
「作兵衛さんと日本を掘る」(2018年) 熊谷博子監督 ○ ☆☆
2011年日本初のユネスコ記憶遺産に指定された山本作兵衛が描いた記録画と日記を元にして明治から昭和にかけての筑豊炭鉱の盛衰と、記録画を発見し様々な形で社会に紹介した人々の姿をドキュメンタリーにしました。
元炭鉱夫で閉山後は警備員として働いていた山本作兵衛は60歳半ばを過ぎてから「子や孫に炭鉱の姿を伝えたい。」という思いから絵筆を取り書き始めました。その数数千枚と言われ山本は請われればその絵を様々な人にあげていたので専門家の眼に触れることになりました。そして画集が出版され表舞台に登場します。しかし、市井の人である山本は酒さえ飲めればご機嫌で有名になることなどには全く関心はなかったようです。
一方、エネルギー転換を迎え、職を奪われた労働者が原発へ吸収され時代は変わったかに見えましたが、山本は「底の方は何も変わらない。」という言葉を残しました。その真意を考えさせることばです。
絵画の勉強などは受けたこともなくただ「絵を描くことが好きだった」という山本の絵は炭鉱夫、炭鉱婦への愛にあふれ見るものに「労働の神々しさ」を思い起こさせます。カンテラの灯りに浮かび上がる子どもを連れた母親の炭鉱婦の絵は炭鉱のマリア」と評されているそうですが、まさに慈愛に満ちた眼差しが秀逸です。
日本初の記憶遺産指定は、本来ならばもっとメディアで大きく報道されるべき事柄でしたが、2011年5月という日本中が大混乱の中だったので一部の人にしか伝えられずそれが残念でした。この作品をきっかけにもう一度多くの人に関心を持ってほしいものです。
2018年の作品ですが、やっと鑑賞することができました。桜坂劇場ありがとう。