曲の終わりはいつも寂しい
もう少し
繰り返せそうなところで
いつも曲は終わってしまう
もう少し
繰り返せそうなところで
いつも曲は終わってしまう
「それでは次の曲です」
また新しい曲がはじまる
曲のはじまりはいつもうれしい
・
Lucky Lucky - a flood of circle
当社比によると増量中とのこと。
「元はどれくらい入っていたのですか?」
「元って、元々もやしなんか入ってないですよ。入れるか、そんなもん、誰が入れるんだって。そう、まさにそれはゼロからの飛躍でした」
その瞬間、地獄に突き落とされるようだった。
あたり一帯が抗体のない船体の一部を固い変態に押しつけながら、大層な対戦車砲を浴びて死体となる、と同時に火星パークからのUターンラッシュの中から延滞金に乗ってムエタイファイターが現れると痛いほど打ちひしがれていた向日葵も天体も急に何かを思い出したように、退化と一体となった寝返りを打ち始めたのがわかった。
「あれは地獄だったろうか?」
「地獄に似た何かでしょう。思い出の中の地獄とか……。もしも本当ならば、あなたは戻れなかったでしょうから」
「私は幸運だったのだね」
推測の滝に打たれるほどの、種は落ち続けていた。
秋めいていて、まるで高速で流れる鮫の新しい遊技を追いかける快速の船が、深手を負った夜に続こうとしていた。疲れの色が、ムカデの風呂の表面に浮いて見えていたが、見え始めたのはそればかりではなく、挨拶を鼻で笑う辛口のオムライスに突っ込む鹿の角に似た気配を漂わせながらも、それとはまた少し趣の異なる冬の妖気を上唇に塗りたくった骨董品売場の老婆の冗談めかした歌の切れ端についた触覚のようなものがあったのかもしれない。
あえて触れることもあえて触れないでおくことも、どちらも等しい道につながることを信じたのは、なえてもたえても何かにかえてそれを慎みの水たまりから拾い上げる1つの結論にするには、少し時期尚早であり、テレビと目玉焼きを天秤にかけた朝にはまだ色の薄い雪と通りすがりの猫の関係に近づいていったとしても、耐えることは容易く、それにも増して泣くほどの朝だったのである。そうした出来事の1つ1つを音速のトキが書き留めていた。
「忙しい町ですな」
駅ビルによって薪割りをしながら。
体罰を苦にタップを踏んだ猫はたいまつを手に暖をとろうとしていたけれど、火中の栗を拾うことを趣味としたシュー鬼の集団の邪魔が入ったところで、母の呼び名が蘇ることを止められなくなった。涙ながらに歌うのではなく、歌いながら海を網で捕らえるつもりだったのに。呼び名を変えたのは、きっとあなたとの別れだった。
おふくろさん、母ちゃん、お母さん、
あいつ、あの人、先生、きみ、
苦しい胸の内をさらすカラスだった。
「涙が止まらない時はもう一度押してください」
選べるのはオレンジジュースとアップルジュースだけの、寂しいバーだった。コーヒーだってありゃしない。
「ニ択か」
景気の悪いことで、とカラスは毒づきながらオレンジ側の方を突っついた。途端に夕日の中からポストマンが現れて、ウエストカードを届けた。
「これさえあれば好きな時に好きな馬に乗って、好きでもない銃と似合いもしないテンガロンハットを身につけて、旅立つことができるんだ」
「私は今、ようやくここにたどり着いたところなんだ」
「あてのない旅人よ。待てと言っても君は行くのだな」
「私はどこにも行かない。行くあてなんてないのだから」
「ウエストカードの番号をごらんよ」
しゅんさんは、旅立ちのカードに記載された番号の中に自分の手相を見た。断絶の相に違いなかった。インターホンは完全に遮断され、それがよいことのようにされてから随分と長い時間が経過していた。誰とも接触する機会は失われていたけれど、時々誰かがプロローグだけの置き手紙を残して逃亡者になった。
「あなたは人をだませるような人ではなかった」
もしもそうするなら、言葉なんて尽くさずにもっと単純な手段を取るようなわかりやすい馬鹿野郎だったから。けれども、今ではドアが開かないほどの高さを持って、夢を描いた文集が積み上げられている。夢の半分はねつ造だというのに。しゅんさんは、将来から過去に向かって千℃の炎を見舞った。
「おい、小僧」
誰かが呼ぶ声がした。
「おい、おまえ。おまえじゃない、そっちの象の方」
「私のことか?」
「だめだ。返事をしたら、つれていかれるよ」
カラスが優しく忠告してくれた。
「わかった。何も答えないよ」
「そう、それでいい。私に全部話してごらんよ」
しゅんさんは、黒い羽を守護神的パーカーのように受け止めて無防備になった。
「深く掘って、言葉を溜めておいたんです。いっぱい、いっぱい、そうしておくんです。いつか話せる時がくると思って」
「話せる時は来ましたか」
「話せる人はなかなか現れず、時は流れていきました」
「時を恨んだのですか? それとも夢を」
「どうでしょう。ただ幼少期は言葉が混乱していて、すべてが夢の中だったように思います。記憶は確かに残っているのに、言葉でそれを再現しようとすれば、全部夢のようになってしまう」
「悪夢だった?」
「猫がついてきたとか、帰ってきたとか、そういう夢です」
「だったら、まだ残っているようだよ」
そう言ってカラスが息を吹きかけるとくすぶりの中から夢の切れ端が燃え上がった。
夢の明かりが街をすっぽり包み込むと犬は尾を垂れて自分の小屋の方に帰って行った。
「ここは天国じゃないんだ」
「うんだ、うんだ」
警備員が帰った隙に曲線を引き損ねたポンコツのボンゴレ術師が、幾千の仁義なき肉団子を引き連れて闇の混合リレーを催し始めた。
街は夢とカレンダーに浮かんだ鮮やかな水溜まりに跳ねるバレンタインに染まるようにして、言葉の揺れと一体化する若きヌーの群れの血管がしるしをつけながら走る地の果てを見つめる大陸と化していた。白線を引き続けながら拡大するコートの果て、抑圧された歓待の網を抜け出して引き伸ばされ始めたピッツァを囲むユートピアを追いかけて、削り取られた夢の鎮魂歌、むしり取られていく昨日にあてた反戦歌。その中でウサギと亀の対立は、あまり人々の注意を引かなかった。
「みなさん、道の真ん中にあふれないで!」
「ここは天国じゃないか」
「うんだ、うんだ」
精細を欠くトングが落選させたボンゴレのかなしみを、その場にいた誰が理解したというのだろう。麺の数は、千本から万本はあっただろうに。天国が消え去った後でやってきた路面電車は、レールを捨てて麺の上を蛇のように走った。麺はどこまでも伸びて、闇を束ねる夢紐のように優雅だった。
「3番のカードをお持ちの方」
ロングブルーをまとった男が、しゅんさんの元へ近づいてきた。
「3番街を差し上げます」
突然、街の名士となるとは考えられなかった。
「どうして?」
「素敵な街にしてください」
「身に余る光栄です」
「ふふふ、ご謙遜を」
「いや違う。違います!」
しゅんさんは街を掴み上げて、烏合の衆諸共放り出そうとした。けれども、思いの他街は自身の肩を強く傷つけることに気がつくと再び、地に降ろした。
「受け取る覚えは、ありません」