音楽千夜一夜 第429回
1)EMI盤「ブルーノ・ワルター初期録音集9枚組」
主として1930年代にワルターがウィーンフィルやパリのコンセルトヴァトワール管などを指揮して録れたモザール、ベト、シュバ、ワグ、マラーなどの8枚とおまけの9枚目のドキュメンタリーずら。すばてモノラルだが、音は思いのほか鮮明で、晩年のワルター翁とは打って変わった青年の元気な演奏を堪能することができる。
しかし「田園」などは後期のステレオ盤に軍配が上がるが、モザールのレクイエムとかマーラーの9番、大地の歌などの解釈は晩年と比べても、そう変わってはいないのではなかろうか。
2)伊メモリーズ盤「ブルーノ・ワルター・マーラー交響曲集5枚組」
こちらも全部モノラルだが、イタリアのメモリーズによるデジタルリマスターで前者よりも生々しい音がする。1番、2番、4番、5番、9番、大地の歌の6曲のうち、5番と9番は前者と同じ演奏である。
3)伊メモリーズ盤「フランツ・コンヴィチュニー指揮ブルックナー交響曲選集6枚組」
頑固で一徹な職人芸のおじさんが手兵ライプチヒ・ゲヴァントハウス管やバルリン放響、ウイーン響を指揮した武骨で重厚なブルックナー。4、5、7番はステレオだが、彼が死ぬ直前にゲヴァントハウスと録れた9番が心を打つ名演。
4)独グラモフォン盤「マウリツィオ・ポリーニ協奏曲集8枚組」
モザールは12、17、19、21、23、24の3枚、ブラームスはもちろん2枚、ベートーヴェン5曲が合唱幻想曲を含めて3枚という内容で、ベームとアバドがウィーンフィルを振っている文句なしの名曲名演奏の必携の名盤である。
モザールはポリーニの弾き振りよりも、やっぱり御大ベームが指揮した19番&23番が最高だ。私は伊エルミタージュ盤のポリーニのモザールの弾き振りを昔から愛聴してきたが、天下のウィーンフィルよりも、スイスやイタリアのローカル・オーケストラを相手に楽しく奏でていたほうが、彼らしい音楽になっていたと思う。
5)ワーナー盤ワルター・ギーゼキング「ドビュッシー・ピアノ曲集5枚組」
独逸の巨匠による名曲の名演。この5枚でドビュッシーのピアノ曲が全部揃う。
しかしギーゼキングはバッハとモザールの方がもっともっと素晴らしい。
6)ワーナー盤オットー・クレンペラー指揮「宗教音楽集」8枚組
バッハのマタイ受難曲、ロ短調ミサ曲、ヘンデルの「メサイア」、ベートーヴェンの「荘厳ミサ曲」という素敵なプログラム。私は巨匠による悠揚迫らぬ大演奏を、陋屋も潰れよという大音響で朝から晩まで聴きまくった。
ああ、クレンペラーはなんという感動的な録音を遺してくれたことよ!
クラシックの真髄、再生芸術の至宝ここにあり。
君、この8枚の超超廉価盤の宝物を聞かずして死に給うことなかれ!
クレンペラーのグランカッサの一撃でおんぼろ我が家はゆらゆら揺れる 蝶人