蝶人物見遊山記第206回
誰が考えたのか知らないが妙なタイトルをつけるもんだ。その俺たちのなかにおらっちは入っていないから念のため。
歌川国芳の兄弟子が国貞で見比べると国芳のほうが技量も藝術性も上回っているように感じられた。されど極めて紛らわしい作風なので、国芳は黒、国芳は木の額縁に入れられているが、それに気づかぬ客もいるようである。ま、どうでもいいけど。
中では「鯨が為朝を救う図」や海に沈んだ平家の落ち武者が海底から恨みを込めて見上げている「大物之浦海底之図」、「和田合戦」などの国芳の武者絵の想像力が見る者を圧倒する。
しかし170点も並んだ浮世絵の中でいちばん心に残ったのは、国芳の「八代目市川團十郎死絵」。嘉永7年8月6日、32歳の若さで突如謎の切腹自殺を遂げたこの人気役者の蒼白い首絵はどうしたって死出の旅の路次にある俺たちのわたしたちの関心を捕えずにはおかない。
首絵に添えられた枯れ薄の一つひとつに関係者の追善の句が添えてあるという古今稀なる異色の幽霊画である。
正月の家族旅行で会議する仕事熱心な我らが都知事 蝶人