照る日曇る日 第1387回
本邦漫画史の記念碑的傑作の最終巻は、夏目漱石をフューチャーした明治終焉の大回顧絵巻である。それにしても、修善寺大患で「30分間死んでいた!」漱石の大喀血を描く谷口ジローの絵の物凄いこと!
そして関川選手が、漱石の愛読書W・ジェイムズの「多元的宇宙」観を引用しつつ、修善寺の「忘れるべからざる二十四日」を死地でさ迷う漱石の胸裏に、子規、虚子、四迷、啄木、三山、一葉、楠緒子、美禰子、那美、井上眼科の女、嫂登世等々、父母未生以前より現在に至る男女の俤を続々登場させて、彼らとの懐かしき邂逅の幻影を、夢のように放出投影してみせるシーンは、全5巻の白眉という他は無い。
それにしても、本書で暗示する漱石が楠緒子に振られたショックでやけくそになって松山くんだりまで都落ちしたという話は本当だろうか? 私はむしろ徴兵逃れで北海道に転籍したおのれの卑怯を恥じて西下したという丸谷才一氏の「漱石自己処罰説」に左袒したい者なのだが。
「自分には障害者以上の価値がある」そう思う人植松の友 蝶人