ハリーの「聴いて食べて呑んで」

日々増殖を続ける音源や、訪問した店、訪れた近代建築などの備忘録

松竹大歌舞伎「ご挨拶」「双蝶々曲輪日記・引窓」「身替座禅」@岐阜市・岐阜市民会館

2024年11月18日 | 歌舞伎・文楽

松竹大歌舞伎「ご挨拶」「双蝶々曲輪日記・引窓」「身替座禅」(11月15日・岐阜市民会館大ホール)

 

秋の巡業公演、岐阜市で開催された松竹大歌舞伎へ。今回は若い中村隼人が全ての幕に登場するという。テレビドラマやバラエティにも出演する若手の人気者。自分は1度観たことがあるだけかな。にもかかわらず会場は開演時に1階席がやっと半分くらい埋まる程度の相変わらずの客入り。岐阜っていつもこうなんだけれど、宣伝が行き届かないのか、そもそも岐阜の歌舞伎人気が低いのか。妻はドラマの方で知っているらしく「あんなに人気なのに…。」と呆れていた。

一幕目は中村隼人による「ご挨拶」。客席後方から登場した化粧前の隼人だが、シュッとしてもうかっこいい(笑)。客をくすぐりながら次の幕の話の筋を分かりやすく解説したり、スマホの電源を切るきっかけを作るためか撮影タイム(写真下)を設けたりする趣向も。話上手だし、愛想もいいし、イケメンだし。そりゃ女性ファンが放っておかないわな。

「双蝶々曲輪日記」の引窓は人を殺めた相撲取りが実家の実母を訪ねる場面。実子よりも養子として迎え入れた者を大事にするという当時の人間関係を絡めながら物語が進んでいく。この辺りの事情を予習していかないとこの物語の人間模様はしっかり捉えられないので歌舞伎の観劇には予習が大事。当時は許されなかったろう罪人を逃がすやり取りは、そういう時代だったはずだけに余計にジンとくる。地元岐阜県の中津川出身の笑太郎が嫁役で好演。

歌舞伎で人気の演目と言えば狂言の「花子」を題材とした「身替座禅」。何度も観ているが理屈抜きで楽しめるし、役に就く役者の個性で雰囲気が変わるので楽しい。今回は、中村隼人が浮気者の山蔭右京。イケメンだけに”優男(やさおとこ)”っぷりがぴったりで、台詞の度に客席から笑い声が上がる。奥方”山の神”を演じるのは錦之助。わざと中途半端にした化粧が醜女を強調していていい感じ(笑)。楽しい幕で終了。中村隼人が大活躍の公演だった。

 


一、ご挨拶(ごあいさつ)

中村 隼人

二、双蝶々曲輪日記(ふたつちょうちょうくるわにっき)引窓

南与兵衛後に南方十次兵衛 中村 隼人
女房お早         市川 笑三郎
平岡丹平         中村 蝶一郎
三原伝造         上村 吉太朗
母お幸          上村 吉弥
濡髪長五郎        中村 錦之助

岡村柿紅 作
三、新古演劇十種の内 身替座禅(みがわりざぜん)

山蔭右京   中村 隼人
太郎冠者   市川 青虎
侍女千枝   上村 吉太朗
同 小枝   上村 折乃助
奥方玉の井  中村 錦之助

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御園座錦秋花形歌舞伎「歌舞伎のみかた」「正札附根元草摺」「太刀盗人」@名古屋市・御園座

2024年10月21日 | 歌舞伎・文楽

御園座錦秋花形歌舞伎「歌舞伎のみかた」「正札附根元草摺」「太刀盗人」(10月17日・御園座)

秋の歌舞伎を観に御園座へ。暑かった夏も10月に入ってようやく秋らしくなんて思っていたのに、この日は30℃に達する真夏日。汗をかきつつ会場に入った。平日の遅い公演だったが客入りはまあまあといったところ。

まず一幕目は「歌舞伎のみかた」。歌舞伎の色々を初心者向けに説明するコーナー。今回は種之助が舞台番役で出て、案内役は彦三郎。こうして役の無い彦三郎の声を聞く機会は多くないが、彼の声は落ち着いていて聴き易く、艶もあって最高にいい。やっているかどうかは知らないが、テレビ番組のナレーターとかにぴったりじゃないかな。今回は御園座のバックヤードをカメラで映した映像(録画だろう)を駆使して舞台装置や、新悟の化粧風景を見せたりとなかなか面白い。最後は客を実際に舞台に上げて見得をしたり、大向うのように掛け声をかける練習も。自分の近くにトンチンカンなオヤジ(独り言を普通の声で外に出す厄介な人)が居て、何度も何度も間違ったタイミングで大きな声で掛け声をしたりしてどうなることかとヒヤヒヤ(共感性羞恥なもので・苦笑)。

次は舞踊の「正札附根元草摺」。台座の上で決めのポーズをしたまま歌昇と新悟が出てくるとまるで人形のよう。立役の歌昇は新悟の踊っている間中、足の親指がピーンと上がったままだったが、あれもちゃんと型があるのかな。自分だったらすぐに足が攣ってしまいそう(笑)。

最後は彦三郎と種之助、蝶十郎による「太刀盗人」。松羽目物(能舞台のように大きな松が描かれた背景で演じられる舞踊劇)で、都会に出てきた田舎者がスリに遭い、それを目代(代官)が裁くという分かりやすい設定。なので面白可笑しい所作や台詞をただ楽しむのみ。スリの彦三郎が種之助の踊りや台詞を真似るのだが、ワンテンポ遅れる振り真似がちゃんとリズムになっているのに感心。わざと下手に踊るっていうのも難しそうだ(笑)。ちょっと筋が単純過ぎるのと舞台装置もシンプルなので歌舞伎を観たーっていう充足感は低かったが楽しめた。

 


 

一、解説 歌舞伎のみかた

案内役   坂東 彦三郎
舞台番種吉 中村 種之助

二、正札附根元草摺(しょうふだつきこんげんくさずり)

曽我五郎時致 中村 歌昇
小林妹舞鶴  坂東 新悟

三、太刀盗人(たちぬすびと)

すっぱの九郎兵衛  坂東 彦三郎
目代丁字左衛門   中村 蝶十郎
田舎者万兵衛    中村 種之助

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十三代目 市川團十郎白猿襲名披露巡業「祝成田櫓賑」「口上」「河内山」@名古屋市・愛知県芸術劇場大ホール

2024年09月27日 | 歌舞伎・文楽

十三代目 市川團十郎白猿襲名披露巡業「祝成田櫓賑」「口上」「河内山」(9月20日・愛知県芸術劇場大ホール)

十三代目市川團十郎の襲名披露巡業公演で愛知県芸術劇場へ。歌舞伎の大名跡ということもあって令和4年から続いている襲名披露興行。全国を廻るのはこれで3回目だそう。以前は2月の御園座での公演に参加した。口上も入るので2月と比べて演目としてはちょっと寂しい気もするが、今回の演目「河内山」は團十郎家の歌舞伎十八番や新歌舞伎十八番ではない演目というのが興味深い。今回は新之助の出演は無し。チケットは随分前に入手していたので忘れていたが、2列目・花道七三(見得をする場所)の真横というなかなかの席。

入場すると、どーんと三枡(團十郎の紋所)の入った幕が下がっている。この会場は4階席まであるのだが、さすがに名古屋2回目の襲名披露公演とあってかあまり客入りは良くなく、2階席もまばらでちょっと寂しい感じ。

まずは右團次と九團次が鳶頭を、廣松が芸者を演じる「祝成田櫓賑」。題名の通り襲名を祝う内容で、人気役者の團十郎を観に行く途中で茶屋で留められる情景を芝居にしているので、もちろん團十郎を贔屓にする台詞や祝言が出てくる。右團次の独特の口跡に拍車がかかっている気もするが、やっぱりこういういなせな役柄がよく似合っていてかっこいい。自分の席が花道の七三の真横なので九團次が振り回す棒が当たるかと思って避けてしまった(笑)。

引き続きご当人、十三代目市川團十郎白猿と梅玉による口上。梅玉は團十郎の襲名披露公演に全部同行出演しているのだとか。梅玉がしゃべっている間、顔を伏せている團十郎は含み笑い。もう何度も何度も繰り返した口上だけに詰まったりすると笑っちゃうんだろう。團十郎は名古屋の思い出として父(十二代目)と通った御園座近くの「香蘭園」の餃子の話を(笑)。役が人を成長させるのだろうが、貫禄が増し体躯から滲み出す圧が強い。

幕間を挟んで「天衣紛上野初花・河内山」。團十郎が河内山宗俊を演じる。自分は橋之助(現・芝翫)で見たことがある演目。この形での初演は明治14年(1881年)だそう。自分の先祖が150年前に何をやったかが全部分かっているという家系に生まれるってどんな気分なんだろう。演目には”質屋”とか”茶坊主”という言葉が出てくるが、現代のそれと意味合いが違うので、この辺りを混同してしまうと話の背景が分かり辛くなる。イヤホンガイドではもちろん説明があるだろうが、歌舞伎は事前にちゃんと話の筋を予習していくことが必要(→舞台では九團次が現代語で説明していた)。この河内山という役も、茶坊主と言いながら将軍に面を通すことも出来る、言わばフィクサー。善悪併せ持つクセのある人物だ。これがどうして歌舞伎の演目として人気が出たのか分からないが興味深い。團十郎が花道に来ると目の前で見上げる形になる。台詞の前の小さな咳払いや額の汗、息遣いも分かって迫力が違う。狙って取った訳ではないが、やんごとなき人達はいつもこんな席で観ているのかァ(笑)。

 


 

一、祝成田櫓賑(いわうなりたしばいのにぎわい)

鳶頭     右團次
鳶頭     九團次
芸者     廣松
芝居茶屋亭主 市蔵
     
二、十三代目市川團十郎白猿襲名披露 口上(こうじょう)

海老蔵改め團十郎
     幹部俳優出演

河竹黙阿弥 作
天衣紛上野初花

三、河内山(こうちやま)

河内山宗俊  海老蔵改め團十郎
高木小左衛門 右團次
宮崎数馬   廣松
腰元浪路   莟玉
桜井新之丞  九團次
北村大膳   市蔵
松江出雲守  梅玉

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松竹特別歌舞伎「中村獅童のHOW TO かぶき」「鞘當」「供奴」「橋弁慶」 @愛知県丹羽郡扶桑町・扶桑文化会館

2024年07月15日 | 歌舞伎・文楽

松竹特別歌舞伎「中村獅童のHOW TO かぶき」「鞘當」「供奴」「橋弁慶」 (7月11日・扶桑文化会館)

 

久しぶりに妻と一緒に歌舞伎観劇。今回の巡業公演は愛知県扶桑町の「扶桑文化会館」。こちらは元々こうした古典芸能に力を入れている会館だし、客席が舞台に近く臨場感があるので楽しみ。しかも最近花道が常設になったという珍しい会場で完売御礼だったそう。故あって妻はこの会場の楽屋から何から隅々まで知っているが、客席に座ってみるのは久しぶりだとのこと。

まずは獅童による「HOW TO かぶき」。以前にも同様の企画を観たことがあるが、やはり地方を回る時にはこういう裾野を拡げる企画が継続的に必要なんだろう。この会館は初めてという獅童も常設の花道に感心している様子。今回は付け打ちの披露の際に特別に次男の夏幹(3歳)が登場して可愛らしい見得を披露した。獅童は歳をとってからの子供にメロメロという感じ。次の幕の「鞘當」に登場する3人の化粧から、衣装を着てカツラを被って整うまでを舞台上のカメラで寄ってモニターに映しながらの説明。気さくに客席からの質問も受け、和気あいあいと進んでいく。司会者無しでもこなす獅童はこういうのが上手いなァ。

「鞘當(さやあて)」はタイプの違う2人の立役が吉原で喧嘩を始め、それを女形が止めるというだけの場面ではあるが、交互に台詞を言い合う「渡り台詞」が特徴。歌舞伎でお馴染みの吉原の場面は桜が満開で店(たな)が並び、ぱっと華やかで一番アガる舞台かも。本来は主役級の役者が演じる顔見世的な演目らしいが、立役の國矢、獅一、女形の蝶紫の3人とも堂々とした口跡でかっこよかった。

幕間の後、同じ舞台を使った「供奴(ともやっこ)」は種之助による1人舞踊。ユーモラスな風体と踊りだが、体幹が強くなければとても務まらないだろうハードな振付。それを長唄とシンクロしながら飄々とした表情で踊り切るので感心してしまう。あれヘトヘトになるだろうなァ。妻もこの舞踊にとても感心して気に入った様子だった。

「橋弁慶」は五条橋での弁慶と牛若丸の出会いの有名な場面。でも歌舞伎では牛若の方が人切りで巷で悪い評判が立っているという設定。花道をひょこひょこと歩いてくるのは長男の陽喜(6歳)。孫やひ孫を見るような年齢の観客から歓声が上がる。もう顔が父親そっくり(笑)。花道の揚幕はもうちょっとしっかりチャリーンと音をさせた方がいいような気がする。後から入って来た獅童の弁慶はさすがの迫力。体躯の差が大きな2人の絡みがある舞踊は幼過ぎる牛若丸の刀が小刀に見えてちょっとユーモラスではあるが、振付は堂々としたもの。弁慶が上手く体を入れ替えつつ2人で見栄を切る。こうして小さい頃から役を付けて舞台に立たせる歌舞伎界ならではの特殊な境遇を受け入れて役者として育っていくんだなァと思うとしみじみと感慨深い。最後は歌舞伎公演には珍しく、親子揃ってのカーテンコールもあって楽しめた。

 


 

一、中村獅童のHOW TO かぶき

二、其俤対編笠 「鞘當(さやあて)」

 名古屋山三   澤村國矢
 不破伴左衛門  中村獅一
 茶屋女房お蝶  中村蝶紫


三、供奴(ともやっこ)

 奴又平  中村種之助

四、橋弁慶(はしべんけい)

 武蔵坊弁慶  中村獅童
 牛若丸    中村陽喜

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坂東玉三郎特別公演「怪談 牡丹燈籠」 @名古屋市・御園座

2024年06月12日 | 歌舞伎・文楽

坂東玉三郎特別公演「怪談 牡丹燈籠」「吉野山」(6月8日・御園座)

御園座で開催された坂東玉三郎の特別公演「怪談 牡丹燈籠」へ。一時はなかなか名古屋にお目見えしていなかった玉三郎だが、ここ3年で3度目の御園座(ただし今回は1週間のみ)。ただ玉三郎は大劇場公演からの引退を示唆しているので今のうちに観ておかないと。共演は愛之助。前回の御園座公演は同時代の盟友ともいえる仁左衛門だった(偶然どちらも怪談だ)。その息子の孝太郎は女形なので、愛之助が松嶋屋の立ち役の継承者ということになるのかな。

土曜日とあってなかなかの客入り。今回は所用で来られない可能性もあったので一番安い2階最後尾の席を取った。自分はこの演目は初めてなので軽く話の筋を予習したけれど、登場人物は多くないのになぜかなかなか頭に入ってこない。なので後は実際の舞台に任せることにした(※歌舞伎は話の筋をちゃんと頭に入れて臨む方が楽しめます)。ただ舞台はほぼ現代語に近い台詞のみで進行していくので案ずることはなかった。観客もすっと話に入っていけるので、ほとんどコメディーのように進んでいく玉三郎と愛之助の夫婦の丁々発止に何度も笑いがおこる。今でこそ世俗的な背景が全く違うので”時代劇”として観られるが、この話が発表された江戸末期はまだリアル・タイムと言っていいような時代。人魂(ひとだま)ひとつ取っても怖さは今とは比べ物にならないだろうし、ロウソクしか明かりが無い時代なので幽霊というものにもっとリアリティーがあっただろう。

皆のイメージする玉三郎の高貴な雰囲気と違って今回は市井の女将さんの役。台詞はアドリブでやっているように思えるような(そんな訳はないだろうが)間があったり、かと思えば物凄い早口でまくし立てたりと何だかとぼけていて可愛らしい。夫の不義理をなじりつつも添い遂げたいという優しさが垣間見える。愛之助は口跡もはっきりと力強く活きがいい。演じる浮気者の役もぴったりだ。それであの顔立ちだもの、女性から見たら堪らないかっこよさなんだろうなァ(男性も?)。幕間は1回のみで正味2時間程度の演目だったが楽しめた。

 


三遊亭円朝 原作
大西信行 脚本
坂東玉三郎 演出
今井豊茂 演出・補綴

怪談 牡丹燈籠(かいだん ぼたんどうろう)

伴蔵女房お峰 坂東 玉三郎
伴蔵     片岡 愛之助
萩原新三郎  中村 吉之丞
お六     中村 歌女之丞
乳母お米   上村 吉弥

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スーパー歌舞伎「ヤマトタケル」@名古屋市・御園座

2024年05月18日 | 歌舞伎・文楽

スーパー歌舞伎「ヤマトタケル」(5月16日・御園座)

 

御園座で行われたスーパー歌舞伎「ヤマトタケル」を観劇。トラブルや訃報が続いた澤瀉屋は4代目猿之助不在の中で、昨年亡くなった2代目市川猿翁が興した”スーパー歌舞伎”を、その孫である5代目市川團子を中心にして引き継いでいくことを決めたのだろう。2月の新橋演舞場では中村隼人とのダブル・キャストだったが、今回は単独。その重責を父親である中車(香川照之)を始め、澤瀉屋他の役者がサポートする形での開催。「ヤマトタケル」の初演は昭和61年(1986)。自分は3代目猿之助(故・猿翁)の演じる映像をテレビで観たことがあるが、ド派手な演出には目がいったものの、90年代頃の映像だったからか恰幅のいい猿之助と役柄の小碓命(おうすのみこと)の(自分の中での)ギャップが大きく、正直ピンと来なかった。こうして歌舞伎の古典を観る機会が増えた上でのスーパー歌舞伎はどう映るだろう。

弁当他を買い込んで御園座へ。自分は実際にスーパー歌舞伎を観るのは初めて。今回は2階席。ここは2階でも視界良く、席も広いので安心。下の方の席は分からないが客入りは順調。神話を元にした物語は哲学者の梅原猛の作。プロローグからすでに通常の歌舞伎と違い、音響、照明、大小のセリや廻り舞台などの舞台装置をフルに活用して物語が進んでいく。台詞も基本的に現代語なので新鮮。演出は過去にやった舞台とほとんど変わらないようだ。

今回大役を演ずるのは若干20歳の團子。自分は彼が小さかった頃に国立劇場で観たきりのはず。姫役の壱太郎と共に役を兼ねているので初っ端から2人の早変わりで会場を沸かせる。台詞の間とかは日によって違ったりするのかもしれないが、スリムで顔立ちもしゅっとしているし自分のイメージとよく合っていい感じ(古いファンの中にはこの線の細さに違和感があるとの意見も)。にしても口跡が祖父とよく似ているのにはびっくり。出ずっぱりで汗だくの熱演。台詞は多いし戦いの場面も多い。早変わりやらせり上がり、挙句の果てには宙づりまで。2回の幕間を挟んで約4時間。この長丁場を1日2回やる日もあるから大変だ。演じ終わったらげっそり痩せるんじゃないか。

桧の床板が無く通常の演劇のような素の舞台のままだし、音楽は長唄や義太夫等の生演奏が無く、台詞も現代語。見栄など歌舞伎ならではの表現ももちろん沢山あるのだが、舞台も奥行までフルに使ってスケールが大きい。今でこそスーパー歌舞伎はよく開催されるし、題材がアニメだったりと荒唐無稽なのは織り込み済みだが、初演当時はいろいろ言われただろうなァ。これをやり遂げて家の芸にした猿翁は凄い。確かに歌舞伎が昔からのやり方をずっと続けなければいけない理由は1つも無いもの。やはり舞台はテレビ画面で観ているのとは違う。話の筋や設定についていけるかと心配したがすっかり楽しんだ。最後には通常の歌舞伎には無いカーテンコール。出演者の数は総勢80人以上居るだろうか(壱太郎はここでも早変わり!)。これって閉幕まで化粧や衣装を維持して待つのも大変だろうと要らぬ心配(笑)。

 


 

梅原 猛 作
石川耕士 監修
二世市川猿翁 脚本・演出

スーパー歌舞伎 三代猿之助四十八撰の内

ヤマトタケル

小碓命後にヤマトタケル/大碓命   市川團子
兄橘姫/弟橘姫 中村壱太郎
帝 市川中車
タケヒコ 中村福之助
熊襲弟タケル/ヘタルベ   中村歌之助
犬神の使者/琉球の踊り子/新朝臣 嘉島典俊
ヤイラム/帝の使者  市川青虎
尾張の国造   嵐橘三郎
老大臣 市川寿猿
倭姫  市川笑三郎
国造の妻 市川笑也
熊襲兄タケル/山神 市川猿弥
皇后/姥神  市川門之助
みやず姫  市川笑野(交互出演)
     市川三四助(交互出演)

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十八世中村勘三郎十三回忌追善・春暁歌舞伎特別公演2024「若鶴彩競廓景色」「舞鶴五條橋」@岐阜県中津川市・かしも明治座

2024年04月16日 | 歌舞伎・文楽

十八世中村勘三郎十三回忌追善・春暁歌舞伎特別公演2024「若鶴彩競廓景色」「舞鶴五條橋」(4月14日・かしも明治座)

久しぶりに妻と一緒に歌舞伎観劇。今回は中村屋独自の巡業公演「春暁歌舞伎特別公演2024」。楽しみだったのは岐阜県内の地歌舞伎で使われている芝居小屋を廻ること。全15公演のうち、芝居小屋で行われるのは熊本県の「八千代座」を始めとする7公演。そのうち4つが岐阜県東濃地方の小屋(※過去記事「五毛座」「東座」「かしも明治座」「相生座」)というのだから、この地方の地歌舞伎の伝統がよく分かる。見学に訪れたことがあるが、どこも本当に山の中にある素朴な小屋だ。何とか休日に合わせて「かしも明治座」(旧・加子母村)のチケットを取ることが出来たので妻と出掛けた。当地では幟が立ち、村の方たち総出で案内をしてくれている。

 

 

離れた臨時駐車場に車を停めて会場まで、春のうららかな山間の長閑な景色を眺めながら田んぼ道を歩く。まだ桜が少し残っていた。会場の「かしも明治座」は明治27年(1894)の建造。大工仕事も含めて全て村の人々の手造りだったそう。会場には出店で弁当や饅頭、五平餅や団子が売られていて賑やか。自分達は2階の席だったので、急な階段を昇ってゴザの敷いてある席に腰を下ろした。「娘引き幕」(※建造時に村の娘達が寄贈した屋号と名前の入った引き幕・写真下左)や、「本花道」「仮花道」(写真下右)がある狭い舞台は雰囲気抜群だ。会場内はもちろん地元の方が多いので、みんな知り合いみたいな和やかな雰囲気。

 

季節なのか場内にカメムシがブンブン飛び回っているが(笑)、定刻より遅れて最初のトークコーナーが始まった。出てきたのはスーツ姿の七之助と鶴松。「ん?」。そう、実は大トラブル発生。勘九郎が急な体調不良により舞台に立てないというのだ。なのでトークコーナーは鶴松が代役。もちろん「舞鶴五條橋」の五條橋の場面は上演出来ないとのこと。ここまで来てそりゃないよ…(涙)。急遽プログラムが変更され「舞鶴五條橋」は常陸御膳(七之助)と牛若丸(鶴松)の場面だけ演ることになった。いつも天然な鶴松をイジりつつトークコーナーは終了。

次は紀伊国屋の國久と中村屋一門が踊る「若鶴彩競廓景色」。歌舞伎お得意の吉原を題材にした芸者と鳶頭の粋な踊り。芸者を演じる國久は年配だが、こうして踊るとその所作の美しさがあるので年齢のことなんかすぐ頭から消えてしまう。こういうのが歌舞伎の舞台の不思議なところ。華やかでかっこいい舞踊だった。

次は本来「舞鶴五條橋」の場面転換で演じられるはずだったという山左衛門といてう(いちょう)の面白可笑しい踊りの一幕。長唄囃子連中をバックに酔払いと臆病者の掛け合いで笑わせる。いてうはご当地東濃地方(恵那)の出身。父母も地歌舞伎に関わっていた方だったそうだ。こうしてこの地方の芝居小屋を中村屋の一員として廻れるのは感慨深いだろうなァ。

そして「舞鶴五條橋」の母子の場面。ポスターの写真が髪を結った御前の姿だったので年増の設定かと思っていたら、髪を下ろした姿で艶やかな赤い着物。毎度のことだが、まあ美しいこと。妻は七之助を生で観るのは初めてだったらしいが、化粧をしたその顔立ちの美しさと体躯のバランス、そして口跡を含む存在感に圧倒されたそう。しかも小屋だけあって近い。舞台が終わっても兄の代わりに何度も「申し訳ない」と頭を下げる七之助(この小屋の名誉館長でもある)。さすがにこの日は突然で無理だったが、この後の公演は七之助が常陸御膳と弁慶の二役をやることになったそう。うわァ、女形と立役の両方を演じる七之助、それは見てみたいっ…。しかし公演はもう明日だが、ぶっつけ本番でよく出来るものだ。

 

以前に「かしも明治座」を訪問見学した時の記事はこちら

※この「かしも明治座」公演については休演の事前告知が無かった為、払い戻しが実施されるようです

 


春暁歌舞伎特別公演2024

一、トークコーナー

中村 勘九郎
中村 七之助
中村 鶴松
吉崎典子アナウンサー

二、若鶴彩競廓景色(わかづるいろどりきそうさとげしき)

長唄囃子連中

鳶頭   中村 仲助
鳶頭   中村 仲侍
芸者   中村 仲之助
芸者   澤村 國久

三、舞鶴五條橋(ぶかくごじょうばし)

長唄囃子連中
藤間  勘祖  振付
十四世  杵屋六左衛門  作曲

武蔵坊弁慶   中村 勘九郎(休演)
牛若丸          中村 鶴松
室町次郎      中村 いてう
堀川太郎      中村 山左衛門
常盤御前      中村 七之助

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十八世中村勘三郎十三回忌追善・名古屋平成中村座・同朋高校公園「義経千本桜・川連法眼館」「二人藤娘」@名古屋市・同朋高校

2024年03月17日 | 歌舞伎・文楽

十八世中村勘三郎十三回忌追善・名古屋平成中村座・同朋高校公園「義経千本桜・川連法眼館」「二人藤娘」(3月14日・同朋高校)

初代中村勘三郎は現在の名古屋市中村区出身。豊國神社のある中村公園内に銅像も建っている。そんな結び付きのある土地でありながら、現在の中村屋は名古屋で公演が多いとは言えない(本人達もインタビューでそう言っていた)。今回の「平成中村座」はその中村区にある私立同朋高校の体育館での興行。実は十八世中村勘三郎存命の平成18年(2006)にもこの高校で開催されている。そんな場所での開催ということで行く前からワクワク。まずは中村公園に行ってその銅像を確かめてきた。

↓ 平成29年(2017)に建立されたという初代中村勘三郎の銅像(写真下右)。

 

会場まではバスで移動したが、ターミナル駅にも法被を着た高校生のボランティアが案内をしてくれている。学園の周囲には幟も立ち、校舎には「おかえりなさい!名古屋平成中村座」の文字も(写真下3枚目)。体育館前は恒例の長屋が出てお祭りの雰囲気。やっぱりハレの日はこうでなくちゃ。普段の歌舞伎興行もこのくらい周囲を巻き込んで”お祭り”になっているともっと盛り上がると思うんだけれど。

 

 

 

 

会場内は床に座布団が敷かれている(最後方には椅子席もあり)。荷物や靴を持って座るもんだから結構狭い。もちろん脚は伸ばせないので正座、あるいは胡坐をかくことになるが、前後左右に同じ体勢の人が居るだけになかなか辛い。前の方の席だったので単眼鏡も要らず、演者の表情まで細かく読み取れる場所だったが、演目が進むにつれてどうしても脚やら腰が痛くなってきて集中するのが難しくなってくる。幸い自分は以前と比べて膝の調子は良くなったので胡坐で通したが、脚の弱いお年寄りとかはなかなか辛そうだったし、舟を漕ぐことも出来なさそう(笑)、みな自分の体勢の持っていき方に苦労していたようだ。雰囲気はいいんだけれど…。昔の歌舞伎は1日がかりだったそうだけど、今より正座をする機会が多かったとはいえ観る方も大変だったろうなァ。

「川連法眼館」は父母を慕う狐が人間に化けて主人に仕える役。所々に狐の動きが出てしまう演技が見どころ。俊敏な動きやトリッキーな仕掛けも難なくこなす勘九郎。体育館なので花道が長いのも普段と違って難しいものだろう。「二人藤娘」は有名な舞踊「藤娘」の2人版。七之助と部屋子の出世頭、鶴松が踊る。歳はもちろん七之助が上だが、振袖を着た姿、舞いや所作、体の軟らかさまで、鶴松には酷だが圧倒的に七之助が美しい。自分の目の前にやって来て客に視線を向けた時にも、”あ、目が合った”と中二病的なことを思ってしまうくらいドキッとする(オッサンなのに・笑)。美しい。

平成中村座の性格上、有名な演目ばかりになるのは仕方がないが、前回の名古屋城での公演と昼夜で2つも被ってしまっていたのは正直言って残念(ゆえに昼か夜かどちらを選ぶのかも悩んだ)。他の地でやった演目でも構わないから観たことの無い芝居が見てみたかった。それでも会場内外を含めて高校生が大活躍。自分達でかわら版を作ったり、案内に立ったり、アナウンスをしたり、会場係をしたりと初々しい。こういう興行の様子を間近で見られ、なおかつ直接参加して、面白い経験を積んだろう。

 


 

一、義経千本桜(よしつねせんぼんざくら)
川連法眼館

佐藤忠信/忠信実は源九郎狐 中村勘九郎
源九郎判官義経       喜多村緑郎
駿河次郎          中村虎之介
亀井六郎          中村鶴松
川連法眼          片岡亀蔵
静御前           中村扇雀

二、二人藤娘(ににんふじむすめ)

藤の精           中村七之助
藤の精           中村鶴松

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二月御園座大歌舞伎・十三代目 市川團十郎白猿襲名披露「三人吉三巴白浪」「 鯉つかみ」「 外郎売」「吉野山」@名古屋市・御園座

2024年02月15日 | 歌舞伎・文楽

二月御園座大歌舞伎・十三代目 市川團十郎白猿襲名披露「三人吉三巴白浪」「 鯉つかみ」「 外郎売」「吉野山」(2月12日・御園座)

コロナ禍もあって遅れに遅れた十三代團十郎襲名。襲名披露が始まってもう1年が経つが、やっと名古屋にもお目見え。御園座で襲名披露公演が開催された。同時に息子が新之助(八代目)を襲名するので揃っての来名となった。ただこの襲名披露公演、歌舞伎界の大名跡でありながら興行の方はなかなか苦戦しているとも伝え聞く。良くも悪くも話題性は十分だし、めでたい巡業なんだけれど。やはり團十郎自身の人気度に加え、コロナ禍と昨今歌舞伎界が直面した暗い話題が影を落としているのだろうか。

今回購入したのは自分の予定を鑑みて祝日に合わせたりと色々と訳あって一番遠い2階席。あまり演目をしっかりと調べず、観た事の無い「鯉つかみ」がある昼公演にしたのだけれど、團十郎が演じるのでもないし、襲名披露なのに昼は口上が無いとはうっかりしていた。ただ演目は4つもあるし、新之助が6歳で演じた時に話題になった「外郎売」もあったので昼の部もなかなか。いつもこのくらい充実した演目を揃えてくれると嬉しいんだけれど(そうはいかないか)。

 

会場は着物を召したご婦人方も多く華やいだ雰囲気。ほぼ満席だったが、超満員という訳ではなさそう。残念だったのは知らないうちに会場の建物(1階の「御園小町」含む)以外の飲食物の持込みが出来なくなってしまったこと。折角の”ハレ”の日なのに酒もダメなんだと…。他所で吟味した弁当を買って幕間に食べるの好きだったんだけれどナ。

「三人吉三」は大川端の場面から。ここに出てくる3人が全員悪党でどうしようもない不条理な話なのに人気演目として成り立っているのが面白い(笑)。特に”色悪”(二枚目の悪役)でもないし。昔の人はこういう演目をどう観ていたんだろう。七五調の台詞がテンポ良く、馴染みの台詞も出てきてとっつき易い。梅玉の養子、莟玉(かんぎょく)は相変わらず可愛らしい姿。その姿で男言葉に戻るのが可笑しい。

「鯉つかみ」は右團次。通常「鯉つかみ」は本水(ほんみず=舞台で本当の水を使うこと)なので期待していたが、流石に後の演目に差し支えるのか、今回は布とスモークで演出。鯉が出てくるのだが、歌舞伎で動物を表現する時は何故か写実的ではなくユーモラスな姿の場合が多い。この鯉も何だか間抜けな姿。右團次の大きな演技が演目の豪快さとぴったり。

幕間は座席で弁当を広げた。下の「御園小町」で購入した江戸時代創業の名古屋の駅弁屋「松浦商店」の「コーチンわっぱめし」。名古屋コーチンのそぼろは甘辛く味付けしてある。でもやっぱり観劇の時には酒が欲しいよなァ…。

さて八代目を襲名した新之助の「外郎売」。本筋では敵役の工藤祐経を演じるのは梅玉。昼の部は口上が無いと思っていたら、”劇中口上”で梅玉が新之助襲名を紹介。なるほどそういう趣向だったか。代々演じてきた外郎売、他の役者の台詞も「早口を上手にやれ」「しっかり努めろ」(意訳)と圧力たっぷりだし、会場の御婦人方は孫か、ひ孫の晴れ舞台を見届けるといった雰囲気(苦笑)。新之助は堂々と披露して大拍手を貰っていた。

さてしんがりは今回の主役、十三代團十郎の「吉野山」。静御前を演じるのは雀右衛門。前半はほぼ2人による舞踊で、実は狐という忠信の振りが所々に出てくる。自分は海老蔵時代の彼の飲み込んだような口跡(台詞の言い回し)があまり好きでは無かったが、今回観てそういう部分が無くなって大きくなっているのに感心した。もとよりどこから見たってイイ男だし(笑)。これから十八番(←この言葉も團十郎由来だ)の演目が目白押しだろうし、もっと名古屋に来て欲しいものだ。

 


 

一、三人吉三巴白浪(さんにんきちさともえのしらなみ)大川端庚申塚の場 

お嬢吉三 莟玉
お坊吉三 廣松
和尚吉三 男女蔵


二、湧昇水鯉滝 鯉つかみ(こいつかみ)

滝窓志賀之助/滝窓志賀之助実は鯉の精 右團次
小桜姫 玉太郎


三、歌舞伎十八番の内 外郎売(ういろううり)

八代目市川新之助初舞台相勤め申し候

外郎売実は曽我五郎 新之助
大磯の虎 魁春
小林朝比奈 男女蔵
化粧坂少将 廣松
遊君喜瀬川 莟玉
遊君亀菊 玉太郎
梶原平次景高 男寅
茶道珍斎 市蔵
梶原平三景時 家橘
小林妹舞鶴 萬次郎
工藤祐経 梅玉

四、吉野山(よしのやま)

佐藤忠信実は源九郎狐 海老蔵改め團十郎
逸見藤太 九團次
静御前 雀右衛門

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片岡仁左衛門 坂東玉三郎 錦秋特別公演 「東海道四谷怪談」「神田祭」 @名古屋市・御園座

2023年10月22日 | 歌舞伎・文楽

片岡仁左衛門 坂東玉三郎 錦秋特別公演 「東海道四谷怪談」「神田祭」(10月17日・御園座)

新しくなってはや5年以上が経つ「御園座」。ただ歌舞伎となるとどうも今ひとつ盛り上がりに欠けているような気がするのはどうしてだろう。先日の刈谷での公演で勘九郎や七之助も話していたが、公演中でも名古屋駅周辺ではアピールに乏しく、伏見の会場周辺でもさほど目立っていないので盛り上がりに欠けていると感じることが多い。そんな冷めた名古屋でも、W人間国宝の仁左衛門、玉三郎の共演となれば話は別。チケットの購入もいつもより大変だった(もちろん完売だとのこと)。今回も老母を連れての観劇。すぐ隣にあるいつものホテルに部屋を取って、会場入りする前に少し休ませ、いざ御園座へ。

 

全公演売切御礼なので観られるだけでもラッキー。今回はネットで粘って粘ってポッと空いた席をゲット。嬉しいことに上手(かみて)の桟敷席。実質8列目ぐらいだし、席の位置が高いので観易くて母もとても喜んでいた。

一幕目の「四谷怪談」はお馴染みの話。でも実際に歌舞伎の舞台で観るのは自分も初めてだと思う。色悪(いろあく・二枚目の悪役)を演じる仁左衛門はもう御歳79歳とは思えない立ち姿。クールな姿と台詞がかっこいいが、酷い人格の役なので憎たらしいのなんの。大して玉三郎のお岩は徹頭徹尾不幸で不憫で悲しい役。化粧も衣装もみすぼらしいが、台詞もいたたまれない。「元の浪宅の場」で終わるのだが、伊右衛門の最後の台詞が「執念深けえ奴だなァ…。」。え、ここで終わり? 調べてみると2年前に歌舞伎座で演った時にはこの後の「本所砂村隠亡堀の場」も上演したが、今回はわざと省いたのだそう(ただしその場面でも人を人とも思わない伊右衛門らの姿が描かれるだけだが…)。何ともやりきれない(苦笑)。

幕間を挟んでもまだ心が晴れないが、二幕目が始まり浅葱幕(あさぎまく)がストンと落とされると、先程まで暗くて侘しかった舞台にはパァッと明るく賑やかな神田明神が出現。極悪人を演じていた仁左衛門がいかにも粋な鳶頭の姿で登場。そして花道から登場した芸者姿の玉三郎の美しいこと美しいこと。さっきまであんなに侘しい姿だったのに…。そのギャップが大き過ぎてすっかりあちらの術中にハマっている(笑)。仁左衛門と玉三郎が絡んで踊るのだが、その所作ひとつひとつがカッコよく、玉三郎が仁左衛門と見つめあってふと明るい表情を見せる所なんざ思わず引き込まれてしまう(さっきはあんなに酷い仲だったのに!・笑)。大きい舞台からの引退を表明している玉三郎だけに、もうそろそろ観る機会は無くなってしまうのかなと思うと名残り惜しい。最後に「松嶋屋!」「大和屋!」と声がかかると割れんばかりの拍手で幕を閉じた。

 


 

一、東海道四谷怪談(とうかいどうよつやかいだん)

 四谷町伊右衛門浪宅の場
 伊藤喜兵衛内の場
 元の浪宅の場
 
お岩          坂東 玉三郎
小仏小平      中村 隼人
お梅          片岡 千之助
按摩宅悦      片岡 松之助
乳母おまき    中村 歌女之丞
伊藤喜兵衛    嵐  橘三郎
後家お弓      上村 吉弥
民谷伊右衛門  片岡 仁左衛門


二、神田祭(かんだまつり)

鳶頭          片岡 仁左衛門
芸者          坂東 玉三郎

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