよく分からないせいかもしれない。『雨江帰漁図』『漁村晩晴』など、あまり多くない墨画作品がよかった。