眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

女優降臨

2020-05-30 21:21:00 | 夢追い
 コーヒーは冷めてはいたが、まだ半分残っていた。ちょうど話が広がりかけた頃だった。新しい表情を彼女の顔の中に幾つか発見した。店の終わりは突然やってきた。

「当店はこれより回送レストランとなります。どなた様もお食事できません」恐れ入ります。

「どこか行こうか」
 もう一度最初から話を聞こうか。あるいは何か食べながら話すのもいい。彼女は先に店を出た。僕には色々とすることがあったのだ。テーブルの上に広げたノートやファイルをすべて閉じる。夏服を畳んで鞄に詰める。雨用のシューズも忘れずに持っていかなければ。テーブルの隅に彼女のスマホが残っていた。(案外落ち着きのない人なのだろうか)スマホをポケットに入れて店を出る頃には1時間が過ぎていた。荷物の多さを見ればきっと納得してくれるだろう。

 街を歩きながら次の店について考えていた。地下街への入り口が開いていた。あれはいつか来た……。いや似ているだけだろう。地下街への扉はどこも似て見えるものだ。記憶のとは違い何もない廃れた地下街かもしれない。何もない地下街を延々と歩くことの不安。それにも増してハンドルを持つことの不安。不安の中で駐車場に着いた。
 駐車場のすぐ前の食堂に入ることになった。

「お腹が空いたらすぐに食べる主義なの」
 色々と不安があったが食堂は明るく清潔そうだった。
「スマホ」
 レストランから持ってきたスマホを見せた。
「捨てたのよ」
 スマホはもう持たないことにしたと彼女は言った。

「いつ? いつの話なの?」
 もしかして他人のスマホを持ってきたのではと心配になった。一切捨てることにしたけれど、少し前には持っていたらしい。

「これは君の?」
 どうやら彼女のスマホだったものに違いなかった。
 パスタがあり、うどんがあり、ハンバーグもある。隣の席の二人組の男が何がおすすめかを訊いている。店員の女性はニコニコとして愛想がよい。
「今日家にいたらどんな酷い目に遭っていたか……」
 前の店にいた時とは打って変わってディープな話題になった。僕はそれをどう受け止めていいかわからず黙り込んだ。多分おかしな顔をしていたことだろう。

「嫌な女よね」
 そう言って自分を責め始めた瞬間、彼女は十年老いた。
「いやいや。背景がわからないから」
 言い訳ではない。正論だ。本当はもっとプロローグを聞いていたいのだ。それが一番平和な時間ではないか。濃密な話は急速に結末へ向かう。二人組の注文を通した店員が僕らの席にやってきた。彼女はパスタを注文した。

「持ち帰りで!」
 それには驚いたけれど、僕はうどんを注文した。初めての店で肉を噛み砕く自信はなかった。
「僕はここで」
 一人で落ち着いて食べるのもいいだろう。

「うちをみくびっとったらあかんのや!」
 突然の関西弁。彼女は激変を繰り返す。
「実るものも実らへんくなるゆうのがわからへんゆうんかいな!
 狢の通訳は狢に頼みやー!
 上辺だけみとったらあんたらもほんまあかんくなるでー!」
 隣の席の二人組が会話を止めて彼女を見た。主演女優を見上げるような目をして。

「Vシネマだ!」

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短歌だ折句だモーニング(意味ないよ)

2020-05-30 07:31:00 | 短歌/折句/あいうえお作文
駅前を飛ばした猫の新郎が
車こぬ間にササササササッ

(折句「江戸仕草」短歌)
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