■北海道立文学館 特別展『戦没画学生慰霊美術館「無言館」展-手ばなさなかった絵筆、いのちの軌跡-』(2018年7月7日~9月9日)
北海道の休日(先週)に行ったもの。長野県上田市にある無言館は、戦没画学生の遺作や遺品を収蔵する美術館である。これまで行ったことはないのだが、たまたま旅先の北海道立文学館で、この特別展が開かれていたので行ってみた。出陳作品は約200点。ただし、遺品の写真や絵葉書などもあるので、絵画・彫刻作品はこれより少ない。しかし想像していたよりも完成度の高い作品が多くて楽しめた。
兵隊にとられる前、しゃれたファッションで自由を謳歌していた頃の写真や、芸術家らしい、自意識の強そうな肖像画などがあったことが、いわゆる戦争画よりもショックだった。印象的だった作品のひとつは清水正道『婦人像』で、断髪で浴衣姿の若い女性が少し姿勢を崩して座っている。作者は芸術家らしいシャイな性格で、応召を誰にも知らせず、いつの間にかいなくなってしまい、この1点だけが遺ったという。作者紹介には、判明している限り「〇〇にて戦死」という結末が添えられているのだが、「戦病死」の数が多いことが傷ましかった。
■北海道博物館 第4回特別展『幕末維新を生きた旅の巨人 松浦武四郎-見る、集める、伝える-』(2018年6月30日~8月26日)
伊勢国(現・三重県松阪市)に生まれ、幕末期に蝦夷地(北海道)を6回踏査してアイヌ民族の生活状況などを克明に記録し、「北海道の名付け親」として知られる松浦武四郎(1818-1888)の生涯を紹介する特別展。武四郎といえば、2013年に東京の静嘉堂文庫美術館で『幕末の北方探検家 松浦武四郎』という展覧会が開かれている。当時、私は札幌に住んでいたが、東京へ遠征して見に行った。これは、静嘉堂が所蔵する武四郎旧蔵考古遺物コレクションの展示を主としたもので、面白かったが、私の関心からはやや外れていた。
本展は、会場に入ったとたん、ずらり並んだ文書の数々に圧倒された。武四郎自筆の書簡、フィールドノート(野帳)の数々。携帯に便利な小型のメモ帳に細かい字でびっしり書き付けたものもあれば、ページの上下を線で分けて、上(やや狭い)にスケッチ、下に文章を記載する形式にしたものもある。原本は1箇所しか開くことができないので、布バナーに全頁の写真図版(小さいけど)をプリントアウトして掲示してあり、ありがたかった。しかしこのひとのスケッチ、空間把握が抜群に上手い。珍しいモノや風俗を描いたスケッチは味があって楽しい。武四郎は、蝦夷地の内陸にも入り、国後島、択捉島、さらにサハリンのシツカ(敷香、ボロナイスク)まで行っているんだなあ。
幕府の御雇を辞したあとは「多気志楼主人」を称して精力的な出版活動を行った。蝦夷地内の各地域の産品・地勢の特徴を記したもの、よく使う蝦夷語(アイヌ語)の便覧など。携帯と一覧性に優れた一枚物に表形式でまとめてある。色刷りで楽しみながら学べる双六や『蝦夷漫画』もあり。
北海道の命名に関しては『道名之儀取調候書付[控]』という資料が出ていた。新政府に対して武四郎が提案したのは「日高見道」「北加伊道」「海北道」「海島道」「東北道」「千島道」の6案。「北加伊道」の「加伊」は「アイヌ民族もしくはアイヌ民族の暮らす土地を意味する古いアイヌ語」と武四郎が考えていたという。これを以て「北海道の名付け親」というのはちょっと微妙。だが、蝦夷地とアイヌの人々に深い共感を持った人物であったことは間違いない。明治新政府の蝦夷地政策に失望した武四郎は、開拓使官員の職を辞してしまう。
晩年の武四郎について、北野天満宮に大神鏡を奉納したことは知っていたが、上野東照宮、太宰府天満宮、大阪天満宮、金峯山寺にも同様に日本地図等を刻んだ大神鏡を奉納している。天神信仰に凝っていたようなのも面白い。最後に大首飾りと『武四郎涅槃図』に描かれた古物の数々。残念ながら『涅槃図』のほんものは来ていなかった。
■小樽文学館 企画展『怪奇幻想文学館 古典から現代文学・都市伝説まで』(2018年8月4日~9月7日)+企画展『小樽に残した文豪の足跡』(2018年8月4日~10月28日)
前者は、日本近世から現代に至るまで庶民の読物、芸能、文学、美術に描かれ、民俗学でも研究調査されたさまざまな怪異、幻想を紹介する。「日本三大怪談」(初めて知った)の四谷怪談・皿屋敷・牡丹燈籠に加え、近代の文豪が創作した怪談など。作品の一部がパネルで紹介されているのだが、三遊亭圓朝の『百物語』(自殺したお坊さんの霊の話)は、文字を追っているだけで、耳に語り声が聞こえるような気がした。さすがだ。山東京伝の『怪談模模夢字彙(かいだんももんじい)』(パロディ怪談)には笑ってしまった。
後者はゲーム「文豪とアルケミスト」(文アル)とのコラボ企画。ゲームの公式サイトを見ると49人の文豪が登録されているが、小樽ゆかりの8人が等身大のキャラクターパネルで登場。古い酒場ふうの飾りつけも雰囲気があってよかった。当分あのままだといいな。
北海道の休日(先週)に行ったもの。長野県上田市にある無言館は、戦没画学生の遺作や遺品を収蔵する美術館である。これまで行ったことはないのだが、たまたま旅先の北海道立文学館で、この特別展が開かれていたので行ってみた。出陳作品は約200点。ただし、遺品の写真や絵葉書などもあるので、絵画・彫刻作品はこれより少ない。しかし想像していたよりも完成度の高い作品が多くて楽しめた。
兵隊にとられる前、しゃれたファッションで自由を謳歌していた頃の写真や、芸術家らしい、自意識の強そうな肖像画などがあったことが、いわゆる戦争画よりもショックだった。印象的だった作品のひとつは清水正道『婦人像』で、断髪で浴衣姿の若い女性が少し姿勢を崩して座っている。作者は芸術家らしいシャイな性格で、応召を誰にも知らせず、いつの間にかいなくなってしまい、この1点だけが遺ったという。作者紹介には、判明している限り「〇〇にて戦死」という結末が添えられているのだが、「戦病死」の数が多いことが傷ましかった。
■北海道博物館 第4回特別展『幕末維新を生きた旅の巨人 松浦武四郎-見る、集める、伝える-』(2018年6月30日~8月26日)
伊勢国(現・三重県松阪市)に生まれ、幕末期に蝦夷地(北海道)を6回踏査してアイヌ民族の生活状況などを克明に記録し、「北海道の名付け親」として知られる松浦武四郎(1818-1888)の生涯を紹介する特別展。武四郎といえば、2013年に東京の静嘉堂文庫美術館で『幕末の北方探検家 松浦武四郎』という展覧会が開かれている。当時、私は札幌に住んでいたが、東京へ遠征して見に行った。これは、静嘉堂が所蔵する武四郎旧蔵考古遺物コレクションの展示を主としたもので、面白かったが、私の関心からはやや外れていた。
本展は、会場に入ったとたん、ずらり並んだ文書の数々に圧倒された。武四郎自筆の書簡、フィールドノート(野帳)の数々。携帯に便利な小型のメモ帳に細かい字でびっしり書き付けたものもあれば、ページの上下を線で分けて、上(やや狭い)にスケッチ、下に文章を記載する形式にしたものもある。原本は1箇所しか開くことができないので、布バナーに全頁の写真図版(小さいけど)をプリントアウトして掲示してあり、ありがたかった。しかしこのひとのスケッチ、空間把握が抜群に上手い。珍しいモノや風俗を描いたスケッチは味があって楽しい。武四郎は、蝦夷地の内陸にも入り、国後島、択捉島、さらにサハリンのシツカ(敷香、ボロナイスク)まで行っているんだなあ。
幕府の御雇を辞したあとは「多気志楼主人」を称して精力的な出版活動を行った。蝦夷地内の各地域の産品・地勢の特徴を記したもの、よく使う蝦夷語(アイヌ語)の便覧など。携帯と一覧性に優れた一枚物に表形式でまとめてある。色刷りで楽しみながら学べる双六や『蝦夷漫画』もあり。
北海道の命名に関しては『道名之儀取調候書付[控]』という資料が出ていた。新政府に対して武四郎が提案したのは「日高見道」「北加伊道」「海北道」「海島道」「東北道」「千島道」の6案。「北加伊道」の「加伊」は「アイヌ民族もしくはアイヌ民族の暮らす土地を意味する古いアイヌ語」と武四郎が考えていたという。これを以て「北海道の名付け親」というのはちょっと微妙。だが、蝦夷地とアイヌの人々に深い共感を持った人物であったことは間違いない。明治新政府の蝦夷地政策に失望した武四郎は、開拓使官員の職を辞してしまう。
晩年の武四郎について、北野天満宮に大神鏡を奉納したことは知っていたが、上野東照宮、太宰府天満宮、大阪天満宮、金峯山寺にも同様に日本地図等を刻んだ大神鏡を奉納している。天神信仰に凝っていたようなのも面白い。最後に大首飾りと『武四郎涅槃図』に描かれた古物の数々。残念ながら『涅槃図』のほんものは来ていなかった。
■小樽文学館 企画展『怪奇幻想文学館 古典から現代文学・都市伝説まで』(2018年8月4日~9月7日)+企画展『小樽に残した文豪の足跡』(2018年8月4日~10月28日)
前者は、日本近世から現代に至るまで庶民の読物、芸能、文学、美術に描かれ、民俗学でも研究調査されたさまざまな怪異、幻想を紹介する。「日本三大怪談」(初めて知った)の四谷怪談・皿屋敷・牡丹燈籠に加え、近代の文豪が創作した怪談など。作品の一部がパネルで紹介されているのだが、三遊亭圓朝の『百物語』(自殺したお坊さんの霊の話)は、文字を追っているだけで、耳に語り声が聞こえるような気がした。さすがだ。山東京伝の『怪談模模夢字彙(かいだんももんじい)』(パロディ怪談)には笑ってしまった。
後者はゲーム「文豪とアルケミスト」(文アル)とのコラボ企画。ゲームの公式サイトを見ると49人の文豪が登録されているが、小樽ゆかりの8人が等身大のキャラクターパネルで登場。古い酒場ふうの飾りつけも雰囲気があってよかった。当分あのままだといいな。