村上春樹著「更に、古くて素敵なクラシック・レコードたち」を読んで
照る日曇る日 第1859回
前著「古くて素敵なクラシック・レコードたち」の好評に応えて待望の続編が登場しました。
パガニーニの「24のカプリース」から、ベートーヴェンの「ピアノソナタ11番」まで、村上選手が秘蔵する懐かしのLPが陸続と登盤。1枚毎の思い出とともにその独断と音楽愛と「普遍的偏見」にみちみちた解説と解釈を、営々と綴っていきますが、不思議なことにその内容は、おらっちのそれとそれほど食い違ってはいないのが不思議です。
昼飯を抜きながら全世界のクラシックレコード屋のバーゲン箱を漁りつつコレクトした村上選手の守備範囲は驚くほど広く、たとえばクルト・ヴァイルの「三文オペラ(組曲&オペラ版)」の7枚や、ラヴェルの無伴奏の「3つのシャンソン」をロバート・ショウ合唱団の名演で聴いた感想などは、『レコード芸術』誌のエラソーなヒョーロンカなぞ、足元にも
及ばない深みにいつのまにか到達しているのではないでしょうか。
超有名プレーヤーだからといって無暗にもち上げず、若き日の邦人や無名に近い演奏家のレア盤などにも共感と拍手を惜しまない、いい意味でのアマチュア精神が自然に発揮されているのにも好感が持てます。
50年代のモノラルレコードも多いのですが、CDよりも豊富な情報で満ち満ちているレコードの愛好者が日を追って増加しているこんにち、本書の刊行はまことに時宜を得た好個のガイドブックと申せましょう。
1楽章終りて後にブラボーと叫ぶ勇気のない日本人 蝶人