西暦2021年皐月蝶人酔生夢死幾百夜
その老人にはさんざん感染防止の注射をしたのだが、どこのワクチンをどれだけ注射しても効きめがないので、しばらく放置していたら急激に健康を取り戻した。5/1
あの家は無人のはずだが、夜になると電気がつく。この頃誰かが住みついているようだ。5/2
冷たい川に足を踏み入れたら、足の裏に何匹もの小さい鮎が潜り込んで、私の足を擽っては逃げ出していくのであった。5/3
子供たちの読み聞かせ塾で、日本国憲法をテキストに使っていると、どことなく良い子になるそうだ。5/4
歯医者の私が頼んだのは歯医者ラーメンだったが、配達されたのは、もしかするとハイチラーメンだったかもしれない。5/5
私は地下鉄の早稲田駅から例によって無賃乗車で乗り込んで、どんどんどんどん乗り進んだが、いったいどこへ行きたいのかは、自分でも分からないのだった。5/6
私の体内に2つの怪しい影が発見されたので、2人の主治医がこれは癌だとかいや単なるオデキだとかいうて論争しているので、その間に私は病院を抜け出した。5/7
東京駅の大広間で、私に向かってワンワン吼えながら飛びつく犬がいるので、驚いてよく見れば、2002年に昇天したはずの我が家の愛犬ムクではないか!5/8
私が設計した車の外装に関して、いつもカラリストがへんちくりんな「流行色」を押し付けるので、とうとう頭にきて、自分でペンキを塗ることにした。5/9
あの憎たらしい奴が、おらっちを車で追い詰め、撥ねたので、おらっちのメガネがフッ飛んだ。5/10
超時代的なアイコさんの恐るべき下着コレクションを見せつけられた連中は、唖然として見入っていた。5/11
明日病院で、どういう風に右手が痛むかについて喋り、どういうふうにMRI検査やリハビリを頼むか、その練習をしているうちに、朝になったようだ。5/12
「私その1」は、激痛に耐えながら右手を動かしていたが、「私その2」が、「その1」の肩を叩いたので、あまりの痛さに、うめき声をあげた。5/13
巨大で真っ白な2頭のチャウチャウにすっかり気に入られて、おらっちは、嬉しいような悲しいような気持で、彼らの面倒をみていた。5/14
ここはアフリカか、それともインドなのか? 大地に横たわっていると、周りでいろいろな鳥が鳴き、獣や大蛇が蠢いている気配がする。5/15
閉店寸前の真っ暗なデパートのパート控室の奥の方で、誰かが誰かと争っているような、不穏な声と物音が聞こえる。5/16
パソコンで妻のウイルス接種の予約をとろうとして、何回も何回モアクセスするのだが、その都度「予約できませんでした」という返事が帰って来るので、またしてもパソコンで妻のウイルス接種の予約をとろうとして、何回も何回モアクセスするのだが、その都度「予約できませんでした」という返事が帰って来るので5/17
円と同心円の違いについて親しく教授のレクチャーを受けていたのに、いざそれらが実際に虚空に姿を現すと、どれがどれだかさっぱり分からなくなってしまい、いったいオレは何をしてきたのだと、中原中也のように呟くおらっちなのであった。5/18
私は自由が丘に下宿していたが、毎晩駅前の食堂で比較的高価なかつ丼を食べることが固定観念になってしまい、他のもっと安い食堂で蕎麦やラーメンを食べるという選択肢があることすら知らなかった。5/19
男たちが、「この女はまったくの変態だ」と、口々に罵り始めたので、私は割って入り、「そもそも変態とは何ぞや?」と、問いかけると、みな論争を避けて、ちりぢりになってしまった。5/20
オレは電話で起こされた。家に電通と博報堂の連中が来ているという。我が家にはモローイ部分があるから、そこに跨って至急修理せんけりゃならんそうだが、その嘘ほんまかいな。5/21
東京駅の駅員事務所の傍で、制服に身を包んだ元D社社長のミズノ氏を見かけた。静岡県で隠棲しているはずなのに、こんな所でなにを? 今更第2の人世という年でもないのに、と、謎は深まるばかりだ。5/22
久しぶりに昔の恋人に再会したので懐かしく、どことも知れない町はずれをさまよい歩くのだが、どことなく実在感が希薄なので、本当に彼女なのかと首をかしげている。5/23
せっかくリモートを誓ったのだが、どうしても3密、4密、5密、6密状態に戻ってしまうので、それが人間の本性なんだとようやく気付いた訳よ。5/24
老いたる両親を東京のあちこちに案内し、ふと気づけば2人ともいないので、懸命に探したら、なんと横須賀線の始発電車に乗って発車を待っていたので、さすがだてに年は取っていないなあと妙に感心した。5/25
私たち元同級生は、「いまなお太陽の如く光り輝く彼女のためなら、どこどこまでも付き合うぜ!」という固い決意をお互いに披歴しあいながら、地獄の底へ降りて行ったのであった。5/26
その僻地の僻映画館では、私が観たいと熱望していたさる名画を上映するというので、朝から期待して待っていたら、上映の担当者が泥酔してフィルムをかけられないというので、激怒して宿に戻ったら、映画館主が恐縮して映写機とスクリーンを持って訪ねてくれたので、感激しましたね。5/27
久しぶりに郷里に帰省したら、噂を聞きつけた新旧の友達が次々に来訪してくれて、元電通でいまはその傘下の下請け会社で営業をしているときくワタナベ君が訪ねてくれたので、驚いているところだ。5/28
ぼくは、ヘビ捕り娘とそのおじいちゃんとおばあちゃんと仲良くなりました。3人は次々に現れる大中小、赤青緑のいろんな蛇の首を後ろ側からエイヤっと捕まえてはぼくのほうへ投げて寄越すので、たまったものではありませんでした まる5/29
晩年のモザールは、思いついたらどんどん適当な楽章をこさえて、それがある程度溜まるとセレナードにしたりピアノ協奏曲にしたりしていたようだ、余が川柳が溜まると泥詩抄に転送していたように。530
私は交通事故の後遺症で右腕が痛むので、病院のリハビリに通っていたが、いつも右腕を大根のようにぶら下げていたので、医師や看護師たちから白い目で見られていた。5/30
その公園の底なし沼から吹き上げる臭素が、人々の鼻に異常な影響を与え、彼らをして、次々に原因不明の殺人事件を惹き起す要因になっているようだった。5/31
「○○さん最近あまり見ないわね」そう言われつつ消えていく人々 蝶人