コーヒーの表面に
わっとミルクが滲んで
やがて現れる1枚の絵
それが僕
たまたま開いた小説の
1ページの中の3行目
それが今日
「かけがえがない」
と誰かが称える
「どこにでもある」
とまた誰かがこぼす
ん? どうなん?
・
出窓の前には鉢植えが置いてある
そこは一つのサイドテーブルだ
取り壊された建物は
新しくお弁当屋さんになろうとしている
国道を走る車をずっと眺めていた
絶えず動く風景を見ていることは
なんて気楽なことだろう
色や大きさ
速度や車間距離はみんなバラバラだ
しばらく間が空く時は信号の周期だろうか
大型バス
続いてバイクも
代わり映えしないとみることもできるが
変わり続けているとみることもできる
どこを切り取ったとしても
全く同じ絵にはならないだろう
動かしている者が人であるとするなら
急ぐ者もあれば楽しむ者もあるのだろう
ファストフードの2階が
今夜の僕の運転席だ
pomeraよ 早くエンジンをかけて
・
「ふりだしにもどる」
またこれか……
2時間かけてあたためたモチーフが
夜をまたぐと冷え切っている
「何もない」
自身の中に価値(愛)が見出せない
たかが一つの夜なのに
・
調子のいい時は
どんどんどこかに行きたくなる
どこまでもどんどん行きたくなる
調子に乗ってどこまでも
みんな忘れて行きたくなる
あの調子はどこに行った?
放っておいてもどんどんあふれてくるような
あの素敵な調子はどこに行った?
調子は待っても現れない
調子は呼んでも戻ってこない
お調子者が!
お前なんかだいっきらいだ
・
膝の上にpomeraをのせて
あなたは待っていた
「何も始まらないよ」
「えーっ? 今日からじゃないの」
きっと思い違いをして
あなたが見つめるスクリーンは
pomeraの空だった
「あなたから打ち込まなければ」
「私から?」
「あなたはアスリートになるんだ!」
「私になれるだろうか」
(そんなつもりもなかったのに)
「あなただからなれるんじゃない」
「私、走ったこともない……」
「あなたにはpomeraがいるのだから」
・
書き出した詩に蓋をして
石を載せて寝かせておく
誰の目にも触れない
冷たい場所に歳月は積もり
ああ たしかここにもあったな……
ふと思い出し
懐かしい恋情がこみ上げるように
取り戻したいものがあふれてきたら
その時こそ君が詩を書くべき時だ
さあ 重たい石をどけて
詩を解放せよ!
・
カチカチと内部で音がする
つないでいた何かが
離れ始めている
(永遠はない)と隣人が教えてくれた
違和感なく僕のタッチを受け入れている
オー pomeraよ
きっともうすぐさよならなんだ
最後のタッチは
明日にも
次の瞬間にも
やってくるのかもしれないな
・
書かずにはいられない
書いても進まない
書いても書いても
どこにもたどり着かない
「書いてどうするの?」
脳裏に再現される兄の問いかけ
(あなたはどうして書くのだろう?)
(あるいはどうして生きるのだろう?)
乗り越えて、駆け抜けて、手に入れて、
実らせ、倒し、クリアして、次のステージへ……
そのような手応えが
このゲームにはみつけられない
・
どうせ終わりだとばかりに
暖房は切られている
コーヒーは底を突き
少年も猫も通らない
警備員が近づいてきて
閉店時間を予告する
「あと少し」
寂しくなる時間に
ときめくものがある
ここで もう一編の詩を