何かを伝える夜明けの鴉の声をすぐ近くに感じた。ベランダか。硝子戸を開けると雪が冬布団のように積み上がっている。一夜にして大量の雪が降った。視界を塞がれて表の道を見渡すこともできなかった。今日は多くの学校や会社がおやすみになることだろう。鴉の声がまだ聞こえてくる。ベランダいっぱいの雪の中から一つのピースを見つけて抜き取らなければ、鴉の声は消えない仕掛けだ。
「ぼくがお母さんだ。捨てないよ。安心だよ」
何度も呼びかけて寄り添っている。理想のミルクに近づくように配合を工夫し、失敗を繰り返しながら。おびえても、身を引いても、自分からは逃げないように。大丈夫。その内に大丈夫になるから。
「どこにも行かないよ」
「うそだ! 人間だ。お前は人間だ!」
違うよ。さあ飲んで。眠って。安心して。裏切らないよ。不安な夜を幾つも乗り越えて、粘り強く、時を待つ。
(鍵は愛なのだ)
「大丈夫。ここにいるよ」
プチまずいコーヒー券を持っている心地よくあるひとりに惹かれ
眼光をレンズの奥に秘めながら正座の人が盤上にいる
ひと跳びで三日月にぶら下がるため助走はもっともっともっとだ!
僕の行くあとの世界が美しくなれと願った雑巾レース
納豆の勇者を混ぜて強くなるゲームジャンルは育成その他
いつだって出向いておいでコンビニの隣は君のための交番
ミルクティー眼下に置いて耽る時消えて行くのは己か君か
コツコツと指姫さまが膝を打つ「早く私の方を向かぬか」
棒読みの台詞と共に始まった劇の主題はRPG
酒を飲み真犯人を追いつめるテレビの前が君の逃げ場所