続き。
それぞれが目標宣言をしてから本格的に練習開始。どれくらいの負荷なのか、どれくらい時間がかかるのか。この辺りがはっきりと分かりませんがやると決めたからにはやる。それだけは伝えていました。
単純に走るだけではなくタイヤ引き1本走った後にスプリント1本。これを3サイクル繰り返して1セット終わり。6本1セットにして10セット。量的にはかなりのものだと思います。未知数。makinoはさすがに量が多過ぎるので奇数のセットだけ入ってやることにしました。量を追う練習。どれだけスピードを出し続けるか。どうしても怖がってしまいスピードを抑える部分が出てきます。当然の話です。それでも恐れずしっかりと走ることを求めました。
最初のセットが終わってもまだ6本です。最初の2本が終わった時点で「先が見えない」という話をしていました。これまでだったら私が「練習切り替えて別のことをやろう」という声かけをしてメニューが変わることがあります。量を追うこと自体がほぼなくなっていますが、技術的な練習であってもそのパターンはあります。が、今回は絶対にやり遂げるというのが大前提。
とにかく3年生が声をかけ続けてくれました。男女問わず大きな声で。スタートする時に「◯本目行きます!」と代わる代わる声を出していました。それに対して他の者が「はーい」と大声で返事。走っているときは個人名を叫びながら励ましてくれていました。普段はそれほど人数が多くないのでこのような風景はなかなかありません。3年生の存在が練習を支えてくれていました。その場面を少し離れたところから見守るだけしか私にはできません。いや、あえて距離を置きながら見ていだというのが正しいでしょうか。
3セット行ったところでタイヤ引きを取りやめました。時間がかなりかかります。タイヤ引きをするとスピードが出切らない部分がある。前傾を保ちながら走ることになるので見た目よりは走りやすかったようです。3セット目に入ったくらいからスピードが出ずにジョグのようになる者も出てきました。スプリントの方はある程度走れるのにタイヤ引きではスピードが落ちる。これでは効果がなくなると判断。更にはあまりにも時間がかかりすぎる1セット終わるのに30分近くかかっていました。このペースでいくと走るだけではかなりの時間になります。終わらない(笑)ここまでタイヤ引き9本、スプリント9本でした。
この辺りから私はひたすらグランド整備をすることにしました。同じ場所を何度も走りますからグランドが荒れます。マネージャーもいませんから誰かがやらないといけない。私しかいません(笑)。何本か走るごとにひたすらグランド整備をしました。選手はひたすら走る。私はひたすら整備する。こうやってやりながら色々な想いを馳せていました。私は選手と一緒に走ることはできない。60本走るという桁外れの負荷をかけながら選手は自分自身と向き合ってい。その間私は何をしているのか?そんな葛藤がありました。
途中、ある選手が涙を流していました。先が見えない不安や思うように身体が動かない辛さがあったのだと思います。即座に前女子キャプテンが気づいて声をかけてくれていました。ありがたい。私はあえて距離を置いていますからこういう時にはいきません。その時の状態を見て動いてくれる。本当にありがたいなと。歩きながら代わる代わる3年生が声をかけてくれる。特に女子はこういう部分が必要になる。
普段はなかなか声が出ないのですが男子がしっかりと声を出して引っ張ってくれました。テンションを上げなければやっていられないというのもあったと思います。こういう部分に他の者が救われていると思いますね。なかなか盛り上がらない中で声を出す。疲労と辛さの中で下を向いてしまう。そんな状況の中でカラ元気でも声を出してくれるというのは大きい。いつもの練習ならそこまでやらなくても練習は終わりを迎えます。が、この日は何かを変えなければ絶対に練習が終わらない。絶対にやめないと決めているのですから。現実は変わらない。そうであれば自分たちのやり方を変えていかなければ保てない。そういう経験は環境を与えなければ感じ取れないと思いますね。
30本終わったのが12時過ぎ。やっと半分。まだ終わりが見えません。とにかくお互いに声かけをしながらやっていく。makinoも後輩たちに声をかけながらやってくれていました。途中から男子は足を攣りそうになりながら走っていました。走り切りたいという気持ちがありながら身体がついてこない。仕方ない部分です。走り終わってから足を攣っている者もいました。3年生が助けてくれていました。「様子を見ながら抜けても良い」と話をしましたがジョクレベルになりながらも走り続けていました。本来なら止めるべきなのかもしれません。それでも「続ける」という選択をしている選手を見守ることにしました。
ラスト3セットになった時に男子キャプテンが円陣を組んでいました。男子が大きな声で声かけをしてくれていました。女子はなかなか乗り切れませんがこうやって引っ張ってくれる存在がいることは大きい。淡々とやる練習ではない。終わりが見えてきていましたがやはり負荷は大きい。必死に走っている選手達をみてそれぞれがかなり大きな声を出すようになっていました。同じ辛さを共有している選手。走るのがどれだけ大変なのか。それを分かるからこその声かけ。個人名を叫ぶことなどは普段ありません。この日はとにかく全員が応援してくれていました。突き抜けるためのきっかけだと思います。
ラストセット。私がグランド整備をしている間に3年生も含めた全員が部室の前で円陣を組んでいました。突然のことで写真を撮り逃しました(笑)。何を言っているのかさえ私には聞こえませんでしたがグランドにいる全員が気持ちを一つにして達成しようという雰囲気がありました。30本走りきったmakinoはバーにTシャツを付けて旗振りをしています(笑)何をしているのか(笑)。それでも一番年上がこうやって盛り上げてくれるのはありがたい。性格的なモノもあると思いますが。
終わりが見える。1本1本積み重ねていくことで終わりが見えてくる。この練習誰が一番真剣に取り組んだという事はないと思います。それぞれが「想い」を抱えながら練習する。特別なことはない。全員が主役だったと思います。最後の1本まで来た時見ている私も涙が出ました。いや、不可能だと思っていたことをきちんとやり遂げる強い意志。それぞれが大きな声を出してスタートを切る姿。どこでもできることではない。今のメンバーだからできる。
走り終えた後女子は涙を流していました。かなり過酷だったと思います。計り知れない達成感。これまで経験したことのない表現できない感情。これが人生を変えるのではないかと感じました。キレイな練習だけをしていたらここまでの想いは生まれないと思います。
ある程度してから集合して話をしました。ここまで来たら私が話をする必要はないだろうなと思いましたが。
1本1本積み重ねていって最後の60本までたどり着きました。このグランドに立って60本をやるという選手。「強くなるんだ」という想いがある者しかできないと思います。そこまでしてやりたくないという者は最初からやらなくていいのですから。意味があるのか?と言われたら分かりません。速く走ること自体今のご時世で意味があると言えない。速く動くだけなら自動車に乗ればいい。100mを何秒で走ったって世界は変わらないからです。言葉では表せない部分。それを体験してもらうためにこの練習をしました。
止めようと思えば止めるのは簡単。止めたところで別にどうってことないのです。が、一番大切なのは続けること。60本走るという中で絶対に「止めてやろう」と思うことは何度もあります。そんな中で踏みとどまって続けていくこと。こちらの方が何百倍も難しいのです。続けていたからこそ最後の最後に得られた達成感がある。言い訳を作って止めてしまうのは本当に簡単。そこを自分の中でどうするか。続けていくことの辛さを体験したはず。それでもやり続ける。その価値です。
更にはこの状況、自分達だけではできなかった。サポートしてくれる3年生の存在。練習参加したくれた大学生の存在。一緒に走っている仲間。多くの人の支えがあったからやり切れたのです。1人でこの練習を達成するのは不可能だと思います。やはり大切なのは感謝だと思います。支えられている感覚とそれに対する感謝。当たり前ではない。この練習をするために3年生は7時間近く付き合ってくれました。私も心から感謝したいと思っています。
大学生、今はこの手の練習はしないと思います。だからこそ原点に帰るという部分が必要になるかなと。高校生だからできる練習がある。来年、日本選手権に出場するという大きな目標がある。そうであれば尚更「原点」を忘れて欲しくない。強くなるために必死になる。がむしゃらに強くなることを求め続ける。その姿は大切。
3年生。本当にありがたいなと思います。この子達が作って来てくれた陸上競技部。見守る中で何を感じてくれたでしょうか。通常ではできない練習。それをやり続ける後輩たちの姿はその目にどう映ったでしょうか。もう走ることができない3年生。その想いを下級生に託しています。見守り続けてもらいたい。
そんな話をして終わりました。終了後ある女子選手が涙を流していました。3年生や大学生と抱き合いながら泣いていました。どうしたのか?と聞くと「先輩たちが私達のために来てくれたことが本当に嬉しい」とのこと。自分のために流す涙ではない。これは財産だと思います。こういう景色は通常では絶対に見られない。私もウルっときましたね。この子達と一緒に競技が出来ることを本当に嬉しく思います。
最後に私から「お疲れ様」ということです差し入れ。まーこれはどっちでも良いんですが。最後の最後にご褒美くらいは準備しておかないといけないと思っていました。
練習納めとしてはこれまでの指導の中で最高だったと思います。これを来年に繋げていきたいですね。思うことは山ほどあるのですがあまりにも長くなるのでとりあえずこの辺りで一旦終わらせておきます。
本当に良い練習でした。選手、3年生、大学生、保護者の存在に心から感謝します。本当にありがとうございます。