照る日曇る日第1464回
佐佐木信綱、森鴎外、与謝野晶子、斎藤茂吉、北原白秋、宮柊二などによる日清、日露から太平洋戦争までの戦争歌のアンソロジーを編者の松村選手が1首1首丁寧に解説を加えていく好個の企画である。
にくにくしロシア夷を片なぎに薙ぎて尽さね斬りてつくさね 伊藤左千夫
石しろき中国戦歿将士の墳草には咲ける撫子の花 土屋文明
たたかひは上海に起り居たりかり鳳仙花紅く散りゐたりけり 斎藤茂吉
戦争のたのしみはわれの知らぬこと春のまひるを眠りつづける 前川佐美雄
泥濘に小休止すわが一隊すでに生きものの感じにあらず 宮柊二
照らされてB二十九は海にのがれ高きホームに省線を待つ 近藤芳美
大き骨は先生ならむそのそばに小さきあたまの骨あつまれり 正田篠枝
水のへに到り得し手をうち重ねいづれが先に死にし母と子 竹山広
これらの歌と戦争責任の問題は三密四密に隣り合っているが、歌の値打ちは人の責任とはおのずから別の領分に属すから、うんと離して論じなけれいばならないのだろう。
しかしこういう超人居士のはどう評せばよろしいのだろう。困ったもんじゃ。
よもの海みなはらからと思ふ世になど波風のたちさわぐらむ 明治天皇
よもの人みな体制に跪くなど波風に抗いさわぐや 蝶人