アルベール・カミュ著・前山悠訳「転落」を読んで
照る日曇る日 第1880回
突如我々を襲った世界的パンデミックのお陰で、ほとんど文学史の視野から消え去ろうとしていたカミュ選手の「ペスト」にスポットライトが当たり、その余波で「異邦人」や本書にもその余沢が及んだのは、取り敢えず慶賀すべきことだったのかもしれない。
そんな椿事でもなければ、私がこの文庫本を手に取ることもなかったし、光文社古典新訳文庫から素晴らしいコンピレーションがぞ陸続と刊行されていることも、永久に知らなかった筈だから。
むかし角川文庫や新潮文庫で読み漁ったサンテックスやモーパッサンやコレットやラディゲやバルザックなどの珠玉の名作が、当代一流の若手の翻訳でこんなにどっちゃり読めるとは!
と感涙に咽びながら読んだ本作も、じつに奇妙奇天烈なカミュ選手の「ひとりがたり」で、これはもしかすると、カノ「ペスト」や「異邦人」を凌駕する最新の現代文学の傑作ではないかと、今は亡きサルトル選手と共に思ったりしましたね。
遠い日の記憶を頼りに考えるゲマインシャフトかゲゼルシャフトか 蝶人