照る日曇る日 第1390回
第162回芥川賞の受賞作を読みましたが。なんか長崎の平戸の小島を舞台にした中上健次ばりの「サーガ」を目指しているようだが、いったい作者が何を言いたいのかさっぱり分からない。ただただ訳も分からず暗い脳内の羊腸の小径を迷走するような奇妙な文章を、くねらせつづけているのである。
芥川賞の選考委員は宮本輝以下、奥泉光、小川洋子、川上弘美、松浦寿輝、島田雅彦、堀江敏幸、吉田修一の9名であるが、第1回の投票では、この作品を含めて当選該当作はなかったという。
普通なら「該当作なしの判定」である。それなのにメンバーたちが話し合っているうちに、どういう風の吹きまわしか、今回を最後に引退する宮本輝、あるいはスポンサーである文芸春秋への忖度であるかはいざ知らね、この下らない作品が浮上して当選してしまったというから、なんともおかしな話である。
最近の芥川賞の受賞作の大半を私は読んできたが、その輝かしい実績と名誉に値しないいくつかの駄作も鳴り物入りで世に送ってきたこともあったように思う。
しかしなんというても芥川賞は新人作家の登竜門であるし、これまでに優良な作家を多数輩出してきたから、該当作がないよりはあったほうがいいと個人的には考えるが、しかし選考委員の絶対多数が「これぞ芥川賞!」と二重丸をつけない程度の凡作に無理やり賞を与えるのは、皆の衆、いかがなもんじゃろうのう。
んで、以下は私の提案であるが、この際規定を変更して「アカデミー特別賞」にならって「芥川特別賞」を設けてはどうだろう。
全員一致の推薦が集まらない時は、過去の幾多の選考で惜しくも受賞を逃した太宰治、島田雅彦、高橋源一郎、夫馬基彦などの「超残念だった優秀作」に改めて授与すれば、例年に勝る話題を呼ぶに違いない。
「へーつと」と声に出してみる亡き父の口癖なりしその一言を 蝶人