眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

なぜ冷蔵庫の扉は自動で開かないのか

2020-05-18 19:49:00 | フェイク・コラム
 あなたは冷蔵庫の前で途方に暮れていたことがあるだろうか。白く冷たい扉の前で、何かを期待し想像しあきらめてしまう。その時、ドアが開いたなら、中の光をのぞき込むことができたなら、手を伸ばすこともあったはずだが。あなたは自分から進んでドアに触れることはできなかった。本当に疲れている時は、ほんのちょっとしたアクションさえも、億劫になるものだ。(誰か開けてくれないか)けれども、そんな人はもうずっといなかった。

 私は店の入り口までやってきて立ち止まった。
(あれ? 開かない)
 立ち止まって開かないという時には……。
 過去の経験に基づいて、一歩後退する。
「いたたたたたっ!」
 しまった。後ろに人がいた!
「どうもすみません」
(いたたー)
 女は何も言い返さなかった。
 ただあきれたような、苦い表情を浮かべているだけだった。
 そのような自動ドアを私は恐れた。
 自分だけに開かないドアが怖かった。
 だんだんと近づいていく時間は不安で仕方なかった。
 遙か手前で感度よくドアが開けた時はうれしかった。
 自分を認めてくれるドアは好きだった。
 大人になるにつれ開かないドアはなくなっていった。
 だんだん開かないドアには近づかなくなった。
 開かなかったドアのことはすぐに忘れるようになった。

 あなたの冷蔵庫はもう平成時代のずっと前の型だ。
 開発は水面下で進んでいる。
 全自動冷蔵庫扉の登場を待つのは人ばかりではない。いつもお腹を空かせた猫たちが密かに望んでいるそうだ。そして、開発者の中にはそのような一派の味方をする者が必ずと言っていいほど交じっているのである。あるラインを越えてしまえば、茶の間に現れるのはそう遠い未来ではない。「えっ手動ですか」
(自分で開くの?)
 そんな時代はもう現実に迫っている。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

選ばれたあなたへ

2020-05-18 18:05:05 | オフサイドトラップ
「今、お時間よろしいでしょうか?」
「はい? どちらさんでしょうか?」
「おめでとうございます! この度は、厳正なる審査の結果、見事あなたが選ばれました!」
「あの、もしかして……」
「ご本人様でいらっしゃいますか? ご応募された作品が、素晴らしい出来栄えでして……」
「そうなんですか? 本当に?」

「どうもおめでとうございます! ご本人様に間違いありませんでしょうか?」
「あ、はい。私ですが」
「まことにおめでとうございます! 早速ですが、次のプロジェクトについて説明させていただきます」
「あー、プロジェクトですか。うーん……」
「少し長くなってしまうかもしれませんが、夢のある話ですのでおつき合い願えますでしょうか」
「ちょっと、今ですね。あれなんです」

「お忙しかったでしょうか?」
「あ、はい。でも、今、ちょうどラーメン作っちゃったんですよね。だから……」
「失礼しました! お忙しいところ、申し訳ありません。それではまた、改めてお話しさせていただきたいと思いますので」
「すみません。タイミングがわるくて、申し訳ないです」
「いいえ、こちらこそ失礼しました。では、また改めて近い内にということで」
「本当にすみません。そうしてもらえると助かります」
「では、とりあえずお祝い申し上げて、失礼させていただきます」
「ありがとうございます。ではでは」
「はい。それでは」
「では、また」



「この度は、誠におめでとうございます」
「はあ、何かわからないけどありがとうございます」
「あなたが選ばれたのですよ」
「どうして選ばれたのか、正直よくわかりませんけど」
「それはあなた、あなたが書いた作品が素晴らしかったからじゃないですか」

「何かまだぴんときませんけどね」
「みんな誰でも最初はそうですよ。自分の才能には気がつかないものです」
「才能ですか?」
「そうです。私たちが選んだのですから、あなたの才能に疑いの余地はありません」
「才能なんて、別にないと思いますけど」
「まあ、とにかく今回はおめでとうございました。どうか自信を持ってください」
「ありがとうございます。こんなことは初めてだから」

「では、早速、本題に入るとしましょう。まず、最初にお店に並ぶまでのプロセスを説明します」
「お店って、どこの?」
「そりゃあ、あなた、全国の有名店から、街角にある個人店まで様々ですよ」
「はあ」
「最初に初期費用として、100万円ご用意していただきたいのです」

「初期費用? 何の初期費用ですか?」
「あなたの作品は素晴らしい。けれども、それをそのままの形で出すというわけにはいかない。それなりの修正を加えていただく必要はあります。そして、作品をより美しく見せるための装飾も必要になります。そのための費用とお考えいただきたいのです。勿論、それは後で幾らでも取り返せるものですから。何と言っても、あなたの作品が素晴らしいことは、既に十分に証明されているわけですから」
「軽く出せるような額ではないんですけど。私にとっては」
「勿論、この場でご決断していただく必要はありません。十分にご検討してくださってからで結構です」

「はあ。まあ、考えてはみますけど」
「どうか前向きにお考えください。選ばれたあなたにだからこそ、強く申し上げているのですから」
「選ばれたんですよね」
「そうですよ! 誰でもない、あなたが、選ばれたんですよ!」

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ホット・サイド

2020-05-18 09:46:00 | 短い話、短い歌
「どっこいしょっと」
「でーんと構えたもんだな」
「お前にはこれで十分さ」
「後悔するなよ」

「ふん。あっちに行けよ」
「嫌だね。あっちの方が手強いんだ」
「何だと? 寝言を言うな」
「すぐにわかるさ」

「俺がナンバーワンだ」
「どこの?」
「世界のさ」
「どこの狭い世界だ?」

「つべこべ言うな」
「仕掛けちゃうぜ」
「どっからでも来やがれ」
「抜かれてから吠え面かくなよ」

「一昨日来やがれだ」
「いざ勝負!」


空踏みのからくりを巧みにつけて
イノシシを巻く初夏のウイング

(折句「鏡石」短歌)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

挨拶だけ立派だね

2020-05-18 08:56:00 | 短歌/折句/あいうえお作文
挨拶は気怠いものね友達や
うちの人には不要不急だ

(折句「揚げ豆腐」短歌)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする