蝶人物見遊山記第298回

御存じ名奉行、大岡越前と大江戸を騒がせた天一坊とのハラハラドキドキの対決を描く名人、河竹黙阿弥のシナリオは上出来だ。
これは序幕の2場、2幕、3幕の1,2,3場、4幕、5幕、そして大詰という全幕通しの積み重ねがあってこそのドラマの爆発とカタルシスであって、歌舞伎座の名場面でたとこハチャメチャチョイスがいかに歌舞伎本来のエンタメの在り方を損なっているかの良き証左でもある。
ではあるが、主役を張る大岡越前の中村梅玉とその敵役、天一坊、市川右團次の発声は悪しき先輩を真似たのか弱弱しく、五月蝿過ぎる三味線の伴奏もあってほとんど3階席まで届かない。せめて山内伊賀亮演じる坂東彌十郎並の音吐朗朗が欲しいと思ったのは私だけだろうか。
5幕ではさしもの名奉行大岡越前も天一坊側の攻勢に追い込まれ、奥の部屋から大名時計が時を打つの聞いた越前は「もはや七つじゃ。はよう介錯の支度をせよ」と家来に命じて、妻子もろとも自害しようとする。
この演出は黙阿弥のものか、それとも劇場文藝研究会の補綴によるものかは分からないが、私の亡母は上口愚朗が収集した谷中の大名時計記念館が生家なので、とても懐かしかった。因みに大岡越前守忠相の墓地も、谷中の慈雲山瑞輪寺にある。
なお本公演は、来る26日までずら。
「憲法」をどう「読み解く」かご存じですか? 「ケムンパス」と読むのが正解 蝶人