
照る日曇る日 第1370回
創世記以降、旧約聖書はいちおう時系列に沿ってその歴史をバビロン捕囚まで記述してきたのだが、この「歴代誌」ではその屈辱を噛みしめながら牛が食べ物を胃袋で咀嚼するように、もう一度時計の針を元に戻して、各氏族の身元とその系列を延々と叙述し始めるので迷惑かつ退屈である。
その祖述者が誰だかは知らないが、その筆はふたたび「偉大なるダビデ王」の事績に及び、彼が神の委託を受けて開始した神殿建設の大事業を子のソロモン王に手渡したところで上巻の幕を閉じている。
興味深いのは、神殿の門衛や守衛の場所ごとの担当者を籤引きで決めていたこと。それから主の讃歌を詠唱する専門の担当者が全部で288名もいたことで、西欧中世の教会音楽の古代の遠い祖型がここに淵源することはまず間違いないだろう。
その歌の文句は本書の16章にある「ダビデによる感謝の詩編」のごとき所謂一つの月並み詞であったに違いないが、それをいかなる楽器が、いかように伴奏していたのか、タイムマシーンで遡って遠音拝聴してみたいものである。
文旦もあと五個となりにけり芳醇至純の柑橘の王 蝶人