照る日曇る日 第1843回
歌舞伎の事なら何でも知っている著者がものした、大戦前夜の歌舞伎座を舞台にした歴史探偵小説である。
連続殺人事件の謎解きなぞの展開は、見事に失敗していて、面白くもおかしくもないが、松竹の快進撃や芝居業界の裏事情などの蘊蓄は、随所にふんだんに散りばめられていて、さすがと思わせる。
美濃部達吉の「天皇機関説」が不敬だとして葬り去られ、治安維持法によってマルクス主義者や自由主義者たちが徹底的に弾圧され、阿呆莫迦軍部が阿呆莫迦政治家どもを駆逐して独裁体制を敷いていく道行は、現代日本の陰鬱な時代状況と折り重なるように描写されているので、現今、「新しい戦前」、いつか来た道を辿りつつある我々読者の心胆を、時折寒からしめるのである。
ヒトよりもニワトリ君が偉いならインフルに罹っただけで皆殺しにされてる 蝶人