ハリーの「聴いて食べて呑んで」

日々増殖を続ける音源や、訪問した店、訪れた近代建築などの備忘録

長寿庵 @東京・銀座

2015年06月15日 | 東京都(老舗)

蕎麦屋の暖簾としては有名な「長寿庵」の屋号。その歴史についてはこちらに詳しく書かれている。300年もの歴史があり、現在でも関東を中心として300軒以上の店があるのだとか。その系列は大きく4つに分かれており、それぞれが歴史を引き継いでいる。何かと分かりにくくなることが多い老舗暖簾の系譜にあって、これだけ系統がはっきりしているのは珍しいことなんじゃないだろうか。今回伺ったのは創業が木挽町(現・銀座2丁目)で、昭和10年(1935)という「銀座 長寿庵」。銀座でも、東銀座の歌舞伎座の裏から、この店のある辺りまでは下町っぽい雰囲気があり、古い建築も所々に残っている。店はビルのテナントに入っており、間口はさほど広くない。昼前の時間だったが、店の中には何人も先客が。男性のひとり客が多かった。店内も気取りのない街場の蕎麦屋という感じ。テーブル席に腰を下ろし、品書きを眺める。とは言っても、こちらは「鴨せいろ」の元祖の店として知られていて、最初からそれを目当てにして来たのだった。給仕の男性に「元祖鴨せいろ」を注文。周りを見ても鴨せいろを頼んでいる人が多かった。

しばらくして盆にのった鴨せいろが登場。つけ汁はお椀の中に入っていて、鴨肉と葱が浮いている。もちろん温かい。HPによると、鴨せいろが誕生したのは昭和38年(1963)とのこと。ほう、意外と新しい。今でこそ「つけ麺」が大流行りなので、冷たい麺を温かいつけ汁に浸すことは珍しくもないが、当時はどうだったのかしらん。箸で蕎麦をつまむと、切りが普通より長め。つゆに漬けて啜ると、濃いめの鴨出汁の風味が蕎麦と共に口中を支配して、旨い。蕎麦自体もしっかりとした張りがあり、なかなかのもの。これだったら普通のせいろでも食べてみたいな。時々つゆだけ啜ったり、鴨肉を口に放り込んだりしながら楽しんだ。残ったつゆには蕎麦湯を足す。さらっとしたタイプの蕎麦湯で、濃いめのつゆがいい塩梅に。刻み葱も足して、全部飲み干した。(勘定は¥1,100)

 ↓ 近くで見つけた近代建築(詳細不明)。壁面の装飾など、古びてはいるがなかなかいい雰囲気。1階はシャッターが閉まっていたが、まだ使われているのかな?

 

銀座 長寿庵

東京都中央区銀座1-21-15

( 銀座 銀座長寿庵 ちょうじゅあん 元祖鴨せいろ 鴨せいろ 鴨せいろう 木挽町 こびきちょう )

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羽二重団子 @東京・日暮里

2015年06月09日 | 東京都(老舗)

日暮里駅の東、谷中墓地から跨線橋を跨ぎ、芋坂を下りたところにある、創業が文政2年(1819)という「羽二重団子」。夏目漱石をはじめとする文豪達の作品にもその名前が出てくる由緒ある店だ。駅から近い場所にも関わらず、周囲には寺もあるし、住宅が多いせいか、のんびりとした雰囲気の感じられるところ。建物の傍には史跡を示した立て札などがいくつも並んでいる。平日の午前とあって店の中もまだ静か。庭の見えるテーブル席に案内された。品書きから煎茶セットを注文。店内では課外授業だろうか、近くの中学生らしきグループが当主を囲んで店の取材中。色々な質問をしていたので、興味深く聞かせてもらった。おっとりとした感じの主人は、「大切にしている事は?」という問いに、「変えないこと」と答えていらっしゃったが、ただ変えないだけでは200年も店が続く訳はない。様々な努力あっての「変えない」なんだろう。

程なくしてお茶と団子が運ばれた。皿の上にのった2本の団子は、1本が醤油味で焼いたもの、もう1本が餡子で包んだもの。どちらも平べったい形をしており、串に4つづつ刺さっている。醤油の方は焼きたてという感じではなかったが、とても柔らかい口当たり。餡子の方は淡い色のこし餡で、甘さは控えめでとても柔らかい。さすが「羽二重」と名のつくだけはある。こりゃ、旨い。

店内には古くから使用された道具や帳簿類、歴史的な遺物などが飾られているスペースがある。上野戦争では敗走した彰義隊が店に侵入したそう。その際に置いて行った武器なども展示されている。すごい。そろそろ何組か客が入ってにぎやかになってきた。お勘定をしてもらっていると、主人から中学生諸君に団子が振舞われていた。今の中学生は団子好きかな。自分が中学生の頃っていうと…、全然好きじゃなかったなァ(笑)。(勘定は¥540)

羽二重団子

東京都荒川区東日暮里5-54-3

( 日暮里 東日暮里 根岸 根ぎし 羽二重團子 はぶたえだんご 戊辰戦争 ) 

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上野藪そば @東京・上野

2015年06月08日 | 東京都(老舗)

上野駅から南下すると観光客でいっぱいのアメ横商店街や、昼から酒呑みが集まるガード下の酒場など、人がごったがえしている。そんな雑踏のど真ん中にありながら、蕎麦好きが愛して止まない名店がここ「上野藪そば」。創業は明治25年(1892)というから、数ある藪蕎麦の屋号の中でも、最も早く本筋の「かんだやぶそば」から暖簾分けされた歴史ある店。建物はビルになっているので風情はないが、店先に掲げられた屋根付きの灯篭看板が渋い。伺った時間は午後遅い時間とあって、店内に客はまばら。しめしめ、この様子なら心置きなく蕎麦前が楽しめるというもの。カウンターに囲まれた麺打ち場を眺めることの出来るテーブル席に腰を下ろした。中は改装されたばかりのようで、特に老舗らしさはないのだが、妙に落ち着く雰囲気。力みが無く、自然体。観光客の多い上野だけに外国人客の姿も。給仕の女性は慣れたもので、ゆっくり丁寧に説明している。最近はみな箸使いも慣れたもので、なかなか上手に手繰っていた。啜らない(啜れない)ので旨そうには見えないが。

まずは菊正宗の「「みぞれ酒」を注文。文字通り凍らせたお酒で、陶器の片口に入れられ、塗りの升と一緒に運ばれた。蕎麦味噌の他に塩も付いてくるのがうれしい。汗ばむ陽気だったので、冷たいお酒としゃりしゃりした口当たりが堪らない。他にも頼んでおいた焼き海苔が登場。専用の蓋付き木箱(焙炉・ほいろ)に入れられた海苔の下には、しっかりと火の熾った炭片が入っている。これで海苔はパリパリの状態が保たれるという仕組み。一枚づつ海苔をつまみ、山葵をのせたり、醤油をつけたりして口の中に放り込む。そこへすかさず冷たいお酒をグイッと…。天国。麺打ちの作業を眺めつつ、ゆっくりと楽しんだ。もちろん呑んだあとは蕎麦を追加。こちらには酒呑みに嬉しい、量が少なめの「さくらせいろう」がある。蕎麦はしっかり締められ、喉越しもいい。つゆは藪らしい辛汁。キリッとしていて蕎麦が引き立つ。銅の色をした小さいやかんに入れられた蕎麦湯はサラッとしたタイプ。温かい蕎麦湯を辛汁に足していただくと冷えた胃の中が落ち着いてとてもいい按配。場所柄昼どきは混むんだろうけれど、外の喧騒から逃れて素晴しい時間を過ごすことが出来て、幸せ。(勘定は¥1,800程)

 ↓ 「上野駅」の駅舎は昭和7年(1932)に完成。約2年の工期には「上野戦争」の遺品が多く掘り出され、工事が始まると事故が相次ぎ、あわてて供養を行ったら事故が無くなったとか。

[

上野藪そば

東京都台東区上野6-9-16

 

( 上野 うえの 上野薮そば うえのやぶそば 上野藪蕎麦 上野薮蕎麦 かんだやぶそば 神田薮蕎麦 みぞれ酒 ほいろ 焙炉 海苔箱 )

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桃乳舎 @東京・日本橋 (※閉店)

2015年06月05日 | 東京都(老舗)

銀行や証券会社など金融関係の大きな建物が立ち並ぶ日本橋兜町界隈。そんな界隈にひっそりと佇む2階建の風格ある近代建築。しかもそこが創業明治22年(1889)の喫茶・軽食「桃乳舎」と知っては行かずにはいられない。路地を曲がってその建物が見えると、まるで時空を飛び越えた感じ。変わった店名からも分かる通り、牛乳販売→ミルクホール→洋食屋、という変遷があったのだとか。スクラッチタイル壁の小さいながらもどっしりとした建物の上部には桃の形をしたレリーフまで彫ってある。入口の左側には小さいながらもサンプルケースがあり、建物は昭和8年(1933)建造とのこと。いやぁ、素晴しい佇まい。着物と草履にハンチングを被った株屋の小僧でも出て来そうな雰囲気。

 ↓ 建物上部にある桃のレリーフ。ちゃんと最初から「桃乳舎」っていう名前だったんですね。

店の前には昼どきとあって数人の待ち客が居たが、すぐに店に入る事が出来た。もちろん相席。土間にテーブル席があるだけで、奥に厨房があり、コック帽を被って調理する人の姿が見える。店内は近所のサラリーマン、OL、年輩の方など様々。給仕を任されているのは女性で、満員の店内をテキパキと捌いている。日替わりのランチをはじめとして、ほとんどのメニューがワンコインという驚きの安さ。ちなみにこちらの最高額メニューがエビフライ(3本)ライスで700円(笑)。近辺に居たら全メニュー制覇は間違いのないところ。いろいろ迷ってハヤシライスをご飯少なめで注文した。カツハヤシにしても値段が100円も変わらないのですごく迷ったんだけど…。最近は古い建物でも中が綺麗にリノヴェーションされている事が多く、近代建築好きにとっては良し悪しなんだけれど、ここは中も往時を彷彿とさせる雰囲気。ワクワクして待つ。

程なくしてハヤシライスが登場。少なめで頼んでも盛りがいいのは老舗ではよくあること。福神漬が添えられているハヤシのドミグラス・ソースは見た目の色濃いもの。玉葱の甘味が充分に出ているが、甘ったるいだけでなく、しっかりと苦みとコクがある。いやァ、ウマイなー。あっという間に完食。カツのせてもよかったかな…。この味をワンコインでお釣りがくるってスゴイ。毎日通いたい。近くの方が羨ましいです。次は日替わりのランチか、ハンバーグか…。昔懐かしいクリームソーダも捨てがたい。(勘定は¥470)

 

 


 

  ↓ 近くには大正11年(1922)建造の「山二証券(旧・山二片岡商店」。壁に配された丸窓の周りにも凝った装飾がされていたりして素晴しい。威厳ある店舗入口(下右)。

 

 ↓ そのすぐ隣は「フィリップ証券(旧・成瀬証券)」(昭和10年・1935)。意匠は違うが、実は上の「山二証券」と設計者(西村好時)が同じだそう。

 


 

喫茶・軽食 桃乳舎

東京都中央区日本橋小網町13-13

※臨時休業されていましたが、令和5年2月を以って残念ながら閉店されました

 

( 日本橋 小網町 兜町 茅場町 とうにゅうしゃ 洋食 ミルクホール 西村好時 閉店 廃業 )

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共栄堂 @東京・神田神保町

2015年06月03日 | 東京都(老舗)

宿泊先の「學士会館」から歩いて神保町の交差点へ。横断歩道を渡ってすぐの「共栄堂」(創業大正13年・1924)へ。実は何度も来ている割には、カレーのメッカと言われる神保町でカレーを食べるのは初めて。実は前回上京した時も来たのだが、残念ながら「ご飯切れ」で、目前で断られてしまっていた。この日はまだ早い時間だったのでそんな事はないだろう。ビールの旨い老舗ビア・レストラン「ランチョン」の入っているビルの地下へ。階段を下りていくとすぐにガラス張りの店がある。夕食には早い中途半端な時間だったが、先客が何組か入っていた。さすが。店内は喫茶店のような雰囲気。店内には額に入った「純スマトラカレー」という古い書(絵?)が飾られている。席に座ってメニューの中から、先頭に書いてある「ポーク」を注文した。ここは盛りが多いと聞いていたので、ご飯は半分にしてもらう。

しばらくしてまず、カップに入ったポタージュ・スープが運ばれる。熱々のスープを口に運んでいると、平皿のライスと、銀色のグレイビーボートに入れられたカレーが運ばれた。付け合わせは別容器に入れられた福神漬けとらっきょう。カレーにはクリームが垂らしてあり、色はかなり黒っぽい。「スマトラカレー」というものに何の知識も持ち合わせていなかったので、まずルーだけスプーンで食べてみた。ひとくち口に入れても大した辛さではない。すぐにご飯の上にかけて食べてみる。カレーには苦みとも思える独特のコクがあり、辛さは随分後になってからやってきた。うん、旨い。クセになりそうな味。ご飯の量は半分とはいえ、普通に一人前くらいの量はある。やや硬めに炊いてあるので、カレーとの相性もとても良い。この手のカレーにしてはスパイス感もしっかりあり、濃厚だが、後味がすっきりしているので、あっという間に食べ終えた。このスマトラカレーにはチキンもビーフもエビもあるのだが、それぞれどんな風に風味が変わるのか試してみたいなァ。(勘定は¥950)

 ↓ 上京の際、常宿にしている「學士会館」(昭和3年・1928建造)と、向かいにある「共立講堂」(昭和13年・1938建造・昭和32年改修)。

 

 

スマトラカレー 共栄堂

東京都千代田区神田神保町1-6

( 神保町 神田 カレー スマトラカレー きょうえいどう 焼きりんご ランチョン )

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ボルドー @東京・銀座 (※閉店)

2015年05月31日 | 東京都(老舗)

今回の上京で、一番メインと言っても過言ではなかったのが、ここ銀座の老舗バー「ボルドー」への訪問だった。創業は昭和2年(1927)。各界の著名人はもちろん、連合艦隊の山本五十六司令長官など、歴史上の人物までが客であったという日本のバー史上最も重要な店のひとつ。以前は会員制で、華族や旧財閥の人の社交場だったそう。最近になってやっと誰でも入る事が出来るようになったという格式高い店だ。ただ、今でも女性だけでは入れないんじゃないかな。もちろん名前は以前から聞いた事があったし、戦災を免れた創業当時そのままの建物が残るという事で、近代建築の視点からも一度訪れてみたかった。銀座8丁目のビルの谷間に現れる蔦の絡まる2階建の洋館。当然、他とは全く異質な空間で、その前に立っただけで何だか緊張が走り、気後れする。壁にはただ「Bordeaux」とあるのみ。 

 ← 後日、日中に撮影した唯一の照明看板

何度も逡巡したが(笑)、思い切って重厚な木製扉の前に立って、ドアノブに触るものの…開かない(汗)。焦る…。するとガチャガチャと音がして、内側から扉が開けられた。薄暗い店の中に入ると正面にカウンターがあり、吹き抜けになっていて2階への階段がある。右側には立派な暖炉とテーブル、椅子がある。一軒家なので広い。全ての装飾品、調度品が歴史を感じさせる重厚な物で、静まり返っている。マダムとバーテンダーと給仕の女性の3人、それに先客が1人。ドアを開けてくれたのはメイド姿の給仕の女性で、カウンターに案内してもらった。

緊張したままマルガリータを注文。キョロキョロと店内を見回す自分は完全に「飲まれて」しまっていたが、それにしても店の佇まいが素晴しい。いわゆる保存された文化財とは違い、まるで空気まで戦前のものみたいな感じ。先客は常連の方で、楽しそうにマダムやバーテンダーとおしゃべりをしていて、明らかに「あがって」いる自分にも気さくに声を掛けて下さった。お陰で少し落ち着いた。BGMはなし。ただただ落ち着いた空気と喋り声があるのみ。たまたま「ジリリリッ…」と電話がかかってきたが、ダイヤル式の黒電話が現役。またここのマルガリータが旨い。こんな雰囲気の中で自分がお酒を呑んでいるのが信じられない。ご高齢のマダムも気さくに声を掛けて下さり、自分も正直に建物への興味と称賛を口にした。すると、常連の方がマダムに「上の階も案内してあげなよ」と言って下さり、マダムと2人で階段を登って2階へ。テーブル席が並んでいる2階の雰囲気もまた素晴しい。出るのは「へぇ―」っと間抜けな声とため息ばかり。マダムによると、宮大工が手掛けたという内装はほとんど当時そのままで、装飾品もその頃からあるものばかりとのこと。当時すでに骨董品だったものも多いので、歴史あるものだと何百年も前のものだそう。…すごい。

カウンターに戻り、ギムレットを追加した。完熟したライムを使っているとかで、これもまた旨い。バーテンダーも気さくな方だし、常連の方が軽口を叩いて場を和ませて下さるので、リラックス出来て有難い。ゆっくりとした楽しい時間を過ごした。世が世なら自分はこの店に足を踏み入れる事は出来なかったろうし、今でも相応ではないだろうが、こうしていい時間を過ごせた事に感謝、感激。果たして、こういう店が似合う人間になれるだろうか…(ムリムリ)。心の中で再訪を誓って店を出た(勘定は¥4,000程)

※再訪を誓っていたボルドーが2016年12月22日を以って閉店するとのこと…。残念。あの歴史的建物も取り壊しの危機に…。

 ↓ 写真に撮ると明るいが、実際はもっと暗い。これから夏にかけて蔦の葉が店を覆いつくすんだろう。下右は店のコースター。

 

ボルドー (Bordeaux)

東京都中央区銀座8-10-7

 

( 銀座 銀座ボルドー 銀座BORDEAUX 連合艦隊司令長官 山本五十六 白洲次郎 華族 老舗 バー 閉店 廃業 新沼良一 )

コメント (2)
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日本橋 お多幸本店 @東京・日本橋

2015年05月30日 | 東京都(老舗)

現在おでんは全国的に関西風の澄んだつゆのものが席巻している。大手コンビニがこぞって採用しているものも関西風。自分の地元である東海地方では他所と違う「味噌おでん」がまだ頑張っているが、あまり自宅では作ることがないし(自宅で作る場合はどちらかというと関西風)、古い呑み屋以外では見る事も少なくなってきてしまった。自分の子供達も、もう味噌おでんの味は知らないかもしれない。一方、東京のおでんは元々つゆは甘めで、醤油の色濃いもの。以前に東大前にある明治創業の「呑喜」へ伺った事があったが、都内をはじめ、いくつもある「お多幸(おたこう)」には初めて。

この「お多幸」の暖簾の歴史はいまひとつ分かりにくく、その本筋がどこになるのかは判然としない。「銀座八丁目店」(野田屋グループ)はHPで「大正12年(1923)に銀座に初めて暖簾をだして」と標榜しているが、今回訪問した「日本橋 お多幸本店」はぐるなびに、創業を大正13年(1924)とし、「昭和23年(1948)に銀座でスタート」との記述がある。役者の故・殿山泰司氏が自著三文役者あなあきい伝」などで、銀座の服部時計店(現・和光)の裏にあったという創業店の長男だったと記述しているし、なぎら健壱氏の「東京酒場漂流記」には銀座の古株の話として、3丁目にあった「お多幸」(閉店)が戦前からで、6丁目の「お多幸」(現・日本橋)が戦後からと書かれている。また、森まゆみ氏の「「懐かしの昭和」を食べ歩く」には、新橋お多幸の話として、創業店を4丁目(和光の裏)とし、5丁目(=6丁目?)が「第二お多幸」で日本橋に移転し、新橋お多幸は「第三お多幸」として出店との記述がある。「〇丁目」の記述が錯綜しているし、現在8丁目にある「お多幸」との間柄も不明。きっと創業店から暖簾分けしたそれぞれが、創業年は元の店のものを使っているのだろう(だが、なぜ1年違う?・笑)。新橋の「お多幸」(昭和7年創業)は創業店の暖簾分けで間違いなさそう。いつも記事に老舗の創業年を書き加えている自分が言うのもなんだが、「創業」とか「発祥」とか「元祖」とかの主張は、しっかりした記録が残っていない店も多いだろうし、暖簾分けでゴタゴタするのは世の常なので、それぞれの店の誇りとして捉えてあげるのが一番だろうと思う。どちらも「太田こう」という女性の名前をもじって付けられた店名だという事には異説はなさそう。ただし、この「オオタコウ」さんが殿山泰司氏の義母なのかどうかはよく分からなかった(そういう記述もあるにはあったが…)。

それはさておき、店に行くと満員の盛況で、並びも出来ている。並んでまで…とは思ったが、わりと早く並びが動いたので少し待ってみた。10分程経って呼ばれ、カウンターに腰を下ろす。カウンターの中には大きな鍋にたくさんのおでん種が浮かんでおり、職人が箸でひっくり返したり、つゆを注ぎ足したりとめんどうを見ている。日本酒(菊正宗)を頼み、大根とちくわぶをお願いした。寡黙な職人は注文の入ったタネを順に赤いプラスチックの平皿に載せていく。店の様子を眺めつつ、自分の分はまだかな?なんて思って待っていたが、自分が少し目を離した隙に、とっくに自分の前には皿が置かれていたのだった(寡黙過ぎるよ…)。皿に盛られた大根とちくわぶはしっかり濃い色に染まっていて、味も濃いめで、旨い。酒にも合うなァ。あっという間に平らげて、はんぺんとつみいれ(ママ)を追加。全てを平らげたあとに、こちらの名物でもある「とうめし」で締めた(ちなみに酒呑みにうれしい「小」もある)。今やこの店の代名詞ともなっているとうめしだが、意外にもその歴史は古くないそうだ。茶飯の上に豆腐が1丁、どんっとのっているだけ。豆腐は人形町の老舗「双葉」の特注だそうだが、つるっとして口当たり良く、甘辛いつゆがしっかり滲みていて文句なしに旨い。淡白で食べ飽きるんじゃないかと思っていたが、濃いつゆでちょうど塩梅が良く、あっという間に食べきってしまった。やっぱりいいね、東京おでん。(勘定は¥1,800程)

 ↓ お店のマッチの表・裏

 

  ↓ 昔、以前の建物が「建築探偵術入門」(文春ヴィジュアル文庫)という本の表紙にもなった「日比谷ダイビル(旧・大阪ビル東京分館一号館)」(鬼面、獣面のみ昭和2年・1927のもの)。

 

 ↓ こんな奇面が新しいビル壁面のあちらこちらに移植されている。テラコッタ製で、全部で125個もあったとか。なんという酔狂。前の建物を見てみたかったナ…。

 

 

日本橋 お多幸本店

東京都中央区日本橋2-2-3

( おたこう おたこうほんてん おでん 東京おでん 関東風おでん 銀座お多幸 元祖お多幸 日本橋お多幸 太田コウ 呑喜 のんき )

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徳太樓 @東京・浅草

2015年05月28日 | 東京都(老舗)

相変わらず浅草寺近辺は平日でも人が一杯。周囲から聞こえてくる言語はまるで日本ではないみたい。自転車も思うように操れず、ほうほうの体で北へ。あちらの喧騒とは違い、奥浅草は地元の人が歩いている程度で、嘘のように静かで落ち着いた雰囲気。家族らへの土産を買うためにに「徳太樓」(創業明治36年・1903)へ向かった。路地の角にある店はまだ新しそう。店に入るといろいろな和菓子が並んでいたが、目もくれず名物の「きんつば」を購入。こういうのはあまり大きい箱ではないほうが(持ち運ぶのも、渡すのも、食べるのも)都合がいいので、6個入りの箱をいくつか購入した。写真を撮り忘れたが、とても上品で粋な包みで包んでもらえるので、渡すのも待ち遠しい。

もちろん自分もいただいた。きんつばは本来字の如く、刀の鍔の形をした菓子だが、今では四角のほうが多いのかな。こちらのきんつばは四角。このように四角にしたのは関西が初めてだと聞いた事があるがどうなのだろう。存在感のある正四角形のきんつばは、綺麗な白い薄皮に包まれていて、涼しげで上品な見た目。中の餡は甘さ控えめ。これで甘さが強いと持て余しそうだが、ちょうどいい甘さと大きさ。充分に小豆の風味が感じられて、とても美味しくいただいた。濃いめの熱いお茶が旨い。家族らも(和菓子に見向きもしない息子以外は)喜んでくれてヨカッタ、ヨカッタ。(勘定は¥920/6個入)

  

 ↓ 近くの「曙湯」(創業昭和24年・1949)では名物の藤の花が盛り。残念ながら営業開始まで時間があり、入浴は断念。

 

徳太樓 (とくたろう)

東京都台東区浅草3‐36‐2

( 浅草 徳太楼 とくたろう きんつば 金鍔 あけぼの湯 )

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銀座 維新號 本店 @東京・銀座

2015年05月25日 | 東京都(老舗)

  

銀座で呑んだあとに、ついつい寄ってしまった8丁目にある「銀座 維新號(いしんごう)本店」。創業は神田で明治32年(1899)と古く、銀座に移ってきたのが昭和23年(1948)とか。こちらは「肉まん(猪肉包)」で有名なのだが、自分が前から気になっていたメニューは「セロリつゆそば(芹菜湯麺)」。セロリが大好きなので食べてみたいなと思っていたところ、たまたま店の前を通り、酔っている事もあって「締め」なんていう危険な言葉が頭に浮かんでしまっていた(笑)。階段を下りて店舗のある地下へ。遅い時間だったが何組も先客があった。テーブル席が並んでいて厨房は見えない。銀座にあっても店内の雰囲気はざっくばらんな感じ。中国女性の給仕の方に、すぐにセロリつゆそばを注文して待つ。

注文してからメニューを見返す癖がある。あれもいいなァ、これでもよかったなァ、なんて本当に食い意地が張っていて恥ずかしい。しばらくメニューを見ているとセロリつゆそばが運ばれた。たっぷりの清湯スープは鶏がベースで、淡い味付け。自分で丸鶏からスープをとった事がある人なら分かるあの味に、ちょっと塩した程度であっさりしている。さすがにセロリはたっぷり入っていて、他の具材は、椎茸、玉葱、筍など。麺は細縮れ麺で、何の変哲もないものだが、このスープには合っていると思う。シャキシャキとした歯触りのセロリをたっぷり堪能した。小皿に入ったデザートのライチをいただいて勘定。次はランチでお饅頭セットをいただこう。(勘定は¥1,000)

 ↓ ほど近い霞が関の「法務省旧本館」(下左・明治28年・1895・建造※重要文化財)と、「法曹会館」(下右・昭和11年・1936・建造)。あとから気付いたのだが、旧本館は見学も出来たようだ。残念。

 

 

銀座 維新號 本店

東京都中央区銀座8-7-22

( いしんごう 維新號 維新號銀座本店 銀座維新號 セロリそば 肉まん 中華まんじゅう 肉饅頭 おまんじゅう )

 

 

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木挽町よしや @東京・東銀座

2015年05月24日 | 東京都(老舗)

日比谷公園を散策した後、銀座・木挽町へ。以前、歌舞伎座での観劇のあとに寄ったが、すでに売り切れで買う事が出来なかったどら焼きを求めて「木挽町よしや」(創業・大正11年・1922)へ。細い道をもう一本狭い路地に入ったところに店がある。店の中では何人もの女性が折詰め(?)の最中だった。人気のどら焼きは午前中で売り切れてしまうことも多いそうだ。こちらは、どら焼き用にオリジナルの焼き印を作ってくれるサービスもある(もちろん有料だが)。店の壁にもたくさんの焼きゴテがぶら下がっていた。自分だけのどら焼きなんて、なんだか羨ましいなァ。自分でも焼き印を押してみたいし、それをいろんな人に配ってみたい(笑)。

カウンターの上に並べられていたどら焼きを無事購入。こちらのどら焼きは2枚の皮で挟んであるのではなく、1枚の皮を折って、餡が挟んである。その為にサイズは小さめ。ふわっとした皮にあっさりとしたこし餡が入っている。普通のどら焼きと比べると餡の量も少ないので、ひと口でいけてしまうくらいの大きさ。滑らかな皮と餡とで、とても上品な味だ。でも軽くて、次々と手が出てしまいそう。(勘定は¥130/個)

 ↓ 日比谷公園内にある「旧・日比谷公園事務所」(明治43年・1910建造)。今は結婚式場として使われているようだ。下右は「日比谷公会堂」(昭和4年・1929建造)。

 

↓ 「日比谷公会堂」と一体の建物「市政会館」。関東大震災復興のシンボルで、遠くから眺めるとこの建物の異質さが際立つ。

 

 ↓ 大正12年(1923)に開設された「日比谷屋外音楽堂」。何度も改修を重ねて現在は3代目だとか。左は入場ゲート。

 

木挽町よしや

東京都中央区銀座3-12-9

( 東銀座 木挽町 こびきちょう どら焼き どらやき ドラ焼き よしや 日比谷公園 日比谷野音 野音 ) 

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