照る日曇る日第867回

岩波新書の新企画「シリーズ日本中世史」の第2巻で、鎌倉幕府の成立から滅亡までのおよそ150年を駆け足で叙述している。
モンゴルの侵攻や徳政令による社会不安、後醍醐天皇による討幕計画がなくても、当時武士が困窮化せざるを得ないような分割相続の構造があったから、それが原因で遠からず自壊していったのではないかという仮説はなかなか興味深いものがあった。
しかしそもそもこの新書の中世史シリーズは、一般の読者を対象とする通俗的な啓蒙書であり、専門の学者や研究者相手の学術的な専門書ではない。
にもかかわらず素人に伝えるべきその内容が、著者の脳髄の内部で十二分に咀嚼されておらず、表現や文体もかなり生硬で読みずらいのには閉口した。
「あとがき」の中で著者は、専門的な史料の解釈と考察に支えられた筋の通った通史を目指したと書いているが、彼がその理想を実現するのにはまだまだ多くの時間と成熟を必要とするだろう。
同じ岩波新書から出ている亡き網野善彦選手の「日本社会の歴史」などをもう一度勉強し直してほしいものである。
その方が上手な歌になるけれど稚拙なままにしておきたいんだ 蝶人
広島で米大統領が読みあげる嗚呼堂々の平和哲学 蝶人