チャーリー・ワッツ(Charlie Watts)が亡くなった。先日発表されたツアーへの不参加が表明されていた以前から既に具合は悪かったのだろう(死因はまだ発表されていない)。もう80歳だったし仕方がないことは分かっているが、どうにもやり切れない。ザ・ローリング・ストーンズ(The Rolling Stones)の不動のドラマーとしてミック(Mick Jagger)とキース(Keith Richards)という、どちらも最高峰のロック・アイコンといえるド派手なフロントマン2人を支え、いつも我関せずと飄々とプレイする姿が印象的だった。どんな時でも自分の才能をひけらかすことはなかったし、インタビューでも自分のドラマーとしての技量の足りなさを嘆く発言ばかりが目立った。「ロックなんて好きじゃないね。」と公言し、自分はミックとキースの為にプレイしているのだと。でもストーンズを、ロックを聴き込んでいる人なら分かる。ストーンズのようなバンドのバックでプレイするのがどれほど大変な事で、どれほど技術を擁することかを。
ストーンズはリズムの取り方も独特。過去のインタビュー記事などによるとそれはバンドが通常のようにドラムやベースを軸にするのではなく、キースの演奏を軸にしているからだという。ご存じの通りキースはいわゆる正確なタイミングで弾くギタリストではないし、リズムの取り方は自由奔放なので、おのずとバンドの演奏も普通のロックとはちょっと違うものになる。そもそもチャーリーもスネアを打つ時にハイハットを抜くクセがあるし。ストーンズのコピーバンドを聴いても全然面白くなく、カラオケなどでストーンズを歌っても誰も”キマらない”、一流バンドでさえライヴでストーンズのカヴァーを演ると”何だか違う…”のはこのバンドの独特なグルーヴがあるからだと思う。
知らない人もあるかもしれないが、チャーリーはバンドのアート・ディレクター的な役割も担っていた。映像でもステージ・セットやらアート・ワークをミックとチャーリーが担当者から説明を受けている場面が時折出てくる。当然ミック1人がやっているだろうイメージがあったので、Licksの頃だったかチャーリーも参加しているのを知った時には自分も驚いたものだ。イメージといえば、バンド内のドラッグ禍とは無縁でクリーンに見えたが、実際には随分遅れて80年代に入ってから、つまり結構な年齢になってから依存症になったのだそうだ。その為かその頃のアルバムでは実は演奏していない曲もあると聞いたことがある。
あぁ、これでストーンズはもう元のバンドには戻れなくなってしまった。ビル・ワイマン(Bill Wyman)が抜けた時にもそう思ったが、あの頃はバンドに流入したテクノロジーが既にバンド・サウンドを変えていたので、音楽的にはともかく世間的にあまり大きなダメージにはならずバンドを存続させることが出来ていた(自分には「Stripped」をビル・ワイマンと演っていたら…という妄想が残ったが)。しかし、チャーリーが抜けたというと、これは流石に…。彼らのことだからツアーはきっと実施されるだろうが、後釜のスティーヴ・ジョーダン(Steve Jordan)の跳ねるようなスネアはやっぱりストーンズとは違う。
中学生の時に初めてストーンズを聴いてから、ずっと聴き続けてきた。ほんの短い一時期(初来日の頃)を除いて軸はずっとそこにあった。幸いその間にメンバーが亡くなることは無かったが、彼らの歩んできた激動の道程や、現在の年齢を考えるとそれは奇跡的なことだったと言える。ついにこういう時期が来てしまったのか。我々ファンのみならず、同じミュージシャンからも愛されるキャラクターで、エレガントだったチャーリー。ストーンズ以外でロック・ドラムは叩かない。世界一のロックンロール・バンドのドラマーが実はジャズ・ドラマーだなんて素敵じゃないか。武道館でのメンバー紹介で、限を尽くして思いっきり名前を叫んだヨ。寂しいな。R.I.P.
Charlie Watts (1941-2021)