あまでうす日記

あなたのために毎日お届けする映画、本、音楽、短歌、俳句、狂歌、美術、ふぁっちょん、詩とエッセイの花束です。

吉田修一著「湖の女たち」を読んで

2021-12-09 10:12:06 | Weblog

照る日曇る日第1678回

 

琵琶湖とその周縁に住む人々が登場する推理小説だが、いきなり当時の琵琶湖ホテルが出てきたので驚いた。今から半世紀以上も昔の大昔、私の祖父はこのホテルで行われた聖書贈呈式の挨拶の途中、「主イエス・キリストは」と言ったところで脳出血に襲われ、そのまま不帰の人となったのである。

 

さて本編だが、週刊誌に連載されたからだろう、話柄の一つひとつがブツ切れになっていて、全体となかなか繋がらない。満州で人体実験をしていた731部隊関連の怪しい人物、真正マゾ女と若い刑事、謎の殺人事件を追う事件記者、津久井やまゆり事件の影響を受けて100歳の老人を殺したかもしれない少女……。

 

琵琶湖の傍に住む人々の群像はそれなりに浮かび上がってくるのだが、あちこちにばら撒かれたいくつかのプロットが次第次第に大きな輪郭を形作り、やがては中心軸にひとつに収斂する手前で、物語は停止してしまう。

 

2つの殺人事件の犯人は誰か? そもそもいったい全体これはなんの話なのか?

手品の種明かしを今か今かと待っていたのに、小屋から突然放り出された読者は、呆れ果ててモノも言えない。そしてしばらくしてから、こういうだろう。

 

「この詐欺師め。金返せ!」

 

   そのかみに多喜二弑せる築地署よ春夏秋冬光は射さず 蝶人

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする