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見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

憧憬と相克/南蛮美術の光と影(サントリー美術館)

2011-10-31 23:37:09 | 行ったもの(美術館・見仏)
サントリー美術館 開館50周年記念「美を結ぶ。美をひらく。」IV『南蛮美術の光と影 泰西王侯騎馬図屏風の謎』(2011年10月26日~12月4日)

 めずらしく展示替リストをチェックして、行くなら後半のほうがいいかな?と思ったのだが、待ちきれなくて、見てきた。南蛮美術、大好きなのである。

 冒頭は、典型的な南蛮屏風(同館所蔵、桃山時代)。右隻には日本の港に入ってくる南蛮船、左隻には、どことも知れない異国の風景が描かれる。南蛮人は、長い黒マントのイエズス会士たちを除くと、かぼちゃのように丸く膨らんだズボンを穿いている。長ズボンの者と半ズボンの者がいて、後者は、棒のように細い脛が印象的だ。記号的ではあるけれど、西洋人の体形の特徴をよく捉えていると思う。

 同じくサントリー所蔵で今回初公開の別作品(江戸初期)になると、南蛮人の脛も、ふくらはぎがしっかり描かれ、肉体表現が写実的になる。宮内庁三の丸尚蔵館本は、南蛮寺で聖人像を礼拝する南蛮人たちが羅漢さんのようだ。神奈川歴博本では、建物の中と南蛮船の上で、日本人と南蛮人が双六(?)に興じている。ボードゲーム(盤戯)を通じた異人との交流といえば、『長谷雄草紙』や『吉備大臣入唐絵巻』を思い出すところ。この作品は、南蛮人の眼が、むかしの少女マンガみたいにつぶらで、明らかに日本人とは描き分けているのも面白い。

 このほか、イヌとか傘とか帽子とか、大判のレースのハンカチ(オテロみたい!)とか、作品によって少しずつ変化があり、隅々まで見どころがあって飽きない。

 続いて、キリスト教布教のためにもたらされ、あるいは日本で制作された聖画の数々。大正年間まで、竹筒に収められ、土壁に塗り込められていたとか、仏壇裏に隠されていたとか、伝来と発見の経緯にも感慨を覚える。『聖ペテロ像』が「出山釈迦如来絵像」として寺に伝わったというのには、すまないが、笑ってしまった。

 輸出漆器(螺鈿蒔絵)も名品揃い。ここで4階会場が終了。あれー目玉の『泰西王侯騎馬図』は、第1会場(4階)じゃないのかーと、ちょっと奇異な感じを受けながら、階段を下りる。すると、まず目に入るのがサントリー美術館所蔵『泰西王侯騎馬図』のアンリ四世のUPと黒馬のUPバナー。いや、半端でなくて、ものすごい拡大写真である。王冠の宝石や胸の飾りボタンが、絵具を盛り上げ(鎌倉仏の土紋みたいに)立体で表現されていることまで分かる。

 階段ホールには、サントリー美術館(右)と神戸市立博物館(左)の『泰西王侯騎馬図』が並んでいた。展示ケースに張り付いて、まじまじと眺めた末に、反対側の壁際まで下がって、両者を交互に眺めわたす。私は、2007年にサントリー本を、2008年に神戸市博本を見ているが、両作品を一度に視界に収めるのは、初めてのことだ。やっぱり、躍動感のある神戸市博本のほうが好き。でも神戸市博本は、キャラの顔立ちが似すぎているかもしれない、と思う。あと、この画家、手指の描き方があまり巧くない。同じように、ゴヤが手指を描くのを苦手にしていたという逸話を思い出す。

 本展では、東京文化財研究所が行った両作品の調査結果が、合わせて展示されている。詳細は展示図録を読むのが正しいが、会場で唸ってしまったのは、サントリー本の近赤外線画像(白黒)を実物大に仕立てた屏風。裏貼りに使われた反故紙の文字や、「金」塗色指定の文字が、くっきり浮かび上がっている。

 これでもう、本展の収穫は十分と思っていたのだが、3階会場で衝撃の作品に出会ってしまう。「キリシタン弾圧」の章に展示された『日本イエズス会士殉教図』『元和八年、長崎大殉教図』『元和五年、長崎大殉教図』である。いずれも、ローマのジェズ教会(イエズス会の総本山)に保管されているものだという。こんな絵画資料があるとは、不覚にも知らなかった。特に元和八年図は、素人くさい素朴な構成ながら、迫真の緊迫感、沈痛な悲しみと怒りを感じさせる。処刑の様子を実際に目撃した日本人キリシタンが、禁教を逃れてマカオに渡って描いたと伝えられているそうだ。大画面の『泰西王侯騎馬図』以上に、胸を揺さぶられるような印象が残った。まさに南蛮美術の――日本と西洋文明のファーストコンタクトの「光と影」と言えるだろう。

 このほか、初期洋風画は実に丹念に集めている。東美アートフェアで見た伝信方『老人読書図』は後期。三の丸尚蔵館の『萬国絵図屏風(万国絵図屏風)』は神戸会場でしか出ないのか。そうなのかー。

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