照る日曇る日第1683回
父井上光晴と瀬戸内晴美(のちに寂聴)の不倫話を、なんと井上の娘が細大漏らさず記述するという破天荒な私小説的小説であるが、なんとなくこの三角関係も、その当事者も、それらを描いた小説も、そのすべてが寂聴という妖怪坊主のような存在が領導しているような気がしてくる世にも不思議な小説。読んでいるうちにだんだん寂聴が書いている小説のような気がしてくるのである。
その寂聴はんは先月遷化されたばかりだが、彼女の墓地は光晴夫妻が眠る天台寺に用意されているそうだから、3匹の鬼はようやくこちらにやってきて、仲良く同床異夢を見る仕儀となるのだろう。
生前の光晴選手の小説を時々彼の妻が書いていたそうだが、だからというてフォークナーの影響を受けたとかいう彼の無味乾燥で退屈な小説を読む気にならないのは、なぜだろう。
臨月のお墓を抱えて夜7時天気予報の彼女はいずこ 蝶人